第七十五話 心的外傷
山城歴157年 進入禁止宙域
閃光型駆逐艦 ブリッジ
行動を開始した閃光型駆逐艦は奇襲を行うべく敵が渡っている潮流の逆進する。
直進するため、潮流の波を受けながら前進している状態の艦隊が、その機動力を落として渡り切る寸前のタイミングを計算して接近戦を狙う。
一気に近づき左側面からの奇襲により撃沈、またはダメージを負わせて停船させるという作戦だ。
これが出来る技量と機能、適した艦等の条件が揃い、これ以上ないシチュエーションが整ったはずだった。
しかし、多数の艦船を抱える敵に比べ、警備隊で戦える艦は一隻と全体的には不利な状況でもある、なので状態によっては多少は妥協が必要な可能性もある。
要は逃げている工作艦が指定ポイントに到達するまで敵の足を止めることが出来ればいいのだ、今は無理に撃沈する必要はない。
そして、戦場では予定外のことが起きるものである。
――――
攻撃が間近に迫っている現在、敵巡航戦艦の遅れによりさっそく予想外の事態となっていた。
閃光型と敵艦隊の予測位置を確認した隊長の護と結衣隊員は、その結果が敵艦隊の動きがバラバラとなってしまっていたために予定していた敵艦隊を完全には横切りは行わず、まだこちらとタイミングが合う、先行している敵艦を攻撃後、即時転進する修正案をだした。
まずは攻撃目標である艦隊の先頭を行く巡航戦艦一隻を攻撃をするが、その攻撃を狙い難いエンジン部分や後部スラスターではなく、武装が多い前部に集中し、長距離砲の驚異を取り除くと同時に敵に撤退を考えさせることにしたのだった。
「この条件であれば最低でも目標は艦の前部のみに絞った方がいいでしょう。上部と下部にある戦艦主砲が一番破壊しやすく効果的ですね。」
「確かに後部スラスターは遠すぎて無理だ位置が悪すぎる。中央部のエンジンに対してもレーザー砲が届かないかもしれん。前部ならシールドを張られても前面に突き出た主砲なら貫通して壊せるだろう、戦果としては少々物足りないがな。」
「結晶型レーザーを使うのも難しいんだな、潮流から出てくるまで待って横切っちゃだめなのか?」
「今からタイミングを合わせることも難しく既に行動にでてしまったため見つかる可能性も高い、尚且つ結晶型レーザー砲の射程です、単純な動きをして予測でもされたら横切ったあたりで集中攻撃を受けかねません、賛同しかねます。」
「転進中に狙われる可能性は?」
「中、近距離の短い射程距離とはいえ、攻撃はレーザー砲を照射する間の数十秒ですから大丈夫かと、終わればシールドも張れますから。それに高速で転進する比較的小型の艦艇に対しての砲の照準というのは副砲であっても、そうすぐにピタリと合うわけではありません。あの艦の状態を予測するなら「なおさら」でしょう。」
「そうだな、横切らないというのも相手にとっては予想外かもしれん。機動力が削げないのは心配だがな。」
「よし、それでいこう。」
自身と敵との最終位置への対応で計画に多少のズレをみたが、攻撃は決定される。
その攻撃に備え、閃光型駆逐艦が誇る結晶型レーザー砲は射撃準備に入る。
赤影結晶に電力が流し込まれ、変異した電力が後コンデンサに充電される。
六門のレーザー砲はすべてチャージを完了。
井上隊員が忙しく確認に回り、異常がないかをチェックする。
「戦争中も戦い続けて、所属が代わった後の初使用を実戦で、っすか……どこまでも因果な艦っすね……。」
――――
戦闘艦隊 巡航戦艦
潮流の激しさと整備が出来ていない本艦の不調で少しづつペースを落としていく巡航戦艦の一隻は後ろから命令してくる艦隊司令官代理であるガルブの叱責を受けながら体勢を立て直し中間に位置、先行しているもう一隻は潮流を渡り切るところまで来ていた。
そして、そこで初めて敵艦と思しき艦影を捉える。
「こちらはこの宙域を管理する逆巻市に所属する、警備隊である。この宙域への侵入は禁じられている、速やかに停船し武装を解除し投降せよ。」
それと同時に結衣隊員の声で送られてきた警告を受けた軍属の巡航戦艦のAI達は混乱する。
「警備隊……?」
「投降勧告……?」
レーダーが利かないながらも発信源に対して望遠カメラや各種機材を集中。
その姿を割り出した。
「閃光型……!?」
「沈められる……退避を……!?」
閃光型の姿を見たモデルAIたちは恐怖に駆られた。
自らが穴蔵に引き篭もる発端となった被害を思い出し、艦隊の中間にいた一隻は混乱、潮流の中でこの場から退避するために回頭を始め、反対方向に艦を向ける。
そして、先行していた、もう一隻は状況を判断し、抵抗を諦め潮流を渡るかいなかで艦の位置を固定し投降を宣言、停船してしまった。
「投降……します……。」
「貴様ら何をやっている!?」
「退避を、退避を……。」
「逃げようというのか!? 腑抜けが!」
後方にいた大型戦艦は潮流の中、速度を上げて前進し、敵前逃亡を図ってる艦を確認。
この退避するため回頭している巡航戦艦CC-74-6に対して、BB-85は、怒るモデルAIガルブの意思に従い対艦、対要塞用の主砲を向けた。
――――
閃光型駆逐艦 ブリッジ
この動きに驚いたのはもちろんガルブだけではなく、攻撃寸前であった駆逐艦ブリッジの三人と、モデルAIである結衣隊員も同様だった。
降伏を勧告し、そして相手が受け入れた以上、正当な理由なく攻撃は出来ない。
騙し討ちの可能性もあるため松浦が砲撃手の席から動きを探るが、潮流の中であるにも関わらず、先行していた巡航戦艦はまったく動かない。
少なくとも動けば停止命令を無視したという名目で攻撃は可能だ。
だが、微動だにしないため対処に困る。
「撃てませんね……。」
「はい……。」
さすがの結衣隊員もお手上げであった。
軍人タイプのAIである彼女には完全に降伏した相手を攻撃するという、逆巻市により設定されている規律に違反する行為が「出来ない」とは言わないが難しい。
それに降伏してくる敵がいなかった先の戦争では、こんな状況は考えたこともなかった。
隊長の護も、敵の後続艦を考えて無理にでも攻撃した方がいいのはわかってはいるが、自分たちから降伏勧告を行った相手がそれに応じたことにより攻撃する大義名分を失いためらう。
二人はお互いに打つ手がなくなったことを悟り、攻撃するという選択肢を言わずにこのまま転進を指示する。
「なんなんだよ、あいつら!?」
「回頭している艦はともかく後続が来るだろう、攻撃できないのなら一度撤退するしかないぞ護。」
「あの降伏した戦艦はどうするんだ?」
「……。」
護が対応を考えていたその時、荒いながらも潮流の中を移していたカメラが大型戦艦の砲撃を撮影。
すぐさまブリッジのモニターに動画が映し出された。
だが、そこは潮流の中であり、そして何よりパーツの不具合によって正確な射撃が困難だったのか、BB-85の砲撃は、大きく狙いを外し回頭中のCC-74-6の上部を通り過ぎる。
「あれは味方を撃ったのか?」
「威嚇射撃にしても主砲ですか? ……妙ですね。命令違反による処罰で即時に撃沈しようとする、いくらなんでも対応が早すぎます。」
「このままだと降伏したあの艦も狙われる!」
「護、まさか!?」
「こちらは警備隊、隊長の御影だ、降伏を受け入れる。すぐにこちらが指定するポイントへ向かえ。」
「……了解いたしました……。」
捕虜として命令を受諾したCCー74-10は移動を開始。
とにかく戦線を離れさせることにした護は少し遠くのポイントを指示し、この艦を送り出す。




