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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第六十四話 戸惑う責任者

 山城歴157年 進入禁止宙域 閃光型駆逐艦


 逆巻港規格で設定されている、非常用の回線に送られてきた救助を求める通信文。


 それは数日経っても通信の内容がハッキリしなかった。


 それは通信機器の調整により潮流の影響を可能な限り廃しても何度受信しても雑音が混じる部分が出て、どうしても解析できなかったからである。


 とにかく方向と、そのわかる範囲で近づいてみるが電波は強くなるのだが、やはり内容が途切れていた。


 なんとかヒントを元に、発信していた通信機を抱えた小型のドローンを発見して、この機体と通信機を解析する。


 そして解析班が出した答え、それは発信された内容でわからなかった箇所は、元々から雑音だったということだった。


 艦長の松浦と高野副長は、その報告をブリッジで聞いている。


「わざわざ内容を伏せて送ってきていたと?」


「そんな感じだね、それからわざとに前文と後文の電波を変えて、近くまで来ないと新たな内容が受信出来ないように細工もしてあったから、ここに来て欲しかったのは間違いないみたいだよ。」


「罠でもないみたいだが手間が掛かってるみたいだなこりゃ、それとたった今、発信者側のメッセージも見つかったからそっちに送るよ艦長さん。」


 そこには、高崎団の乗る輸送船が襲われた状況と現在までの経緯が書かれていた。


 更に彼らは近くのデブリ帯に隠れており、もし指定時間内にこのドローンを発見したら、場所と時間を指定して救助して欲しいとも書かれている。


 もちろんこの内容で一番松浦艦長達を驚かせたのは戦艦など多数の戦闘艦に襲われたという内容であろう。


「ふむ、相手の言う通りにするのも危険だな警戒する必要がある。」


「また戦闘艦かよ、それならバルに話を聞いた方がいいかもな。」


「そうだな、その前に護の問題を今日中に片付けたいところだ。」


――――


 駆逐艦内、運動場


 閃光型駆逐艦内には旅客機だったクリュと違い、軍人達がしっかりとした運動が出来るように少し広めに取られた場所がある。


 この部屋には狭い船内生活を少しでも広く感じるための工夫がなされており、部屋にはスクリーンに運動場や野原が投影できるようになっていた。


 もちろん運動のために必要な設備も充実しており、これは発見された後に改修もされて隊員達の希望もあって買い揃えて設置した物や、過去に使われていた物も修繕して使える物は使っているのだった。


 そんな運動のための部屋では、痛みが取れて腫れも引いたおかげで医務室からの退院が許可された隊長の護が、数日間の拘束で鈍った体を動かしてた。


 制服も邪魔なので薄手の服を着た彼は、手足を使って部屋を何周も駆け回り、器具を使って体に負荷を掛けるなど様々なトレーニングメニューをこなしていく。


 広瀬隊員も付き添いながら体を動かすが、あまり運動が得意ではない彼女は護のペースに追いつけずに早々に椅子でダウンしているようだ。


「はぁ……しばらく動いていないというのに、よくそんなに体が動かせるものだな。」


「おっとと、やっぱり鈍いですけど無重力ですから楽なもんです、なにかあった時のために手足がしっかり動くようにはしておかないと。」


 止まって広瀬隊員と話そうとする護は体を固定させるために彼女が座っている固定椅子に足を引っ掛け、椅子の後ろにある壁に手をついた。


 広瀬と護は地球で言うところの、話している男女がお互いを意識するほど近づく俗に言う壁ドン体制になるが、二人は別段気にすることなく会話を続ける。


「ふむ、顔色は良いしそれだけ動くけるなら問題はないか、ただ再発の可能性もないわけではない、睡眠だけは欠かしてくれるなよ。」


「あんな痛い思いはコリゴリですから気をつけます。せっかく医務室から出られたのに松浦からは、ある程度動けないのならブリッジには入れない、なんて言われるし。」


 やはり仕事に向かおうとしている姿勢が気になった広瀬隊員は護の目を見ながら、真希に話した自分の考えた説が正しいのかを迷っていた。


 自分は精神科医ではない上に、はっきり言って考えすぎかもしれないことで、やる気に水を差すのも……。


 そんな思いが彼女の行動を妨げる。


 それでも心配な彼女は、すべてをここで言ってしまおうかと考えるまでに思いつめていた、そんな時だった。


 艦長の許可があれば即時に通信が繋がるこの公共の部屋にいる護の元に、工作艦にいるはずの秋山から通信が入る。


「お兄さん失礼しま~す、どうですか? 元気になりました?」


「秋山さん、おかげさまで動けるようにはなりましたよ。」


「んっ? 広瀬さんと運動してたんですか? 椅子でそんなに密着する運動なんて初めて見ましたけど……。」


「ちょっと話をしてたんですよ。そちらはどうですか? 何か困っていませんか?」


「聞いてくださいよ、お兄さん。教官が私にだけ厳しいんです……手伝いは終わったのか? 次の仕事がなければ探して見つけろ! とか、トイレ掃除やシャワールームの溝掃除まで私一人に押し付けるんです。」


「えっ、そうなんですか? 姉さんは女性には優しいと思ってたんですけど。」


「美弥~! あんた何人聞きの悪いことを言ってるのよ?」


「きょっ、教官! 聞いてたんですか!?」


「あんた次に艦隊が停止したらお説教だからね、あとおやつ抜き!」


「そんなー。」


「まったくもう。なんだかひさしぶりって感じね護、医務室から出られたのなら連絡してくれれば――――あんた……広瀬と何やってるの?」


「何って会話だけど。」


「診断もさせてもらったが血の巡りも問題ないみたいだな、無重力というのは血流にも悪影響が出ることがあるが護たちは慣れてるのか健康そのものだ。」


 護の顔に手を触れながらその手を首に手を回す広瀬隊員と護の様子を見る戸賀艦長の眼は少しずつ冷たいものになっていく。


 それは宇宙服も制服も着ていない護に伝わるのは音声のみなので、もちろん見えてはいない。


「そうなの……へぇ……ミナも会いたがってたから後で連絡しなさいよね……。」


「なっ、なにかあったのか? 艦のこともミナのことも任せっきりにしてすまん、何でも言ってくれ。」


「……はぁ……じゃあとりあえず聞いてよ、カナちゃんのことなんだけど。」


「亜月がどうかしたのか? また松浦と喧嘩か?」


「それがね、艦長として指示を出しても従わないのよ。低カロリーの食事を出すように言ってるのに毎回、高カロリーの料理を並べるのよね。」


「艦長こそ、人聞きの悪いことを仰らないでください。私はあくまで宇宙で最低限取るべきカロリーや栄養素を計算してお出ししているだけです。艦長たるものが模範となって必要分を平らげるのは当然では? それとも食べられない理由があるのでしたら、まずはそれを教えてくださいますか?」


「カナさん!?」


「私だって……食欲がなくて食べられない時だってあるのよ。」


「そうなのですか? では医務室に行かれた方がよろしいかと、今の医療機器ならすぐに原因が掴めますよ。」


「いやその、ほら人員だって限られているのに休めないでしょ。」


「その時は隊長である護さんであっても不本意ながら医務室で数日を過ごされたのですから、やむを得ないのでは? そうだ……その時は護さんがこちらの艦で代行してくだされば――――」


「ふたりともちょっと待ってもらえますか……?」


「艦長である私の指示が優先よね?」

「ルールが定まってる以上は守るのが普通ですよね?」


「えっと……。」


「あんた、私のことを本当は艦長として認めてくれてないのね。」

「護さん……戸賀さんを庇ってルールを捻じ曲げるのですか? そういうのはよくないと思いま……護さん!?」


「護が困っているぞ二人共。」


 戸賀艦長は先程から少し目を逸していた二人をもう一度見る。

 

 亜月隊員は話しながら艦内のカメラから送られてくる護の顔のアップから、画面の視野を広げて護と広瀬隊員のほとんど抱き合っているような体制を視認する。


 これは無重力の中でお互いが動かないように護の足で固定し広瀬隊員も脈や肌色をチェックするために護に寄りかかった結果だった。


 だが、二人は冷たい目を護に向けながら通信を切る。


「……どうしたら。」


「護、お前が隊をどうしたいかだ。周りに流されるなお前はモデルAIでもあいつらの家来でもない、この隊の隊長なんだぞ!?」


 医療関係以外には珍しく厳しく激しい剣幕で顔を更に護に近づける広瀬隊員の様子に戸惑いながらも護は彼女が何を言いたいのか考える。


「俺がですか? みんなが良いようにしてもらいたいというのが俺の……。」


「それでは隊が立ち行かなくなる、最近のお前は誰かの言うことを聞いてばかりだ、このままではお前は……その、だからえっと……。」


 突発的に言葉にしてしまった広瀬隊員は次の言葉に詰まる。


 護は心理学的に言えば病気なのか?


 それを探るための言葉を、彼女は必死に頭を回転させて絞り出そうとしていた。

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