第七十一話 敵を知る
山城歴157年 進入禁止宙域 閃光型駆逐艦
ブリッジ
潜伏する場所を設定し、身を潜めてしばらく。
敵と思われる艦隊の動向は輸送船を追いかけているだろう事以外はまだ掴めていない。
予想外の場所を遠回りしている可能性なども考えてしまい、隠れている側からすれば不安になりそうなところだが、かといって敵の位置を探るためにこちらが動いて敵に見つかるわけにもいかなかった。
少なくとも救助が済むまでは。
退屈が嫌いな松浦艦長も、こういった場面では既に戦っているという気持ちがあるのか、真顔で解析室から送られてくるデータに根気よく目を通していた。
一方で高野副長は一時的にブリッジを離れ、艦を見回りに向かっており不在。
隊長の護は結衣隊員と共に盤上で、敵の動きと艦の動きについてのシミュレートを繰り返している。
「では御影隊長、輸送船からのデータ提供でわかっている敵の数は最低でも十五、迫ってくる数はそのまま十五隻とします。」
「このあたりを隈なく探すには少なすぎますね。」
「輸送船が逃げてきた方向から、この近辺に姿を現していないということは足がかなり遅いか、陽動にすべての艦が掛かったのか、もしくは諦めたものと思われます。ですが、この場合の前提条件では十五隻で追いかけてきていると思いなさい。」
「はい、この艦が見つかった場合は距離を取りながら相手の出方を見て、逆にこちらが見つけた時は奇襲ですね。」
「距離を取って戦力を探る、ですね。もちろん一目散に逃げるのは悪手です、敵がこちらの戦力を計ってしまいますから猛追を招きますし囮、殿としては微妙です。奇襲が可能ならそれで高速艦さえ落とせば後は悠々と逃げることができますね、それとも相手の意志を挫くために戦艦を狙いますか?」
「戦力はこの一隻ですので取りこぼしが命取りになります、装甲の厚い艦を襲うのはリスクが大きい、相手の手を封じる意味でも高速の艦を狙うのは妥当です。」
「よろしい、次は数です。五隻以上の高速艦がいて、すべてを撃つ事が難しい場合はどうします?」
「一隻でも取りこぼすと付き纏われて厄介ですね、再潜伏が難しくなります。」
「そうですね、圧倒的に数で負けているのに振り切れない、隠れられないのは問題でしょう。工作艦が逃げ延びたとしても、この艦は窮地に陥るかもしれません。」
「現在それを想定して潜伏位置を設定しています。工作艦が見つかったと仮定した場合、敵艦隊から高速艦が離れると思われますので、その高速艦隊に奇襲を行うこととします。敵本隊との距離が空けば、おそらく撃滅できます。」
「相手の方が速い可能性があるのでは? 追いつけますか?」
「データからその可能性は低いと思われます。船を襲った艦隊も動きが鈍かったようなので整備状態が悪く、前例を挙げるなら、同じ戦争期の艦である工作艦のように各部品が劣化しているはずですよね? 例え、もし他に完調の艦がいたとしても、閃光型の速度以上は出ないと考えています。」
「概ねその通りだと思いますよ、模範解答と言ったところですね。」
「なんだか甘やかされているような……。」
「今回のケースは教材としてあまり好ましくありませんが、救助、護衛、撤退、というのは軍隊でも必須科目です、近しい演習をやった士官候補生達でも模範解答まで行き着くのは士官になる寸前ですよ、自信を持ちなさい。」
「結衣教官には更に予測がありますか?」
「そうですね敵は、切り札があるか……何かしらもう一手打ってくるでしょう。そのように動くのが模範解答ならそれを打ち破るのが敵の仕事ですから。」
「……敵艦の詳細がわからないから予測が難しい。」
「もちろん実際の数も大きく異なるでしょうね。情報の大切さを理解して、何がわからなくてもそこを考えておくのが司令官としての役割です。」
「火力で押し通る!」
「突撃しようぜ!」
護が集中していたところ、いつのまにか松浦と高野が隣にいて笑いながら口を挟んできた。
「……あなたたちはそれでも艦長と副長ですか? ジョークの才能もないようですね。」
「もちろん冗談だ。それより敵艦隊発見、艦隊行動ではあるが広がって索敵しているようだ。」
スクリーンに投影されるいくつかの艦は広がっており、戦艦と残りの大型艦だけが辛うじて艦隊としての体を保っているような感じだ。
数は十六隻といったところ。
大型艦が三隻、ミサイル艦や工作艦もいるようだが小型艦も目立つ、巡航艦の姿は見えない。
「空母がいないのが気になる、データにはそれらしいのがいたようなんだが。」
「燃料の関係でお留守番してるとか?」
「可能性はありますね、燃料の温存に動いていたとしても、どの程度貯蔵してあるのか。十分な蓄えがあり目的が戦争行動ならとっくに逆巻市とはいかずとも資源宙域まで来ているでしょう。」
「動きも遅すぎる、追いかけているような感じじゃないな。」
「劣化してガタついてるとか?」
「しばらくは新造の輸送船を追撃していることから考えて、速度がここまで出ないのは変だ。」
「陽動に引っかかったかどうかもわからない、もう一台撮影用にドローンを浮かせるべきだったか。」
「万が一それが見つかったら痕跡を残さないよう二台も潮流に流した意味がなくなります、落ち着きなさい御影隊長。」
「やはりおかしい、いるはずの巡航艦のような高速艦も見えない。あの小型艦は速度が出るのか松浦?」
「いや、戦闘機や戦闘用ドローンなどから艦隊を守るための防空護衛艦だ、戦艦よりは速くとも高速艦と呼べるほど速い方でもない。」
「あのペースじゃ相手に逃げてくれて言ってるようなもんだろ……もしかして輸送船が動けないのを知ってんのか?」
「それだな、船内のシステムを侵食した時点で動けなくなるのを知っていたのだろう。あそこまで逃げられて、その位置を把握出来なかったことは計算外だっただろうが。」
「結衣教官、システムへの攻撃についてはバルに伝えてありますが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫、と言ってあげたいところですが……。」
「まずいんですか!?」
「真希さんが軽々とこちらの防壁を突破してくるのでなんとも……。」
「こりゃ真希さんに相談だな……。」
「敵艦隊のあの様子では追いついては来られないだろうし、工作艦と合流するか? その上で問題があればクリュに来てもらおう。」
「いえ、まあ、真希さんのような存在はそうそういませんから杞憂でしょうけど。」
「艦を乗っ取って出撃したAI的にはどうなんだ?」
「副長……そうですねバルにも同様に御堂隊員たちが作った防壁があります。やってみなければわかりませんがAIがそれを塞ぐように動けば問題ないかと。」
(塞がなかったら破れるってことか? 恐ろしいなモデルAI)
「とにかく敵の位置は把握した、戦闘の必要はない。このまま待機し、工作艦が接触して救助が終了し、予定ポイントまで到達した段階でこの艦も離脱する。」
「了解した、このまま待機する。」




