第六十話 SOS
山城歴157年 未探査宙域
亜空間ゲート、それは要塞だった逆巻から隠れるように小惑星帯の奥深くで建造が進められた。
しかも、その構想は戦闘艦が亜空間航行の機能を使って移動してくる亜空間航行の航路の出入り口とはまったく違う場所に設置するという、非常に手間と時間が掛かる大規模な計画だった。
そして、この建設が敵国から多大な労力を使って運ばれた大量の物資を使って行われたことが、これらが練りに練った作戦行動であることを物語っている。
対する逆巻側は、その時点でさえやや劣勢であり駆逐艦隊を主軸に何度も攻撃を退けてはいたが、既に要塞は宇宙船ドックを残してボロボロの状態だった。
それでも周辺の哨戒は怠らずにいたものの、小惑星帯の奥地にまでは手が届くはずもなく、このゲートの建設は成功してしまう。
この奇襲は相手の予測を飛び越えた大規模な歴史的奇策として扱われ、後に軍事史においては称賛を浴びた。
その成功により圧倒的な不利を強いられた逆巻側は「この件は油断していた逆巻側の落ち度である」として批判を受けることになり、この一点においては戦時中の活躍が霞むほどの罵声を浴びることになったのだった。
ただ、今重要なのはゲート跡がある付近は隠れられる障害物が多い場所であり、逆巻からも遠く目立ちにくい宙域ということに他ならない、ということである。
更にこの場所は、ゲートの破壊後から発生している潮流の影響を受けて航行することさえ困難な難所となっている。
そんな場所へ向かう艦隊の一助となるべく出発した蒼鷹は試運転を終えて艦隊の進行ルートにある大きめの潮流に近づいた。
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艦載戦闘機 蒼鷹
「潮流の部分が濁って見えるな。」
「艦のブリッジからじゃ、わからない程度だけど確かに。」
「潮流があるとわかるだけマシ、なんて話も聞くけど本当だな、こんな大きな流れが観測も出来ないとなったらとても近づけない。」
「この機体の推力なら越えられはするけど流されないようにしないとね。」
「瞬、少し抑えろ、速すぎる。」
「……了解。」
「気持ちはわかるが、これからも乗りたきゃ安全運転で頼むぜ。」
「わかってるよ、データの収集はうまくいってるかい?」
「ああ順調だぞ、御堂先輩が組んだプログラムらしいけどあの人も凄いよな、河原さんも褒めてたぜ。」
「隊長たちは僕らと一つしか変わらないんだよね? 松浦さんだけが特別かと思ったけどAランクなんてどうやって取ったんだろうか……。」
「まあ、金のある無しだけじゃないのは確かだな、取れなかったら金は戻ってこないのはまだしも、教習所に通って数年は潰れることになる、よほどの度胸がないと挑戦しないだろう。」
「うん……とてもじゃないけど僕には無理だ。」
「Bランクまでは市の負担で取らせてくれるらしいが、これもなぁ……やっぱり話が旨すぎないか?」
「そうだよね、僕もそう思うけど、ある程度の期間は仕事を辞められないとか当たり前のことしか書いてなかったよね? それにさ、御影隊長はいい人だと思うんだ訓練を受けてる時もそうだけど、あの人は――――」
「いや、わかってるよ。隊長が俺たちを騙してるなんて思ってねぇ、あの人はそれどころじゃなく忙しくして周りが心配してるくらいだからな。」
「……工作艦を女性隊員で固めた時も酷かったよね? 僕はほとんど何も言わずに隊長を睨んでた戸賀艦長が怖くて仕方なかったよ。」
「理には適ってるんだから理屈で押し通せばいいのに何であんなに脅すかなぁ……。」
「でも、なんだか仲はいいんだよね。」
「いや、俺は隊長へ命令口調で話してるイメージしかないぞ。」
「あの二人はツーカーですから。」
「ツーカーってなんだろ?」
「以心伝心みたいな意味ですよ、少しの意思表示で相手が思っていることがわかる、素晴らしい関係です。」
「……真希さん、クリュはいいんですか?」
いつもより小さくなってはいるが操縦席の後ろでは真希の立体映像がお行儀よく立っており、二人の視線が自分に移ると軽くお辞儀をして挨拶してくる。
「もう少しでこの機体は通信し難くなりますから、お見送りをと。だってこの後はメール通信だけだと思うと寂しいじゃないですか? あとで送りますけど既読したら返信をくれないと嫌ですよ!」
「それはどうもご丁寧に……。」
「おふたりとも頑張ってください、美佳さんもそうですけど美咲さんも美奈さんも理香さんも、実質まだフリーですから――――あら?」
距離によって送れる通信容量が狭まり立体映像が消える。
通話くらいなら出来るが諦めて退散するようだ。
「それでは、ご無事のお帰りをお待ちしております。」
「はい、ありがとうございます真希さん。」
――――
「頑張れって、そっちかよ……。」
「フリーなんて言われても高嶺の花過ぎて、話しかけるのも毎回大変なんだよね。」
「中村さんは毎回目元を見てくるし、身体検査の度に広瀬さんには色々触られるし……。」
「相葉さんは隊長と戸賀艦長が可愛がっているから、話してると間近にご家族がいるような圧迫感があるよね……。」
「……無心で仕事してたほうが気が楽だ。」
「そうしよう和也、僕たちの恋人は戦闘機や宇宙船だ。」
決意を新たに操縦に集中、亜空間潮流のギリギリの位置にたどり着く。
迂回するのも面倒なこの潮流をこれからいくつも渡らなければ捜索は出来ない。
頼りになるような過去のデータは異常に少なく、すべてを一から十まで調べていくことになるため非常に手間と時間を要する。
「あとは調査が終わるまで待機したあと痕跡を探すことになるけど……。」
「外周を回って行ったんなら通ったのはこの辺じゃないだろう。ただ、帰り道ならここは直通だから当たるかもな。」
「待機してるのもあれだし、少しブラついてもいいよね?」
「ちくしょう、この機体がよほど気に入ったみたいだな、今度は俺にもメインでやらせろよ。」
ゲームセンターの筐体ではない、本物の戦闘機を操縦する実感を感じて喜んでいる菅原隊員とその動きに合わせてサポートする古川隊員は息のあったコンビネーションで色んな曲技飛行を繰り返す。
その結果、完熟したと言って差し支えないほどこの機体の操縦を物にしたが、それでも飽き足らずに加速や宙返りを楽しんだ。
それは必要なデータをディスプレイで見続けた古川隊員が酔ってしまい、中止を懇願するまで続く。
蒼鷹が待機するため停止した、その時だった。
非常用回線に通信が入る。
それは雑音混じりでごちゃごちゃとしていて内容が聞き取れないが、録音をしたものを繰り返し流し、救助を求めているようだった。
(――――こちら高崎――――救助を求む……7……610――――BB-8……)
「まさか最初の偵察で?」
「いや、なんだか様子がおかしくないか?」
「とにかく閃光型に送ってこっちも帰還しよう。」
「この数字は位置まで知らせてきているのか? よくわからないが、なんで救難信号が出てないんだ? 絶対おかしいぞ、これは。」
「松浦さんたちの判断に任せるしかないよ、解析すればなにかわかるはずだ、急ごう。」
「わかった……いや、お手柔らかに頼む。」




