たぶん、庇護欲①
カリナと学園に通い始めて少し経った。
噂話をするやつはいるけれど、直接カリナに絡むようなやつはいないし、僕もカリナも平和な学園生活が板についてきた。
今のところ怪しいやつはいなくて、カリナと二人、ただ楽しく過ごす日々だ。
こんなに穏やかな毎日を過ごしているのに、犯人を見つけ出すまでは、カリナは卒業するまでずっと死の影に怯えなきゃいけない。
まだ何もしていないだろう犯人を、どうやって見つければいいのか。
カリナはクロウと聖女を見かけた時にだけ、ヴェールを使っている。
大丈夫、念のため、とか言ってたけど、あの二人が怖いみたい。
魅了にかからないことがバレないように近づかない方がいいと言ったのは僕だけど、カリナの恐怖の元はそれだけじゃないように見える。
そういえば、ヴェールの効果範囲は検証済み。
対象者が発動者を思い当たってしまうと、認識阻害の効果が薄まるみたい。
まあ、だから、認識されていないような相手だったり、群衆の中であれば、ある程度は誤魔化しが効くみたい。
まあまあ便利な魔法だ。さすがカリナ。
「あ、忘れ物した。」
「めずらしいね、私ここで待ってるよ。」
「一緒に行かないの?……まあ、忘れたのは僕だしな。誰とも接触しないでよ〜。」
「護衛様がいないからね。ヴェールしておきます。」
カリナを一人にすることに不安はあれど、はっきり言って、カリナを護衛する必要なんてないほどに、僕のお気に入りの彼女は強い。
まだカリーナの方が強いかもしれないけど、前世の記憶を持つ彼女は、僕が見たことのない奇天烈な魔法の使い方をする。
特異なその能力はいずれ、国から目をつけられるかもしれない。ピアスを外そうが外さまいが。
「あったあった。さっさと戻ろ。」
置き忘れてしまった私物に手を伸ばすと、ピンクブロンドの髪が視界に映った。
「あ、あの、いつもカリーナ様と一緒にいる方ですよね。私、ユイと言います。以前お見かけした時から貴方とお話してみたいと思っていたんですけど、いつも見失ってしまって……。」
そこには聖女が立っていた。
「あー……。僕に話しかけてる?」
やってしまった、自分が接触してしまうなんて。
「は、はい!あの、お名前をお伺いできますか?」
琥珀色の丸い瞳が上目遣いでレヴシオンを見つめる。
カリナが心配しそうだし、できるだけ関わりたくない。なるべく最低限で済まして印象を残さないようにするのがベストか。
「レヴシオン。僕急いでるからこれで。」
後ろから小さく「あっ」と聞こえてきたが、聞こえないふりをする。
ユイと接触したことをカリナに伝えるべきか。……多少嫌がるかも知れないが、知らない方がもっと嫌がりそうだ。
「僕のカリナは強い子だからな〜。」
すらっと伸びた股下は長く、すでに十分な速度で歩いていたが、気づけば歩くペースが上がっていた。
早くカリナに会いたい。
なぜだか分からないが、彼女の隣はとても落ち着くのだ。そしてそばを離れずにただ甘やかしたくなる。
実はこっそり魅了をかけていたと言われてもおかしくはない。無意識的にカリナのそばにいたいのだ。
「不思議だな。」
会った時から何故か惹かれていた。長く生きてきたが、こんなことは初めてだった。
あの日、カリナが部屋に入ってきた日。なぜかカリーナの姿を見た瞬間、胸が高鳴った。
その理由はすぐに分かった。中身が違ったのだ。
レティの説明を聞きながら、にやけそうになる口元を何度引き締めたことか。
カリナは、カリーナの身体を借りた異世界人なのだ。長く生きている自分も希少な存在ではあるが、たぶんそれより希少な存在に巡り会えた。
カリーナも十分価値の高い人間だった。
人の子とは思えないほど魔力が多く、強かった。だから、おもしろそうだから、契約した。
でもカリナに出会わせてくれたことは本当に予想外だった。その手腕には感謝するほかない。また再会する機会があれば鱗を一枚あげたっていい。
「あぁ、僕のカリナ。」
狂おしいほどに愛しい彼女が待つベンチが見えてきた。
……カリナがいない。
待つのに飽きて、もしくは何かに興味を引かれて近くに移動したのかもしれない。
辺りを見回す。が、愛しいその姿は見当たらない。
「えー、どこに行ったのさ。」
仕方なしにカリナの魔力を探す。
「サーチ。」
100m、200m、300m……。
距離を延ばしてみるが、いない。
待っていると言った彼女が、その場に残らず大きく移動するというのは、よっぽどのことがあったに違いない。
さらに探索の距離を延ばす。
「いた。……だいぶ遠いな。」
歩いて移動できる距離ではない。馬車か何かに乗っている?
追いかけるための移動手段に悩みながら歩を進めると、カリナが身につけていた靴が落ちていた。




