第六十七話 戦闘準備
山城歴157年 進入禁止宙域 閃光型駆逐艦
復帰した護も情報を整理しながら新たな予定を立てつつも、航行を続けて停止予定位置へと到着。
ここで予想できる範囲の輸送船側への対応と敵艦が攻撃してきた場合の対処を確認するため予行演習を行うことに決まった。
急遽用意することになった救助役の工作艦も手順が決まっておらず今から決めていくことが多くなってしまっており、歴戦の船とはいえ仕様が多少変わった閃光型の武装も確認したかった。
ただ、試し撃ちも予定されたが万が一にも敵に察知されることを考えて取り止めとなる。
広瀬隊員は工作艦側に移る前にパイロットとして出撃した二人の隊員の様子を見ている。
「二人共、問題ないようだな。気分は悪くなかったか?」
「はい、広瀬さん。」
「俺はちょっと酔いましたけど、次は酔止めを飲んでいきます。」
「そうか、あまり無理な運転はするなよ、上下感覚ごと持っていかれる可能性もあるからな。」
「持っていかれるってなんですか!? 怖いなぁ。」
「この後は私も向こうに戻る、あとは頼むぞ。」
「あの……御影隊長は大丈夫なんでしょうか?」
「ウイルスの方はもう問題ない、それ以外は私はアイツを信じることにした。きっと大丈夫だぞ、あいつは強いからな! お前達も出来るだけ信じてやってくれ。」
自分の見解を真希が触れ回ったおかげで隊長としての威厳を損なったのではないかと心配した広瀬は、精一杯フォローするつもりで笑顔で二人にそう告げた。
ただ、戸賀艦長と口論していて一緒に話を聞いた亜月はともかく、触れ回った真希も流石に護より年下のパイロット達には話していなかったようだ。
(合併症か何かが!? そんなに深刻なのか……)
(隊長……苦しそうだったもんな、ちくしょう……
――――
駆逐艦 ブリッジ
演習のため停止した警備艦隊は、これから救助計画を煮詰めることになる。
行動を開始して、安易に近づけば輸送船を探している敵に見つかり、救助が困難になって危険度が増す可能性も高い。
迅速に、救助または曳航や可能なら修理が行えるように工作艦では状況によってのマニュアルを設定しながら手順を確認している。
同時にブリッジの作戦本部では、多少の注意書きと慎重かつ大胆に計画案を練ってドローンに託してあった高崎団からのメッセージを読んでいた。
この計画案は、相手の規模も索敵している範囲もわからないため、シンプルながらも陽動を行うようにした方がいいと記されている。
「まずは相手の指示どおりAポイントに設置した時限式の信号弾を合図に、Bポイントに設置した救難信号の発信機を備え付けたドローンを動かしてAポイントに飛ばす。」
「それで敵がいるなら誘導されるだろうな、しかし回収できないドローンがもったいないな。」
「敵戦闘艦隊の警戒を少しでも逸らせればいい、その隙きにCポイントから輸送船に近づき、その高崎団を救助、一気に逆巻港に帰還する、確かに理には適っているかな?」
「確かに、単純だがそれ以上のことをしても恐らく怪しまれるだろう。ただ、救助する工作艦を近づける前に蒼鷹で先行させよう、アレには多少のステルス機能もあったはずだ。とにかく相手の状態の確認する必要もあるが、罠も警戒しなければな。」
「すべてを鵜呑みにするわけにもいかないからな。だが、まだ試運転を終えたばかりと聞いているが大丈夫だろうか?」
「護、大丈夫だ。あいつらならやれる。」
「試運転の数字も良好で比べる相手がいないのが残念なくらい点数が高かったみたいだ、俺も大丈夫だと思うぞ。」
「……わかった許可する。」
「輸送船から工作艦へ移乗となった場合は、工作艦の船外作業補佐には外へ出て誘導してもらうか?」
「正直それは避けたいが、隊員による誘導があればその分、早く済むだろうな……姉さん、いや戸賀艦長と相談だな。」
「よし、次は戦力の確認だな、結衣さんどうだ?」
結衣がモニターに現在使用可能な武装を映し出す。
旧装備を改造した主砲である、赤影型レーザー砲台を前面と側面に2門ずつ計6門。
新たに加えられた、中距離用レーザーを艦橋のある中央部の両サイド上面に一門ずつ。
空いていたスペースに後部に設置された垂直発射型ミサイル発射口4門に軽量型の高速追尾ミサイル12発。
防空用の小型のチェーンガンタレットを上面と船底を合わせて8機。
隊全体の希望により結晶型レーザー砲は維持したが、その数は削られ、追加武装は警備隊という建前もあり威力の高いものにはできなかったようだ。
だが、戦争経験者である市長が見立てた中距離レーザー砲とミサイルで、距離を取っての攻撃も可能になっているため戦争期のように突撃に頼らない活躍も出来ると思われる。
「現状でも接近できれば重巡航艦でも戦艦でも、一対一なら負けませんが、もちろん重武装の相手に近づくのは容易なことではありません。」
断言しながらデータとして残っていた映像を結衣がモニターに映し出す。
巨大な体躯と、大型砲が確認される戦艦。
大小様々な武器を持った多数の巡航艦。
機雷源を用意し設置された装甲板を盾に隠れている工作艦。
現れた瞬間に怒涛のミサイル攻撃を行うミサイル艦。
超長距離から強力な砲弾を発射してくる砲艦。
それらと時と場所を変えて延々と戦う光輝型とその派生型は、次々と敵艦隊を屠り、そして時に爆散し散っていく。
その中には激しい攻撃を、速度とエネルギーシールドによって掻い潜り、敵艦に対し致命の一撃を加えて離脱していく閃光型が何隻も確認出来る。
これを見るに圧倒的不利を覆してきた閃光型は、火力と乗組員の高い練度を武器に困難と思われる様々な作戦によって敵の意表を突き、敵主力を力づくでねじ伏せるなどの柔と剛を伴った工夫によって戦い続けてきたことがわかる。
新兵への講習のような様相となった結衣による戦力説明は映像に続き30分に及ぶ長い口上で幕を降ろす。
「閃光型の戦力は以上です。ご質問はありますか?」
「いや、結衣隊員たちが立派に戦ってきたのはよくわかった。あんなモノが相手ならもう少し真剣に取り組む必要があるな、勉強になったぞ。」
「戦争映画より地味に見えるけど、結衣さん達は苦労してたんだな……。」
「閃光型の運用について、よくわかりました……奇襲ですね。」
「はい、身を晒して攻撃を受けながら戦うのでは、比較的小型である駆逐艦の耐久力において不利なのは否めません。ですので戦うのであれば相手の裏をかく必要があります。」
「斥候として蒼鷹、そして工作艦が続き救助、敵艦が近づくようなら隠れていた閃光型で襲撃し撃破もしくは撹乱、そしてクリュが確保しているルートで脱出だな。」
「方針としてはそれで計画を組み上げましょう。結衣さんありがとうございます。」
「? 礼を言われるのは変ですよ御影隊長。やはりどこか……。」
「いえ、戦闘の厳しさを教えて頂いた気持ちです。」
結衣はゆっくりと目を見開くと小さく頷いた。




