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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第五十九話 試運転

 山城歴157年 逆巻市出発から十日目 

 閃光型駆逐艦


 資源宙域を離れ宇宙航行を続ける警備艦隊は、しばらくは潮流以外には何もない場所を通過することになる。


 こういった場所でも、もちろん潮流が運んでくる物については注意をしなければならないが、一度止まりレーダーやカメラをしっかりと宙域に調整することが出来れば見通しがよく、比較的安全な場所と言える。


 警戒をしながら素通りしてもよかった。


 だが、これからの航行のために、ここで少しでも先の観測を行う傍ら、戦闘機を飛ばしテストや実習を兼ねて潮流のデータを先行収集させ、そして目標である輸送船の痕跡を探させるために、艦長である松浦は菅原隊員と古川隊員に出撃の命令を下す。


「蒼鷹を任せる、小型の運搬船よりも難しいがお前たちなら大丈夫だろう。」


「予定は俺たちの仮眠後に数時間くらいだけど、いけそうか? 借りてきたばっかりだからな、ぶっつけ本番になっちまうし難しそうなら周辺だけでもいいよな松浦?」


「いえ、やらせてください! 俺たちはパイロット志願ですから。」


「でも、隊長の回復を待たなくてもいいんでしょうか?」


「指揮権は預かっているし、必要に応じて使用することは相談済みだから心配するな。」


 その後、艦長と副長が休息に入り、二人は結衣隊員に見られながら操縦席に座って待機する。


 数度の操縦で徐々に慣れてきてはいるが、この艦の扱いは本当に難易度が高い。


 艦長と菅原隊員が結衣隊員の「サポートなし」で完熟訓練を行うが、瞬発的に上がるその出力の高さにより微調整が非常に難しく、停止や減速するための逆噴射を行うスラスターまでその煽りを受けて制動の間隔が掴み難かった。


 このように相手の隙きを突き、駆け抜けることに特化したこの艦の特性は、十分に操縦者泣かせの機体と言えるだろう。


「あの、結衣……さん?」


「どうしました菅原隊員? あなたの方から話しかけてくるのは珍しいですね。」


「その、本当に戦争ではこの艦を自由に操れる人がいたんですか?」


「ええ……この前いらしていた原田元艦長などは特に見事でした、もちろんそれは戦地でしっかりと戦えるように皆で猛特訓した結果でもあります。管理AIといえどもすべてを効率的に動かすためには人間の乗り手も必要ですからね。」


「そうですか、僕も操縦には自信がある方でしたけど、まだまだだと痛感しました。結衣さんはこの任務が終わったら通常編成に組み込まれるんですよね? その時は色々教えて下さい、僕はこの艦を乗りこなしたいんです。」


 菅原隊員の珍しく積極的な姿に隣の副操縦士の席にいる古川隊員は唖然としていたが自分もそうだとばかりにうなずく。


「やる気があることはいいことです、厳しくてもよろしいのでしたら御影隊長が許す限りお相手しますよ。」


 普段は口やかましい結衣隊員も、優しい顔で答える。


 軍人という枠組みから外れてずっと悲しんでいたが、そのことを少しづつ飲み込み、やっと険が取れてきたように見える。


 数時間の仮眠を終えて艦長たちが戻り、正式に戦闘機による偵察の任務が与えられる。


 二人乗りの戦闘機である蒼鷹は艦載機としては大型で、本機は警備船クリュの三分の二という大きさである。


 普段は、以前クリュがドッキングしていた駆逐艦前部、その下に位置する内部に格納されている。


 そこには新たに昇降装置が取り付けられており、パイロットが内部で乗り込み出撃時にはハッチが開き、せり上がってくる仕組みだ。


 パイロットスーツを着て初フライトに挑むのは新人隊員の二人である菅原と古川の両隊員である。


 その二人をチェックを行っていた井上隊員が出迎える。


「機体は問題ないっすから、すーっと行って、すーっと帰ってくるっすよ。」


「りょっ、了解しました。」


「すーっと行って輸送船を見つけられたら俺たち帰れるっすから楽ですけどね。」


「そっすね、あー通常任務だけでいいのになんでこう緊急の任務がくるのか……。あっ、武装なんかも使えるけど勝手に撃ったら駄目っすよ? よほどのことがない限りは艦長の許可を取るっす。」


「「了解っす!」」


 パイロットもチェック義務があるため、急いで点検を行い、いそいそと乗り込む。


 不安ではあったが現行機それも、最新の艦載機に乗れる。


 それはパイロット候補としてとても名誉なことだと二人は感じていたようだった。


「機器のチェックはOKだ。いこうぜ瞬。」


「和也……僕達は夢でも見てるんじゃないかな?」


「気持ちはわかるがここで失敗したら候補から外れる可能性があるってことも忘れんなよ?」


「うん……そうだね。じゃあ昇降装置を作動させてくれ。」


「了解だ。」


 せり上がっていく蒼鷹、その青と白を基調に塗装された鳥のような正に戦闘機という格好の本機は、小さめの宇宙船に匹敵するほどの大きさだ。


 これは戦闘用ドローンなどの発達により、小型の戦闘機では火力や防御力において優位に立つことが難しくなったために内蔵出来るエンジン出力を向上させ武装を強化するにあたり、必然的に大きくなった経緯がある。


 その分武装のバリエーションは豊富で、現在装備している多弾頭ミサイルや、それだけでクリュの武装を超えるガトリング砲、そしてレーザー砲も結晶を使用しない通常の物だが装備されており下手な戦闘艦よりも重武装だ。


「なかなか、かっこいいじゃないか。こちら高野だ、まずは試運転だ「慌てずに」「ゆっくり」この辺を周回してくれ。」


「了解しました、では発進します。」


 射出機はないため、その場からふわりと浮き上がる蒼鷹。


 スラスターに火が入り徐々に前進、加速していく。


「万が一のためにシールドを確認しておけ、武装も火器管制を点検モードで確認し、いつでも使えるようにしておくように。」


「はい! 和也頼む。」


「えっと、点検モード。条件を設定して、ターゲットを指定、ロックオン、セーフティを解除! 仮想射撃。」


「数回はやっておけよ、慌てると手順を忘れるからな。」


 移動、射撃、移動、射撃を繰り返し、とにかく体で覚えていく。


 メインパイロットである菅原隊員は、閃光型と違って素直なこの機体を見事に操り、試運転のために設定されたルートをほとんどズレなく飛ぶ。


 古川隊員も射撃時の角度調整や火器管制装置とのやり取りをして狙いを定めては撃つ仮想動作を繰り返すが、その間にも本機の動きに注意を払い、周りの状況の把握に努め、時に微細な角度を取る場合などでサポートを行う。


 古川隊員は微細な操作や湧き出てくる情報の多さに冷や汗をかいていたが、そこはパイロット候補、なんとか仕事をこなし試運転を終えた。


「大丈夫そうだな、いや見事だった。次は艦隊の進行ルートを先行して調査だ。」


「データは自動的にこっちに送られるから操縦に専念するんだぞ、ないと思うが潮流に捕まっても慌てずにな。」


「こちら解析班、さっきの操縦は後で数字として出すからね、楽しみにしてなよ。」


「科学調査の観点からみても先行してデータを送ってくれるのはありがたい。調べる時間が多くなると助かるんだ、艦長さんここでの待機時間は長めに取ってくれるんだろ?」


「そのつもりです。二人共、まだ動かしたばかりだ無理はするなよ。」


「はい。」


(スムーズに動く、反応も良い、すごいぞこの機体は)


 初フライトは良好と見られた蒼鷹は、このまま止まっている艦隊から離れ、データを収集するために進行方向にある潮流の側を航行する予定となった。


 まだ試運転したばかりの戦闘機では危険ではあるだろう、しかし艦隊全体にとってこの戦闘機による偵察には大きな意味がある。


 三隻が任務に投入され設備や手数が増えたこともあって、データさえ送られてくれば少しでもレーダーの調整が可能であり、それが叶えばかなり安全に進めるはずだ。


 パイロットである彼らはそんな使命を忘れたかのように新たな機体のその性能に興奮しながら目標である大きな潮流に向かうのだった。

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