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28話 その聖女、知らせ(1)

 



 その日は夜明けから分厚い雲が空を覆ってしまい日の出を見ることができなかった。

 雲は人が起きだす時間になっても一向に晴れず、むしろ厚みを増してどんよりとした空気を運ぶ。


(ずいぶんと重苦しい天気ですね……ひと雨きそうです)


 私はそんなことを考えつつ、公務を終え部屋に戻る。


「ん?」


 その途中、何やら城の入口の方が騒がしいのに気が付いた。

 兵たちがドタバタと走り回り、何やら怒号のようなものまで聞こえる。


「わたしが見てきましょう」


 私についていたミルテが様子を見にいってくれる。

 その時ざわめきの中から人影が一つ飛び出してきた。


 布か何かを頭から被っていて顔が見えない。


 どう見ても変質者である。


「っ!?」


 一瞬だけ慌てたミルテだったがすぐさま剣を抜き構える。

 躊躇ちゅうちょなく振りぬくがひらりと宙を舞う人影をとらえきれない。


「何者だ!? どうやってこの城に入り込んだっ!」

「ちょっとごめん! 今それどころじゃないの!!」


 可愛らしいソプラノの声が聞こえた。

 聞き覚えのある声だ。


「っえ。その声、もしかして……ルイ?」

「うん! そう! 大変なのイレーネ!!」


 頭に絡みついていた布がするりと落ちると久しぶりに見るルイの顔。

 だがその顔は酷く険しく緊迫きんぱくした空気をかもし出していた。


「も、申し訳ありません。ルイ様だとは思わず剣を……」

「あーー! そんなこといいから! とにかくルドニークのところに早く行かなくちゃ! あなたたちもきて!!」


 謝ろうとしたミルテを片手で制したルイはすぐさまわたしの腕をひっぱり執務室へと走り出す。

 その顔があまりに真剣で、私は何も言えずについていくだけだった。




 ルイは執務室のドアを勢いよく開く。


「ルドニーク!? いる!? いるわよね!!?」

「どわあ!? ルイか!? お前なあ、毎回いうが伝令兵より先に……」


 ルイに対して苦言を呈しようとするルドニーク様をルイの急いた声が遮る。



「今それどころじゃないの!! 火急かきゅうの連絡よ! 聖チアーノ収容所しゅうようじょからお招きがきているわ」



 ルイはそれだけ言うと肩で息を吐き出した。

 その荒い息遣いだけが部屋にこだまする。


 私もその言葉に眼をむいた。


 聖チアーノ収容所と言えば、よほどの罪を犯した者が入るとされている監獄かんごくとして有名だ。


 その収容所のお招きとは一体どういうことなのだろうか。


「どういうことだ?」


 ルドニーク様も初耳の様で驚きつつもすうっと目を細めた。



「昼の聖女とセイア王国の第一王子が聖チアーノ収容所に収容されることになったって話は聞いているわよね? つい先日、その身柄を護送している最中、その護送車が何者かに襲われたの」


 ルイの口から語られることは、私の想像を越えていた。

 あまりにも衝撃的すぎて口を開けたまま呆けてしまう。


「連絡が途切れたし到着予定の日になってもまだ来ないことから調べにいった聖チアーノ収容所の職員が現場を見つけたそうよ」



 話によれば、護送中の者達は一人も残らず全滅。

 その現場は魔物の出現率も高いエリアで食い荒らされた形跡があったらしい。



「それだけなら魔物に襲われたってなるんだけど護送の任につく者は戦闘能力も高く、ただの魔物にやられるとは思えない。何より残されてた遺体には刺し傷があることから付近を捜査したらグレノスの文様の付いた短剣が出てきたって話よ」



 息を切らして早口に告げるルイは、聖神国に情報が入ってきてすぐにこちらへ伝えるために休みなしで馬を走らせたようだ。


 聖チアーノ収容所は聖神国のいくつかが合同で管理している為、他の国に情報が伝わるよりも早く情報が手に入ったのだという。



「一先ずこの事件は聖チアーノ収容所及び聖神国預かりになるわ。下手すると2国間のいさかいに発展しかねないし、聖神国としても聖女が殺害されたのなら動かないわけにはいかないからね」



 ルイはやっと息が整ってきたようで、一つ大きく息を吐き出した。




「ってことなんだけど、結局陛下がやったの?」

「やってるわけあるか! なんでわざわざ聖神国を敵に回すことしなきゃならないんだ」

「まあだよね~。そうだと思った~」


 急に口調が変わって、私はぽかんと口を開けてしまった。

 いつもの2人の空気感である。


 先ほどまでの緊迫感などきれいさっぱり消えていた。



「え? え? どういうことです?? ルイはルドニーク様を心配してここに来たのでは?」


「あはっ! イレーネったら可愛い! あたしが陛下を心配とかないない! だって放っておいてもどうにかするからね。心配だったのはあなたよ! だって物騒なことが起きているし、友人のあなたも疑われているし。まああたしはイレーネがやったなんて思ってないわけだからこうやって先に伝えに来たんだけどね!」


「ええ……?」


 それはそれでどうなのだろうか。


 どんな反応をしたらよいのかまったくわからない。


 ルドニーク様の心配をしてくださいと怒るべきなのか、自分の心配をしてくれたことを喜ぶべきなのか。

 とりあえず曖昧あいまい微笑ほほえんで続きを促すことにした。



ここまでお読みいただきありがとうございました!


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