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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第六十二話 因果関係

 山城歴157年 未探査宙域 閃光型駆逐艦


 警備艦隊は先程、蒼鷹が航行しデータの収集を行った場所へ移動、拾った救助要請を潮流の影響を抑えるため、各種機能を微調整しながら受信を行う。


 そのため、ゆっくりと指定航路を進みながらも解析室は大慌てで機器を補正していく。


「河原さんこっちは俺がやるからそのまま救助要請の解析を。」


「了解した、草壁さん潮流の波長はわかったかい?」


「ああ、ばっちりだぞ。やっぱり新型機だなしっかりデータ収集できてるみたいだ、うちの研究所のやつは古くていけない。」


「俺のプログラムがいいんですよ!?」


「おお? 輝一君も凄いぞ!?」


「うわっ、そんな取ってつけたみたいに!」


「まあまあ、ここはパイロットと違って交代人員がいないんだから効率よくやろう。」


「昼食を持ってきたんだが忙しそうだな。」


「ありがとうございます、置いていてください明石さん。すいません本当なら緊急事態でもないんで食堂まで行くのが筋なんですが。」


「俺がなにかして役に立つならそれでいいよ、その……毎日好物とか望まれても困るけどね。」


「栄養の不足も過多も困るからね、それにしても君たちは宇宙でもあんな美味しいもの食べてるのかい? 羨ましいな。」


「その点は、明石さん様様だよね、ほんと。」


「おだてても今回は甘いものは少なめだからな御堂。」


――――


 閃光型駆逐艦 医療準備室


 広瀬隊員がまだ着替えもせずに呼び出した真希は質問の意味を考えながらじっと彼女を見ている。


 護と市長について。


 それなら高野副長や相葉隊員の方が詳しいはず。


 必要とあれば、少なくとも護の性格から考えて何かを隠すようなことはないと思われるので本人に聞くほうが早い。


 市長なら同じモデルAIである自分にも答えられる事があるかもしれないが、正直少し戸惑っていた。


「それは、お二人の関係についてですか?」


「いや、二人が過ごしてきた状況についてだな。」


「というと?」


「護が五歳から市長と接触があったのは護本人から確認しているが、もし五歳からAIを親として育った場合どんな風に育つと思う?」


「それは難しい質問ですね。前例が無さ過ぎます、モデルAIがモデルAIを教育することはありましたが、市長はモデルAIとして護さんを教育したわけではないでしょうし。」


 真希は首を可愛く左右に動かしながら考える素振りを見せるが白シャツ姿の広瀬隊員の顔は真剣そのものだ。


「変なことを聞いているようで申し訳ないが、その場合どういう教育を施すと思う? それに、私はAIについては詳しくないが真希さん達はどういった指針で動いているんだ?」


「そうですね、話は山城歴の40年前後にまで遡ります。頭脳に見立てた球体コアが開発されて、その中で人間のような人格が形成されました。開発当初は子供のように言葉や動作には拙い部分が多々見られましたが、立体映像で自分の姿を動かす様子、それは本当に「人間の子供そのもの」だったと当時は言われていたそうです。」


「そこから教育が始まったのだな。」


「今思えば、犬のように人間と共に行動し助け合い。インコやオウムのように人間に懐き、愛し。そして人間のように人間と共に喜ぶ。そんなコンセプトだったと思います。そしてやはり私達は機械みたいなものですから奉仕も学びます。」


「その奉仕の中に滅私奉公も含まれているか?」


「AIですからね。怠惰になる理由もありませんし、サボらず反抗せず基本的に「人間には」嘘もつけません、市長や軍用のモデルAIは特殊なのでわかりませんけれど、通常は管理者から強く命令されれば自己の判断を殺して命令に従うことも義務となっています。もちろん自爆までしますよ。」


「そうか、そんな親を見ながら育った子供がどうなるのか……。」


「護さんが心配なんですね、私も違和感を感じていましたし、最近は特にそう。」


「……自分がないというか周りの思い通りに動き過ぎている気がする。その割には動ける状態でもないのに止めても仕事へ行こうとするのだ。隊長としては正しいのだろうが普段からああでは心配を通り越してしまう。」


「昔からの四人以外には秋山さんや私が勝手をしても怒りませんし、戸賀艦長の要求も最大限叶えています。いくら人材不足で配慮が必要と言ってもこれではまるで……。」


「モデルAIみたい……か? 元々不器用でそういう奴ならわかるが他人と喧嘩もしていたようだし、むしろ気性が荒いとまで言われていた子供が成長した後とはいえ自己を無くすほど組織に尽くすというのは考え難いな。」


「それは私達AIにはわかりませんけれど、出会った頃から考えて、ちょっとしたことで他人の評価を気にして狼狽えているような人ではなかったと私も思います。」


「答えが出るわけではないが、いや参考になった。これはプライベートで出した見解で個人の秘密だから内緒にしてくれるか?」


「はい、お客様のプライベートなことであれば守秘義務としてお守りします。」


「私はこれは病気だと考えている。モデルAIの思いや理念に人間の感性が同調した結果、それを人間として正しいと思う行動や気持ちが肥大化して、このまま病状が進めばAIのように自分を捨てて人間に尽くしかねない、人間として大きな欠点を抱えて生きることになる。そして、急にその症状が現れたのは、たぶん隊に対する責任感がそれを助長したんだろうな。」


「そんな……。」


「あくまで仮説だ、確証はない。だが、もし予想通りなら行動理念や固定概念が定まることで根治が難しくなる、もう成人しているのだ本当は一刻の猶予もないのかもしれん。」


「どうすればいいんですか? そんなことになったら隊長だって続けられませんし、護さんが護さんじゃなくなっちゃう!?」


「うーん、何かを教えられてそれが正しい場合、考えを改めさせるのは難しい。仮説で病人扱いするわけにもいかないから本人や他人に話せない。カウンセリングの知識もない訳ではないが役に立ちそうな範囲ではないな。」


「ではどうして私に?」


「そうだな……真希さんならなにか知っている気がしてな、長年AIとして生きてきて勝手や我儘も出来るAIなら何か糸口を見つけられるんじゃないかと、あとはまあ私の気持ちだな、誰かに話しておきたかったんじゃないかと思う。」


「お褒め頂き光栄ですが……すみません。」


「いや褒めてはいないが……。」


――――――――


 工作艦AR-70 ブリッジ


 蒼鷹がもたらした成果はもちろん工作艦にも伝えられ、今後の相談も行われた。


 そのため進まない任務に一種の閉塞感を感じていた女性隊員たちも少なからず喜ぶ。


 しかし、今までの鬱憤が晴れたわけでもなく航行していること以外はまだ仕事をした実感もない。


 この出発が決まるまで彼女たちは少々退屈だったようだ。


 またその間、定期的に状況を確認してくる護もまだ復帰していないためなのか、男性がいないという緩みも発生、戸賀艦長を困らせた。


 休息時間を終えた相葉隊員も慌てて着たと思われるパイロット用の宇宙服に、寝癖がついた髪でブリッジに到着する。


「ミナ、ブリッジに入るときは身だしなみを整えなさい。じゃないとヘルメットを取らせないからね?」


「はっ、はい、艦長!」


「美弥はまだ起きてこないの、バル!」


「はい、艦長。」


「今寝てるのは美弥だけよね? 部屋をロックして閉じ込めておきなさい。」


「また壊されるのでは?」


「っち……そうよね。」


(女性の舌打ちはAIでもきついものですね八十代を超えて学ぶことがあるとは)


「起こしてトイレとシャワールームの掃除を命令しておいて。」


「了解しました。」


「ヒトミ、準備できた?」


 艦長が呼びかけながら機器を操作するとカメラの映像が繋がりブリッジにエンジンルームの隣にある整備室の様子が映し出された。


「はい、いつでもいけますよ。やっぱり修理工場にくる船より整備のし甲斐がありますね。」


「……どうして下着姿なのかしら?」


「えっ、あっ? すいません作業用の宇宙服を着てると休憩し難くて、それで脱いだら着替えがないのに気がついて――――」


「それでそのまま、ちょっと休憩していたのね。」


「そうなんです~。」


「そう……(女性隊員だけでまとめて正解だったのかしらね……? 広瀬も酷いけどヒトミまで)でも、いつ非常事態になるかわからないし、その時は駆逐艦から整備室に繋げることもあるかもしれないから、休憩するなら休憩室に行くか、着替えを置いて常に服は着ておきなさい。」


「わかりました~。」


「バル、目を閉じていなさい。」


「私も男性にカウントされるのですか?」


「気持ちの問題よ。」


「この通り八十代のシニアですからお気になさらず。」


 真希と違い、めったに姿を表さないバルだが、高齢の執事といった容貌で現れる。


「……それなら、もう少しお祖父ちゃんにしなさいよね。」


「カッコいいですよバル。」


「ありがとうございます相葉副長。若い姿の方がいいと言う意見もありますので服装など、ご要望があればお知らせください。」


「誰が言ってるのそれ?」


「じゃあ、三十代前くらいでお願いします。」


「ミナ、今は遊んでる暇はないから早く席に着きなさい。」


「はい、艦長。」

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