34話 罠
国王はそんな私を知ってか知らずか、武勇伝を聞かせるかの如く話を続ける。
「15年以上かけてようやく傑作を生み出せた時は心が踊ったよ。後はそなたを覚醒させれば悲願が叶うとな! ……それなのにクレアとガイアのあほ共は我に相談もなくそなたを国の外に出しおって。さすがに我も肝が冷えた。まあ今こうして力の強くなったそなたを連れてこられた故、結果的には我の役にたったのだがな」
「!! それじゃあクレア様達を襲った何者かって」
私の脳裏に最悪なシナリオが思い浮かぶ。
聖女が殺されれば聖神国が動く。
捜査が始まれば一番に疑われる者から真実の聖女の元へと向かうことになる。
そしてそれは……。
「ご名答。そう。聖女と王子が死ねばいくら大公と言えども出向かなくてはならなくなるであろう。我はなそなたについて回るあやつが邪魔で邪魔で仕方がなかったのだよ。いくら魔物の力があるとはいえ世界最強と謡われる奴がそなたの傍に居たら計画に支障が出るからの」
「っ!!」
つまりは全てはこの男に仕組まれたことだったのだ。
クレア様達が死んだのも、ルドニーク様が疑われることになったのも、瘴気を放つ赤い石が出現したのも。
すべては私をおびき出すための罠。
初めから私を狙って引き起こされたことだったのだ。
「まあとはいえ大公以外にセイブリアにこれだけの傷を負わせることのできる者がおったとは少々予想外だったな」
国王はセイブリア王子をしげしげと眺める。
「うむ。あの女騎士とメイドならばよい依代となろうな。その次は公国を攻め滅ぼし全ての民を魔物に変えてやろうぞ。奴隷を売る国を潰された恨みがあるからの。楽しみだ」
「!!」
ひどくウキウキとしているのがわかる。
この人は本当に人の命に興味がないのだ。それどころか消耗品とすら思っている。
(この人は放って置いたらダメ。絶対に)
それはもはや使命感のようなものだった。
今まででさえ被害者を沢山出しているのに、私がここで食い止められなければその被害はたちまち全世界に広がるだろう。
そうなれば悲劇が悲劇を呼び、人々に平和など訪れるはずもない。
(それに何より公国の皆に手を出そうとしている。それを私が許すわけにはいかない!)
私の中に熱い何かが廻りだす。
その衝動のままに叫ぶ。
「そんなこと絶対にさせないわ!! あなたは私が絶対に止める!」
その瞬間、月の光など届くはずもない地下にまばゆい光が降り注ぎ私を包み込んだ。
温かい光。優しい光。
まるで誰かに抱きしめられているようだった。
『あなたに背負わせてしまってごめんなさい。どうか、どうか止めて。この世界を、理をどうか守って』
あの時聞こえたどこか懐かしい女性の声が聞こえた。
泣いているように震えている声は、それでも懸命に私に言葉を届けようとしている。
(大丈夫よ。絶対に止めるから。たとえそれが私の命と引き換えになったとしても)
恐らくはこの声が初代聖女様のものなのだろう。
あの時彼女が急いでと告げた理由が分かった。
(これ以上悲しみが連鎖しないように。犠牲を出さないように)
私は廻る力をおとなしく受け入れた。
見えるのは彼女の記憶。
大魔を封じた時の記憶だ。
『大魔は私の矢に貫かれて玉に封印された。でもあれは貫かれているとき、最後のあがきで災厄をまき散らした。私はそれを吸収することでしか世界を守る術を知らなかった。でもすべてを防げたわけじゃなかったの。受けきれなかった災厄は地に落ちて魔物になった』
それが現代にまで至る魔物の経緯。
『消滅まで追い込めればよかったのだけど、封印までしかできなかったの。封印が弱まれば必ず大魔は出てこようとする。それが分かっていながらも後世に託すことしかできなかった私を憎んでくれてかまわない』
私を包み込む光に手を回す。
どうかそんなことを言わないでと願いを込めて。
「大丈夫よ。この世界を守りたいのは私も同じ。大切な人を、場所を、生活を守りたいの。私には守るべき大切なものができた。だから絶対に滅ぼさせはしない」
『……ありがとう』
光が微笑んだ気がした。
私の中に溶け込んでくる。
いつの間にか、私の手には三日月を思わせる弓が握られていた。
初代聖女様が使ったという弓だろう。
不思議と使い方がわかる。
私は光が完全に収まる前に矢の番えられていない弓を引き放った。
飛んでいくのは光の矢。
私の祈り、願い、そのすべてが詰まった矢は迷うことなく国王の持つ災禍の玉へと吸い込まれていく。
――キイイイン
その矢は国王ごと災禍の玉を貫いた。
「ぎゃあああぁぁぁあぁあ!!!!」
国王の絶叫と重なるように地を這うようなうめき声が上がる。
大魔が苦しんでいるのだ。
祈りを、願いを。
私の持てるすべてを、今この時に解放する。
「はあああああ!!!!」
矢を中心に銀色の光の膜が生まれ、国王をのみ込んでいく。
その足元には大きな三日月の文様。
それがゆっくりと満月に向って動き出した。
封印の術が作動し始めたのだ。
あれが望月になるころ、術が完成し災禍を祓うだろう。
「くそっ! セイブリア!! 今すぐそいつを殺せ!! さっさとせんか!!」
「!!」
国王がセイブリア王子に命を出した。
いつの間に檻の中に入ってきていたのだろうか。
気が付いた時には既に白刃が迫っていた。
だが、今術を止める訳に行かない。
私の術が完成するのが先か、彼の剣が私を切り捨てるのが先か。
それはきっと剣が届く方が早いだろう。
けれどこの術式だけは切られたとしてもやめる訳にいかないのだ。
(ああ、ルドニーク様。ずっとお傍にとお約束したのに申し訳ありません)
最期に思うのはやはり最愛の彼のことだった。
私は手に力を込め、目を瞑る。
左手のシルバーリングが熱を持った気がした。
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