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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第五十五話 揺れる隊

 山城歴157年 逆巻市 御影警備隊待機所


 待機所の奥、隊員候補の面談に使用した一室は、応接間として来客に対応に使用されつつ、隊員との相談室としても活用されていた。


 訳有の隊員たちの相談ごとを聞くことはもちろんのこと、時には機密性の高い情報を処理する場合にも使われ、半ば隊長室のような一面も出てきたようだ。


 そこでは今、隊長の護と戸賀隊員は真剣な表情で話し合っている。


 今日の戸賀隊員は普段の強気な態度とは違い、少し悲しそうにしているし、そんな重苦しい雰囲気の中で護もいつも以上に真面目で苦しい表情だ。


「……やっぱり私達の間柄って、その程度なのよね……。」


「いや、姉さんには世話になってるし尊敬もしてる、でもこればっかりは……。」


「仕方ないわよね……私も大人だもの、こんなことで隊の空気を悪くしたくないから、ここだけの話にしてくれるかしら……?」


「すまない、その……思いに応えられなくて――――」


「もう少し気持ちを分かってくれてると思ってたわ、なんて、愚痴っぽいわね……止めましょ。」


 耐えられなくなったのか眼を伏せる戸賀の前で立ち上がり護は相談室から出る。


 そこには女性隊員が揃っており、護に冷たい眼を向ける。


 一人一人の日頃のお互いの信頼関係がどの程度なのか、それは若い護にはわからない。


 そんな、皆がことさら自分を責める表情をすることに恐怖を覚えているが、隊長として出撃前にやらなければならない仕事は多々ある。


 そのため誰とも目を合わせないように広間の事務机に座って必死に仕事を続けた。


 夕刻になって、皆が寮に引き上げた所で今日の出来事により意気消沈した護は、保護者である市長に連絡を取る。


 正直、親代わりに甘え過ぎている、他人から見ればきっと親離れできていないとあざ笑うだろうし自分でも情けない。


 そう思いながらも、護は話を聞いてもらうために回線を開く。


「――――それはあなたが解決しなくてはいけませんよ。でも、今まではどうしていたのですか?」


「急に気になり始めた、というか姉さんだけじゃなくて他のみんなも、その……。」


「それはきっと、みんなの中であなたの存在が大きくなった証拠よ。でもそうね、誰しもどうにもならないことはあるわ。」


「そうだよな、せめて出撃することが、もう少し早くわかっていれば……。」


「こんなことはまたあるでしょうし、隊長として考えて、どうしてもというのなら便宜を図りますよ?」


「婆ちゃん! 散々世話になってるのにこんなことで相談してごめん、給料も減らして構わないし借金の返済も頑張るからこの通り、助けて欲しい。」


 護は机に強く頭を打ち付ける。


「また、私と一緒に公私混同を責められる覚悟もあるのですね?」


「うん……。」


「わかりました、でも次は自分で解決するのですよ? ただ、そうですね……確かに今の制度では問題も多かった、男女平等の社会の中で女性の尊厳を守るためにも必要なことかもしれません。」



 後日、市長の便宜が図られ御影警備隊の内部崩壊の危機は去った。


 だが、法制度を変えなければまた起こり得るこの騒動には理解を示した市長も動き、正式に来年度の法整備が公約されることになる。


「さすが隊長のお兄さんですね、信じてました。」


「隊長さんはやっぱり凄い人ですね。」


「その、悪かったわよ、でも……ねぇ?」


「……自分の蒔いた種なのに、護に当たるような形になったことは謝りたい。」


「……明石さんが悪いっす!」


「中村さん俺の真似はやめるっす!」


「ええっ、俺かい!? 一体どうしたんだ?」


「女性のために頑張る護さんはその……素敵です……。」


「護ちゃん、ありがとう……ごめんね。」


「もう……わかりましたから、お礼は市長に言ってください。特例として姉さんが代行という形で報告を受けて貰えるようにしてくれていますから、すぐに提出してくださいね。でも、男性隊員との合計値だけはもらいますよ。」


 出撃前に量られる重量、それは個別に記載し管制室に報告する義務がある、これは隊であれば責任者である隊長の責務であり代理を挟むことなど本来は許されず、内容や内訳を知らないでは済まされない。


 だが、いつもは渋々応じて検査結果を持ってくる女性隊員たちは今回、警備隊の寮で共同生活を続ける内に、少しばかり油断してしまっていたようだ。


 プロの料理人とその妻による、毎食出される美味しい料理。


 いるのが辛かった集合住宅とは違う、とても過ごしやすい家。


 話し相手にも困らず楽しく過ごす日々が、彼女らの体に変化をもたらしてしまう。


 そのことを隊長とはいえ護に知られるのが嫌になった彼女たちは、それぞれで直談判するが安全のために定まっていることであるため、それを覆すことがどうしても困難だった。


 仕方ない事、それは分かっている。


 しかし、断られた彼女たちは少しばかり護に当たってしまったようだ。


 そして、そのことで苦しい立場に立たされてしまったと思い込んだ護は、結局市長に泣きついてしまったのだった。


「「女は怖い。」」


「結婚するとこんなもんじゃないぞ二人共。」


「そろそろ、俺たちも協力して市に恩を返さないと護が可哀想だな……。」


「もう、軍人になっちゃう? 俺たち?」


「それはもう少し時間を置きたいよ、俺もみんなとなら望むところだけど、まだ隊が出来てから間もないしなぁ。」


「河原さんは慎重だなぁ。俺も親からは借金は自分でしっかり返すように言われてるし、その一助になるなら考えてみるかな、誠や英二と違って自分が軍人向きとは思わないけど。」


――――――――


 市長官邸 応接室


「今回はお世話になりました、あのお若い隊長さんにも、よろしくお伝えください。」


「いえいえ、こちらこそ原田さまには南山郡の投資でお世話になっていますから、本当は観艦式の時にお呼びする予定だったのですが予定が繰り上がってしまって申し訳ありません。」


「いえ、残された者としての胸のつかえが取れた気持ちですわい、他の艦も見つかるといいですなぁ。」


「ええ、そうですね。ただ、光輝型数隻は見つかりましたがAIコアがずたずたでした……悲しいことですがこれが普通なのでしょう、姉は運がよかったのだと思います。」


「……市長、御影警備隊への支援、決心がつきました。可能な限りご助力致します。」


「もう、これ以上は流石に……姉も叱っていただきましたし、ご無理をなさらないでください。」


「なに、子にも孫にも言い聞かせてあります。私の私財で事が成るのなら存分にお使いください。」


「……ありがとうございます原田艦長……。」


「……やはり、市長が若い姿だと落ち着きませんな。昔のように怒鳴りつけてしまいそうだ。」


「あら? お気に召しませんか? 結構好評なんですよ?」


「軍艦は、やはり男のAIが相応しいと思いますぞ。」


「まあ! 嫌ですわ、軍人になるのに男も女もありませんよ?」

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