7話 その聖女、使節団と面会する
「キャンドルド聖神国、ですか?」
朝、公務を終えた私に陛下から話があると声が掛けられた。
そして言われたのがかの国の名前だった。
確か、聖神国としてもっとも有名な国だったはずだ。
「ああ。我がグレノスとは建国時から関係のある国でな。かの国は小さいが聖神国として一目置かれている場所だ」
聖神国とは神の教えを忠実に守り第一に重んずる国のこと。
それ故、王ではなく大神官が国を治めている。
「その国から使節団が派遣されることとなった」
「使節団……」
「ああ。今回の目的はイレーネをグレノスの正式な聖女と認めてもらうことだ」
聖女を擁する国は聖女が見つかり次第、聖神国に報告。正式な手続きを結ぶことで国に属する聖女と認められるようになっている。
「これが認められればイレーネの守りも内外共に整うからな」
聖神国に認められた聖女は魔物の異常発生や世界的飢饉や病の流行があった際、聖神国からの要請で現場に向かい神の力を解放する義務を負う。
その代わり聖女の存在を把握、周知することで聖女を狙う者全てから守りやすくするのである。
この際聖女には探知魔法と保護魔法が掛けられ、万が一の事態が起こった時にはすぐに居場所が特定できるようになる。
要するに聖女の保護を徹底するための手続きである。
「イレーネの安全の為には必ずやらねばなるまい」
「で、ですが……」
セイア王国では正式な手続きをした覚えがない。
言い換えてみれば、国からは聖女として認定するほどの能力はないと思われていたのだ。
だからこそ私はクレア様の付属品扱いだった。
「……そんな私がグレノス公国の聖女でよろしいのですか?」
思わず口をついて出てしまう。
慌てて手で口を抑えるがしっかりと聞かれてしまったようだ。
「なんだ。まだ不安だったのか」
「あ……申し訳……」
「いいや。君の不安ももっともだろう。だからこそ早く正式にこの国の聖女と認めてもらおうと思ってな」
陛下は困ったように笑いながら私の隣へと歩いて来た。
「不安にさせて済まない。だがこの国の聖女はイレーネ。君だけだ。それにこの国の者達の歓迎ぶりを見ただろう?」
「……はい」
「今更他の聖女を取ろうなんて思う訳がないさ」
頭の上に手を置かれて撫でられる。
陛下は私が不安がっているといつも頭を撫でて安心させてくれる。
私は彼に撫でられるのが好きだった。
大きな手に包まれるとそれだけで不安なんて飛んで行ってしまう。
「ありがとうございます。陛下」
「お安い御用さ。それよりも……」
「?」
「その、だな」
陛下は珍しく言いよどみ顔を赤く染めている。
何か粗相をしてしまっただろうか。
「その、名前……」
「名前?」
「あ、ああ。陛下じゃなくて……」
目をきょろきょろとさせる陛下。
私は何を言われるのか緊張した面持ちで続く言葉を待つ。
「じゃまするわよーー!!」
「「!!?」」
突然執務室の扉が開いて小柄な女性が入ってきた。
10代後半くらいの少女のようだが、陛下を狙ってきたのだろうか。
慌てて陛下を庇うように前に出る。
見れば上は修道服のような格好の女性だ。
だがその足には短剣が携えられ、短パンをはき、足も惜しげもなくさらされている。
どこか戦闘職の様な格好だった。
「ん? ああ! あなたか!! 会いたかったよー!!」
「きゃあ!!」
女性は私を見つけるなり飛びついて来た。
「うう、ぐす。ごめんなさいね。もっと早く気が付いていれば……」
「ええ!?」
(な、泣いている!!)
女性は号泣していた。
肩越しでもわかる程鼻声で、肩に熱いものが落ちてきているのもわかる。
当然私は困惑して固まってしまった。
「ええ、と。泣かないでくださいませ。な、何故泣いていらっしゃるのですか?」
「!! な、なんて事なの!? 優しすぎる!! いい子過ぎる!!」
女性は体を離し私の顔を見てさらに号泣した。
「え、ええと?」
「おいこら。いい加減離れろ。イレーネが困惑しているだろうが」
陛下が私と女性の間に入り込んで引き離す。
「ちょっとせっかく人が感動してるってのに邪魔しないでくれるかしら?」
「いつものことながら、いきなりすぎなんだ。もっと段階をふんでくれと言っているだろう」
陛下と女性の間で火花が散っている。
一体どうすれば。
――コンコン
部屋のドアがノックされ、ルスラン様が入ってきた。
「失礼いたします陛下。使節団の皆さまがご到着いたし……ああ。既に始まってますか」
ルスラン様はこの場を一瞥して頷いた。
「ル、ルスラン様」
「イレーネ様。僕に敬称は不要ですよ。どうぞ呼び捨てになさってください」
やんわりと窘められた。
(そうでした。陛下以外に敬称は不要と言われていたのでした)
私は恐る恐る敬称を外す。
「る、ルスラン?」
「はい」
ルスランが微笑んでくれたことに安堵して質問を口にする。
「ルスラン、あの方は一体どなたなのです?」
「ああ、あの方は『朝の聖女』様ですよ」
「あ、朝の!?」
何ということだ。
「朝の聖女」様と言えば私でも聞いたことのある、世界の聖女様の中でもトップクラスの実力を誇る方ではないか。
「朝の聖女」様の力は「浄化」。
魔素溜まりが見つかれば浄化を施し魔物の発生自体を減らすことのできる方。
彼女はキャンドルド聖神国の代表聖女で、世界中を飛び回っていると聞いたことがある。
私は慌てて挨拶の為に手を組んだ。
「『朝の聖女』様にご挨拶いたします。私、『夜の聖女』イレーネと申します」
そう言えば陛下と朝の聖女様はこちらへと向き直った。
「うん。話は聞いているよ。初めましてイレーネ様。朝の聖女、ルイ・シャルロッテと申します」
ルイ様も聖女の挨拶を返してくれた。
「あなたにずっと会いたかったの!」
「わ、私に、ですか?」
「ええ、そうよ! あなたの話を聞いてからずっとね! ……それにしても酷いわ! 信じられない!」
ルイ様はぷりぷりと怒り出す。
随分と表情の豊かな方だ。
「聖女の存在を報告しないどころか不当に扱うなんて!! もう!! もう!! うう……」
また泣き出してしまった。
「とりあえず使節団のもとに行きましょうか」
何が何だか分からない私はルスランの言葉に従い、使節団の待つ部屋へと移動した。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
「面白そう・面白かった」
「今後が気になる」
「キャラが好き」
などと思っていただけた方はぜひとも下の評価機能(☆☆☆☆☆が並んでいるところ)から評価をお願いいたします!
おもしろいと思っていただけたら星5つ、つまらないと思ったら星1つ、本当に感じたままに入れてくださるとうれしいです。
また、ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
皆様から頂いた時間や手間が作者にはとても励みになりますので是非とも!宜しくお願い致します!!




