24話 その聖女、色
ついにパーティー当日がやってきた。
「きゃー!! イレーネ様とっても素敵ですよぉ!!」
「本当にお美しいです!」
「そ、そうかな?」
私は急ピッチで支度をしたところだった。
カリンとミルテの手により仕上げられた私の姿が鏡に映し出される。
涼やかな青色と白を基調にしたドレスは聖女としての気品を醸し出す胸元に切り返しのあるロングドレス。
その色はルドニーク様の瞳の色だ。
首には透き通った輝きを放つアクアマリンが付けられ、化粧も透明感を前面に押し出しながらも華やかさを足されている。
髪は纏められ青い花のアクセサリーが彩を添える。
ちなみにルドニーク様の衣装も同じ色。
全身で自分たちがパートナーだと主張しているようなものである。
前回のパーティーでもそうだったが、ルドニーク様はご自分の持つ色を私に着せたがる。
(うう、ルドニーク様に包まれているようで落ち着きません……)
だが嫌ではない。むしろ嬉しい。
だからやめてほしいけどやめてほしくないという葛藤を抱いていた。
「ええ! きっと会場中で一番おきれいですよ~!」
「ええ、間違いないです」
「それは言いすぎですよ。でも、お二人の腕のおかげです。ありがとう」
お礼を告げるとほんわかした空気が流れる。
その時コンコンとドアをノックする音が響いた。
「イレーネ支度はいいか?」
「は、はい! 今行きます!!」
ルドニーク様が迎えに来てくれたようだ。
ドアを開いてもらうとそこにはお揃いの衣装に身を包んだルドニーク様がいる。
彼は私を見ると僅かに溜息を零した。
「……きれいだ」
ぶっきらぼうにそれだけ言うとスイっと視線を外してしまう。
何か気に入らなかったのかと思い見つめれば、ルドニーク様の耳と首筋が赤く色づいていった。
(もしかして、照れている?)
そう考えるとちょっとした悪戯心が顔を出した。
ルドニーク様が背けた顔を覗き込む。
予想通り顔全体が真っ赤っかだ。
「ルドニーク様。……お揃いですね?」
「……ああ」
覗き込むと今度は逆を向く。
どうしてもその顔を見せないつもりだろうか。
何度か顔を見ようと覗き込んでみたが全てうまくいかない。
むっとした私は少しだけ攻めてみることにした。
「……ルドニーク様のお色ですね?」
「う」
「ルドニーク様に包まれているようで私は嬉しいですよ?」
「うう」
ルドニーク様はちらりとこちらに顔を向ける。
そして素晴らしく大きな溜息を落とした。
「はあぁ。……君なあ。煽るのはいいがそれはパーティーが終わってからにしてくれ。でないとオレの理性が持たん。そうなれば困るのは君の方だぞ」
意趣返しのように耳元でささやかれ今度は私が赤面する番となってしまった。
グレノスに嫁いできて既に半年。
最初は私の回復に時間を割いてくれていたので夫婦らしいことはしていなかった。
だが最近、大公妃としてのお勤めもしなくてはと思うようになった。
意識をしてしまえば今言われた内容を深読みしてしまい恥ずかしくなってしまう。
「はは、すまん。冗談だ」
「も、もう!」
ぽかりとルドニーク様の胸板に拳をおく。
その手を取って包み込まれる。
「君さえよければいつでも待っているぞ」
「っ!!」
ルドニーク様の目は真剣そのもの。
その奥にとろりとした熱を見つけさらに顔が熱くなった。
「はいはーい。陛下達そこまでにしましょうねー。これからパーティーが始まるっていうのに二人がいなくなったら困るでしょ~?」
明るいソプラノの声が横から聞こえた。
驚いて横を向けばあきれ顔のルイがいる。
「えっ!? ルイ!?」
「はいはいルイさんですよ~。パーティー前に挨拶だけと思って来たんだけど、お邪魔だったかしら」
ルイは大袈裟にやれやれというポーズをとって茶化してくる。
「だっ、あ、っち、違うのです!! これは」
「いやいや~本当にお熱いな~。このへん本当に熱いわ~」
「ですから!!」
羞恥心が天元突破した。
真っ赤な顔のままルイへと歩み寄る。
ルイは意に介した様子もなく、今度はルドニーク様をいじりにかかる。
「それにしてもこのドレス、素敵だけどルドニークって感じね。いやほんと」
「うるさいな。別にいいだろう」
「だめとは言ってないわよ。ただドレス見ただけであなたのものだと主張しているのがわかるって相当よ? 牽制のつもりなんだろうけど、これが交流目当てのパーティーだってこと忘れないようにしなさいよ」
ルイにまで指摘されるほどのようだ。
私はその言葉にまた顔を赤く染める。
「最初にわかりやすく示しておいた方が良いだろう? イレーネがどんな立ち位置にいるのか」
ルドニーク様は至極当然という顔でそう言い放つ。
一瞬だけぽかんとしたルイはお腹を抱えて笑い出す。
「あはははは! あなた本当に昔に戻ったみたいになったわね! ひー! おっかしい!!」
「うるさい。イレーネがらみの時だけだ」
「ははは! そう。それじゃあもう心配いらなさそうね。イレーネのおかげだわ」
ひとしきり笑い終わったルイは涙を拭いて穏やかに笑った。
その表情からは安堵感が見て取れる。
「精々愛想をつかされないようにするのよ?」
「当たり前だろう」
「え!? いえ愛想をつかすことなんてないです!!」
聞こえてきた言葉に反射的に反論してしまった。
二人が一斉にこちらを振り返る。
ルドニーク様は顔を赤らめながら、ルイは顔を輝かせながら。
言った後にしまったと思う。
ルイのあの顔は絶対に楽しむ気満々な顔だ。
「イレーネちゃん! いうようになったねぇ!! 今日のイレーネちゃんとっても素敵よ~!」
「イレーネ”ちゃん”!?」
「いいねー。素敵だねー! 二人の子供を見るのが今から楽しみだわ~!」
「こ、子供!?」
私は終始ルイのペースにのせられてしまう。
それがなんとなく悔しくてつい口にしてしまった。
「そ、それを言うのならルイとガイさんの方が……」
「あ、おいイレーネ! それは不味い!!」
ルドニーク様が焦った様子で止めに入る。
しまった人様の込み入った事情に突っ込んでしまったのだろうか。
慌ててルイの様子を伺う。
ルイは予想に反して満面の笑みだった。
「え? きく? 聞いちゃう??」
どう見てもウキウキな表情。
聞いてほしくて仕方がないといった様子だ。
「おいルイ。今そんな時間ないからな? 分かってるだろうな?」
「分かってるよー。もう。残念だけどイレーネ、今日は語ってる時間はないみたい。また今度聞いてね! さて、と。じゃああたしはそろそろ会場に行こうかな」
ルイはそう言うと手を振りながら去っていった。
ルドニーク様が疲れた顔で傍に寄ってくる。
「あいつはな、ガイとの話を誰かに聞いてもらいたくて仕方がない奴なんだ。捕まるとすごく長いからああいう話はふらない方がいい」
「ああ……」
あの様子からして大体の事情が分かった。
恐らく昔からルイの話を延々と聞かされたのだろう。
「……でもそこまで思い合えるってすごいことですよね。私も……」
「ん?」
「!! い、いえなんでも! それより私たちもそろそろ準備をしないと!」
危ない。面と向かって私もそんな風になりたいだなんて言ってしまいそうになった。
まだそれをいう勇気はない。
でもいつか必ずこの思いを告げよう。
私はそう決心して部屋を後にしたのだった。
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