第八十四話 感情の行き先
山城歴157年 進入禁止宙域 合流ポイント
離脱した閃光型駆逐艦は合流する予定のポイントで蒼鷹を待ち続けていた。
彼ら二人を置いて帰ることなど考えることもせず、様子を見に行ったというクリュの安否をしきりに気にしている隊長の護は、司令官席からレーダー機器に目を離さず待機している。
その間に交代で艦長、副艦長や隊員たちの休息時間を取ったが一向に蒼鷹らが到着する気配はなく、敵艦の存在も確認できない。
「……少し休め護、お前が待っていたからといって結果が変わるわけじゃない。」
「そうそう、交代交代! あいつらが戻ったらすぐ動けるように頼むぜ。」
「わかったよ……。」
護が元気の無さそうな浮き方で席から離れ、ブリッジのドアから出ていく。
それを見送った旧友の二人は相談を始める。
「蒼鷹がもう一機あれば探しに行くんだけどなぁ……。」
「それで敵艦と鉢合わせになっても困る。」
「今の俺たちも何にもできないっていう状況を把握しておとなしく待っている護を見習うべきか? はぁ~蒼鷹の二人は本当に大丈夫なんだろうか……なんか珍しく慎重だな松浦。」
「あいつらの心配はいらないと太鼓判を押したのは俺だ、だが艦にとっての限界も近い。最悪自力での帰還命令を出して撤退することも考えなければ、いつまでもふざけてはおれん。」
「任務完了までの期日とか物資とか予算とかもう色々まずいですからね……。」
「結衣さんも元気ないな、越権行為のことなら気にすんなって、たぶん真希さんなら言われなくても行ってるよ。」
「大いにありえるな。」
相談している人数は三人となり反省や可能性の議論を繰り返すがその間、蒼鷹の反応はなかった
喋り疲れた二人が沈黙して、そこから更に数時間が経過し、予定から丸二日というズレをもってようやく事態が動き出す。
「艦長! レーダーに反応、蒼鷹と思われます。」
「よし、あとはクリュだけだな。」
「結衣隊員、蒼鷹に回線を繋げ!」
「了解しました。」
――――
艦長、副艦長たる二名は蒼鷹の到着を待ちながら蒼鷹の二人から報告を聞きつつ機体の状態を確認する。
隊長の護も駆けつけたが、彼らからの報告は悲報であり、大きな被害報告だった。
「――――以上です、クリュを失った責任は、敵に捕らわれる失態を犯した僕、いえ私の――――」
「いや、状況を考えれば判断は間違っていなかったし相手が規格外過ぎただけだ……君たちが無事でよかった。」
「戦局としてみるなら真希さんが遺したプロテクトを受け取れたことが大きい、報告通りなら敵からの侵入は完全に遮断出来るはずだ、よくやってくれた。」
「蒼鷹で作戦通りに火をつけてくれたおかげでこっちも逃げ切れたしな、これで逆巻港に帰投出来るぜ。」
「真希さんのおかげで……なのに僕たちは……。」
「なんだ? もちろん、そのあたりの落とし前はつけるつもりだがな、お前達も参加しないか?」
「「!?」」
「帰投して許可取って準備して、忙しくなるぞ!」
「許可か……取れなくても今回は軍に任せるつもりはない。ばあちゃんには悪いが収集したデータを元に作戦を立てよう。あの大型戦艦は沈める、俺一人でもな。」
彼らはまずこの悲報を各隊員へ通達する。
護は事実を飲み込み悲しむ時間をあげたかった。
しかし、遅れを取り戻すためにその時間を与えられなかった。
彼らがやりたいことはともかくとしても、これから必死に元来た道に戻り最速で逆巻港に帰還、逆巻市と市が管理する資源地帯を守るため報告と行動を起こさなければならないのだ。
そのせいか、ブリッジの三人は真希についてあまり考えなかった。
そうすることで湧き上がる衝動を抑え、冷静に心の中で逆巻港において自分たちができる最速のそして効率的な段取りを組んでいく。
――――
閃光型駆逐艦 解析室
悲報を聞いた解析室の三名は静まり返っていた。
温和な河原隊員は突然の事で何を言っていいのかわからず狼狽えている様子が見える。
いなくなってしまった彼女といがみ合っていた御堂隊員は画面を見つめて仕事を続け何も喋らない。
今回とある研究所から出向してきた草壁博士は真希やクリュについてはあまり知らないため、興味のあった古いモデルAIを失ったことについては残念に思っているがそれほど心が波打つものではなかった。
だが、二人の様子を見るにAIとはいえ真希が大事な仲間だったことを察し何も言わずにいる。
刻々と時間が過ぎていくが誰も休憩しようとは言わない。
(もしかして仮眠時間までこのままなのかい? 彼らがこの状態だし、おやつも来ないから厨房にいる明石くんもこんな感じなのかな? おじさん研究畑の根暗人間だから気の利いた言葉なんてかけられないよぉ? 弱ったなぁ。)
そんなこんなで博士にとって動きにくい状況が続くが、唐突に御堂隊員は口を開く。
「俺はね……モデルAIに興味を持ってたんだ。」
「輝一くん?」
「ずっと家に引きこもって趣味で古いデータを解析してきたけど、モデルAIは生産制限が掛かってるからレアで高くて手に入らないし、婆ちゃん……市長に解析させてくれなんて言えないしさ。」
椅子のベルトを外して浮きながら喋る御堂から目が離せず、二人は一室で首を上に向けて話を聞いた。
「そんなこんなで諦めてたんだけど真希お婆ちゃんを積んだクリュがこの隊に来て、チャンスだと思ったんだ「隊の備品なんだから解析出来る」って、でもさあいつはプロテクトを掛けて触らせもしなくて「許可なく乙女の部屋を探ろうなんて……エッチ!」なんて言いやがるんだよ、AIの癖にさ。」
(……そういえば俺も真希さんのチェックはしたことがなかったな、輝一君がいつも当たっているからやってるもんだと思ってたが……そっか……)
「そんな普通の仲間相手だったら最低なことをやってきてる俺にいっつも話しかけてくれて、憎まれ口を叩いても嫌味を言って喧嘩しても次の日にはいつもどうりに接してくれた、きつい作業の合間も側にいてくれたんだよ……だから俺もあいつの事、全然嫌いになれなくて……。」
「解ってるよ輝一君、真希さんはいい人だったな……他のモデルAIがどんな人格を持っているのかは知らないが、彼女は何かにつけて俺たちにずっと気を使ってくれてたよ。ずっとふざけておどけてくれて、慣れない宇宙で不安だった俺たちにとって、それがどれだけ助けになったか。」
「俺も護みたいに素直に言ってやればよかったのかなぁ……あいつのこと認めてるって……いつもありがとうって……ごめんって……。」
「どうかな……草壁さん先に休んで来てください俺たち少し泣きますんで。」
「えっ、そっ、そうかい……? 君たちと一緒に働いてまだ日が浅いからその、一緒に悲しんであげられなくて、ごめんな。」
涙目で笑いながら少しおどけたように言う河原の言葉に草壁博士は言う通りに部屋から出る。
(うーん、人が聞けば壊された船がAI操作で良かった、なんて言うんだろうな、でも例え物でも愛着が湧けば喪失感は人それぞれだ、若い彼らだったら尚更気持ちの整理が難しそうだなぁ自分の時はどうだったか。)
数時間後、彼らは仮眠を終えてまた画面に食らいついていた。
気持ちの整理ができたかはわからない、しかし艦は順調に進み続け遂に、資源採集宙域である北山群補給所に到着する。




