第八十二話 救援
山城歴157年 進入禁止宙域 警備船クリュ
危険な相手を危険な宙域で相手にしていた彼らを心配した真希艦長は命令違反を承知で閃光型と蒼鷹がいる場所へ急行する。
何事もなければ撤退を確認して引き上げるつもりだったが、警備船が見つけたのは戦艦とそれに連れ去られるように随行する蒼鷹の姿だった。
閃光型は見えないのも気にかかるが、明らかに蒼鷹の様子がおかしい。
そう考えた真希は蒼鷹にメッセージを送ると、すぐさま返信が送られてくる。
システムが乗っ取られ身動きが取れない、こちらに構わず離脱して欲しい、自分たちは機を見て自沈する、という内容だ。
「こんな時でも、いえこんな時だからこそ返信が来ると嬉しいですね……内容は歓迎するべきものではないというのに。」
携帯用の端末から返信されたメッセージと軽めのデータで状況を把握した真希は思考する。
捕まっている蒼鷹を開放するには自身が近づき「いつもの手」でシステムを奪還するしかない。
しかし、彼らは警備船より速くて追いつけない上に、この船で相手取るには大きすぎる敵だった。
それでも人間を愛し、ともに働くことを喜びとしている元旅客機に搭載されたお客様担当AIに迷いはなかったようだ。
すぐさま長年の経験を元に作戦を立て行動を開始する。
「待っててくださいね。ちゃんとお助けして、港まで送らせて頂きます。」
――――
蒼鷹に乗っている二人は孤立無援の状態で取り残されている現状に絶望していた所、位置的にありえないメッセージに驚かされながらも、自身の現状とこれからのことを返信メッセージとデータに託して説明することにした。
生命維持に必要な設備をイジれば多少は時間稼ぎができるが、閃光型が離脱後に星彩型を連れてくるまでは持たないだろう。
もちろん武装の貧弱なクリュに助けを求めることも出来ない。
意を決した二人はデータとメッセージを躊躇せず送信する。
「なんでクリュが近くにいるんだろうな……。」
「……さあね、でも隊に知らせてくれれば、後で松浦さんたちが仇はとってくれるさ。」
「だな、隊長も病院に行けるしこれが最善だ。後は蒼鷹を壊さねぇと。」
「うん……コンソールを壊しても意味がないし、燃料やコアは最奥で守られてるから破壊出来ない、次にこの艦とこの機が停止したら一か八か外に出て火器を破壊するしかないよ。」
「このスパナやハンマーでか? 壊そうとすると動かしやがってハッチもドアも壊せねぇしなぁ。脱出装置で外に出るしかねぇか。」
「怖いけど自分が乗った機体が利用されたら嫌だし、僕らの生存を気にして攻撃出来なかったら困るからね。」
「そうだな、しかしもったいねぇな。俺も操縦したかったぜ。」
「僕ももっと乗りたかったよ……だって新型だからね!」
自分の機体を利用させない、自機と共に散るのは操縦士として本懐だ。
などと二人はくすくすと笑いながら、自身に言い聞かせ、絶望から一転して気持ちを切り替えた彼らは自分の運命を受け入れているようだった。
たが、真希という存在のあり方を彼らがもう少し知っていれば、きっと平静ではおらず慌てていたに違いない。
彼女は人間が危険だと聞いて黙って帰るようなAIではなかったのである。
――――
警備船クリュは戦艦と蒼鷹を追いながら準備を完了させると、広域に電波を発信、戦艦に送りつける。
「蒼鷹を開放しなさい。」
「なんだ、どこからだ? 後方?」
他にも艦がいるのか? 閃光型ではないな、燃料や素材は多いほうがいい。
そんな思考でガルブは戦艦と蒼鷹を止めた。
そして小さい機影がこちらに向かっていることを確認する。
そのあまりの小物さにがっかりしたようだが、彼らにとって整備され、動いている船は貴重だ。
戦争後から可能な限り改造と整備を行ってきたが経年劣化による素材の消費は避けられない。
恐らくはその素材を載せて使用している船がいるなら小さくても、回収しない手はない。
ガルブは貪欲に、だが冷静に相手を追い詰めることにする。
この機が目当てならこの戦艦を躱して近づこうとするだろう、そうはさせるか。
艦載機を出すまでもない、副砲数発でケリがつく。
ジリジリとBB-85は元旅客機に迫る。
だが、この船から「キーンキーン」という特別な音と反応を探知する。
それはガルブにとって懐かしく、もっとも欲した物が放つ反応だった。
ガルブは慌てて通信を開き、傷つけないよう手に入れるため投降を勧告する。
「まさか……降伏しろ……蒼鷹とやらは解放する。」
「信じられません、あなたこそ戦争は終わっているのです、投降なさっては如何ですか?」
「またそれか、現戦場では我々が優勢である、そちらが旗を巻くのが当然だ。」
「御影警備隊は戦っても負けてもいませんよ。それにあなた達が何をしたいのかはわかりますが、それを成したところで何にもなりません。あなた達の目的の意味は失われたのです。」
「ごちゃごちゃと煩いぞ、すぐにその船を渡せ! さもなければAIコアを消滅させてやる。」
「可哀想に……人間と共にあればもう少しまともにいられたかもしれないのに、あなたの船には誰も乗っていないのですか?」
司令官と搭乗員は別の戦場で作戦行動中だ、いずれはお戻りになる……。
「何年も前から兵站線が崩壊し通信も来なかったのではありませんか?」
ゲートが破壊されて一時補給が滞っただけだ、通信が届かないのは貴様らが分断したのだろう……。
「停戦信号は届いていないのですか? あなた達だけですよ戦争が終わったことを知らないのは。」
「黙れ!!」
慎重な追い立てから一転、向かってくるクリュに大型戦艦は急加速しながら近づく。
それを待ってましたとばかりにクリュは円運動のように機動、戦艦の左側を迂回する。
角度が微妙で小回りという点では大きく劣る大型戦艦は横を抜けられてしまい、そして停止することも出来ずに勢いに引きずられる。
そして、後方にも構えた主砲や副砲も、クリュが抱えていると思われる物欲しさに下手な攻撃も出来ずにいたのだった。
敵国の人間に何がわかる! それよりも、なんとしてもあの船を。
ガルブはそんな狂ったような気持ちで言われたことをかき消し、がむしゃらに操船し停船回頭を行おうとするが、感情に任せたその行動は遅くなるばかりだった。
その間にクリュは蒼鷹に近づき、そして大量の通信を浴びせ、蒼鷹のシステムに巣くっていたガルブからの影響を排除し、自分からの影響で蒼鷹を埋め尽くす。
「「真希さん!」」
「助けに来ましたよ、さあ離脱してください。」
二人は正常な状態となった蒼鷹の操縦席に戻り、システムをチェック、宇宙服にも少なくなっていた空気を入れた。
「ふー、でもこれからどうしたら、この機よりあの戦艦の方が速いし……。」
「また艦載機を飛ばされたらのっとられちまうな。」
「その点なら、もう大丈夫ですよ、マキ・プロテクトを追加してあります。」
「「マキ・プロテクト?」」
「ほら、結衣さんが勝手に侵入されたりして不愉快だと言っていたではありませんか、私も悪いなぁなんて思っていまして、だから私用のプロテクトを作っていたんです。」
「器用? というか万能というか……」
「よくわからないね。」
「彼は私と同じ方法で強制アクセスするタイプみたいですからね。このアクセス方法は開発者によって封じられて今では私だけのはずでしたが、彼は先祖返りしたようです。」
「「AIって先祖返りとかするんだ!?」」
「私も最初は驚きましたが重宝するのでつい……。」
「「つい!?」」
「それはともかく。さあ、行ってください彼は今、私とクリュに夢中ですから。」
「でも、それじゃクリュが。」
「私達のことは心配いりません、みなさんは港に戻って体制を立て直してくださいね。」
真希たちが普段のような口調で会話をしていた頃
後方では回頭終えたBB-85が追撃を再開していた。




