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25話 その聖女、交流

 



 会場の重厚じゅうこうなドアが開かれ入場する。

 途端に視線の雨が降り注いだ。


 ルドニーク様にエスコートされる手に力が入る。


(いけない。平常心よ)


 私はその圧に耐えながら笑みを向ける。


 招待客のすべてが私たちに向かっているのだ。

 さすがは国を動かす立場の者達。

 その視線は私たちの一挙一動をみて今後友好な関係を築くに値する国かを見ている。


 だが敵意の視線やあざけるような分かりやすいものではない。

 巧妙こうみょうに笑顔の裏に隠しながら見極めているのだ。


「皆さまよくぞお集りいただきました。私がグレノス公国の大公、ルドニーク・グレノスです。そしてこちらが大公妃であり夜の聖女であるイレーネ・グレノス」

「よろしくお願いいたします」


 壇上に登ったルドニーク様の挨拶が響く。

 声は拡声魔法で会場中に響くようにしているのだ。


「以前よりご交流のある方も、初めてお会いする方もおられますが、まずは御礼申し上げます。皆さまのおかげで本日という善き日を迎えることができました。――……」


 挨拶は滞りなく進んでいき、終わりを迎える。


「では皆さま。心ばかりではございますがぜひパーティーを楽しんでいってください」


 その言葉が終わると、一斉に魔法使いたちが空中に花を咲かせる。

 これは初めに街にいった時にグレノスの民がやってくれたことだ。


 私はあの時大層心が躍ったので、他国の方にも見てもらいたかった為取り入れた。


 カラフルな花弁が空中をくるくると舞い上がる。

 その花びらは魔法で見るたびに色が変わったり、寄り集まって花束になったり、花本来のよい香りを届けた。


 ワッと上がる歓声。

 気が付けば楽団がしっとりとした音楽を奏でだしている。


 会場は一気に華やかだが落ち着いた空間になった。


(掴みは上々ですね!)


 私はそこでようやく一つ息を吐き出せた。


 今からは自由時間だ。

 だがこの時間にいかに交流を広げられるか、それにグレノスの繁栄もかかっている。


 それにせっかく来てもらったのだ。

 楽しんでいってほしいし、もてなしを存分に味わってもらいたい。


 私は小さく息を吸い込み気合を入れ直した。



 ◇


「夜の聖女様、お初にお目にかかります。わたしギャリー王国の第2王子ライヤードと申します」

「ようこそいらっしゃいました。使節団の方々にはお世話になっておりまして、お会いしてみたいと思っておりました。今日のお召し物も特産のシルクが使われているのですね。とってもお似合いですわ」

「おお! お分かりになりますか!」



「素敵なパーティーですね。あたくし花の聖女のマリアデネーネと申します。お会いできて光栄ですわ!」

「ありがとうございます。私も花の聖女様にお会いできてとても嬉しいです! 確か花の聖女様はどんな植物でも育てることができる聖女様でしたよね。とても素晴らしいお力ですね」

「まあ! 夜の聖女様に存じていただけていたなんて!」



「夜の聖女様! 聖物を送ってくださり感激です!」


「おかげで道中安心して進めました!」




 あれから私は30分ほどいろいろな人とお話をしていた。


 この日の為に招待客は全員暗記していたし、それぞれの国の特産品や聖女様方の能力なども合わせて覚えていた。

 そのおかげで随分と話がスムーズに行っている。


 各国の要人たちはそれを見て感嘆かんたんの声を上げてくれた。



「いやはや噂に違わぬ聖女様ですな。大公陛下も自慢でしょう」

「ええ、とても」


 私から少し離れた所でルドニーク様はまた別のグループに囲まれていた。

 会場の雰囲気も初めは交流に値するかの見極めでピリついていたが、今は和やかな雰囲気だ。


 ルドニーク様の会話が聞こえてくる。


「この会場のセッティングや皆さんを驚かせた花嵐も彼女の発案なんですよ」

「なんと! あれには私も驚かされましたよ。そういえばグレノス公国には魔法使いが多くいらっしゃるとか。これもその魔法によるものなのですか?」

「ええ。わが国には優秀な魔法使いがおりますので。その力を彼女がうまく伸ばしてくれているのです」


 ルドニーク様がこちらを見た。

 ちょうど私もルドニーク様を見ていたタイミングだったのでバチリと目線が合う。


 薄く微笑まれて心臓が高鳴る。

 いつも向けられている視線のはずなのに、何故だかくすぐったい。


 たぶん今日のルドニーク様がめかしこんでいて格好いいのも原因の一つだろう。


 私は少し見惚みとれて微笑みを返して顔をそらした。



「はっはっは。お互いに大切に思っているのが伝わってきますなぁ」

「ええ。私にとっては何よりも大切です。彼女には末永く幸せでいてほしいですね」

「おお……」


 恥ずかしげもなく言ってのけるルドニーク様に周囲はざわついている。

 私は余計に顔に熱が集まってきた。


「いやはや……良い聖女様をお迎えしましたな。……いや大公妃様とお呼びした方がよろしいかな?」

「そうしていただけると嬉しいですね」


 極めつけだと言わんばかりの内容が聞こえてくる。

 私を囲む女性たちが色めきだった。



「ちょっと聞きまして? イレーネ様! 大層愛されていらっしゃいますね!!」

「羨ましいですわ。あんなに素敵な大公様にあそこまで思われているなんて!」

「なんて素敵な愛でしょう!」


 そんな声がいくつも集まる。

 あまり本音を見せるべきではないというのは分かっているのだけど、顔が熱くなってしまうのは仕方がない。


 会場にほんわかとした空気が流れた。




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