31話 その聖女、役目
ルドニーク様がこの国を去ってから1週間が過ぎた。
その間私は国の業務を一身に負う。
増えた交易先とのやり取りや国防、もちろん聖女としての業務もこなしている。
「もうそろそろルドニーク様は聖チアーノに着いたかしら?」
忙しい業務の間に思うのはいつだって彼のこと。
彼に貰った指輪を見ては気合を入れ直す毎日だ。
きらりと淡く光る紫色の光。
これを見ていると不思議なことにルドニーク様が傍にいるような気がするのだ。
きっと彼の魔力も紫色だからだろう。
「……よし!」
やることは山積みなのだ。
感傷に浸っている場合ではない。
ルドニーク様は私を信じて国を任せてくれたのだ。
その思いに応える為にも、彼の帰る場所を守らなくては。
気合を入れ直して机に向き合う。
今日も朝からいろんな書類が私の元に届いているのだ。
「失礼します」
「ミルテ」
やってきたのは私の生活に合わせて朝から晩まで働きづめのミルテだった。
一体いつ休んでいるのか心配になる。
その目元にはうっすらと隈ができていた。
「あなたまた夜も起きていたでしょう? せめて夜は休んでと言ったじゃない」
「ですが夜は警護の使命がありますので」
何度言ってもこの調子だ。
「それよりご報告です。東の森の方から魔物のうめき声が聞こえたと」
「またなの?」
結界のおかげで夜の間は魔物の侵攻を無効化できるとは言え魔物が日中に動かないという保障はないし、依然として魔物の発生が多い地域ということは変わらない。
こうした魔物の報告はこの国にはつきものなのだ。
「とはいえここ数日多すぎやしませんか?」
ルドニーク様が国を空けてからの報告件数が既に20件以上。
魔物は基本的に夜型が多いとされているはずなのに、ここ最近報告に上がってくる魔物は日中に活発になっている。
その都度討伐隊を向かわせているおかげで今は被害は出していないが、これだけ頻繁に向わなくてはならないとなればそれもいつまで持つか分からない。
私はこめかみを押さえる。
「そのことですが、少しばかりおかしいかと」
ミルテの差し出す報告書に目を通す。
そしてその内容に目をむいた。
「魔物が群れを……?」
「はい。討伐に向った軍による報告なので間違いないかと」
魔物は基本的に単独で行動する。
それは獲物を分け合うことなく独占するためだとも、魔物同士が争い合うのを防ぐ為とも言われているが本当のところは分からない。
ただ魔物はあまり知能がない為、獲物と魔物の違いも分からずどちらも襲うのではないかと言われている。
「そんな魔物が群れを作るなんて……」
「それからもう一点。魔物の群れの奥に赤い狼の様なモノがいたそうです」
「赤い狼……」
「はい。他の魔物はあらかた倒したのですがその赤い獣だけはいつの間にか消えていたと。そしてそれがいた所を調べると赤黒い石が落ちていたと」
「……」
なんだか嫌な予感がする。
普段の魔物と明らかに違う動きをする魔物の集団。
それを統率するかのように現れた赤い獣。
そして証拠を残すかのように見つかった赤黒い石。
得体のしれない何かが起ころうとしている前兆のようなそれらに心がざわりと波立つ。
「それで、その石はどうしたのです?」
「聖魔導士が調べた所、魔素溜まり程ではありませんが瘴気を放っているようで、近づいた数人が軽傷です。それ故石の回収はできなかったと」
「そう……」
瘴気を放っているのなら放っておくことはできない。
それも国の近くの森ならばなおさら。
朝の聖女ではないので浄化の力は使えないが、石の周りに結界を張っておけば瘴気を留めることができるだろう。
そしてルイがルドニーク様と共に戻ってきたら浄化してもらえばよい。
「わかりました。では月が出たらその場に行きましょう」
「夜に国を出るのは危険では? 魔物がまだいるかもしれません」
「大丈夫よ。魔物だったら私の結界で消滅するはずだから」
ミルテは尚も心配そうにしているが瘴気が大きくなる前に手を打たなくてはならない以上私が向かうのは避けられない。
それが聖女の役目なのだから。
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