第五十六話 警備艦隊
山城歴157年 逆巻市 宇宙船ドック
宇宙船ドックで改装と調整を受けていた三隻の船は命令を受けてから三日という急ピッチでの作業を終了し、その準備を終えた。
隊長と進藤は出発前日にドックの作業員に紛れて確認を行い、各種機器の調整、物資を運び込んでいた。
急遽、乗員も一名増えることになり追加の物資もさらに運び込まれたためでもあるが、とにかく夜通し作業を行っていた。
これは閃光型が出発することを知った観衆の目から、隊員達を避けさせるために搭乗からすぐに出発できるようにと考えられた隊長の配慮の結果でもある。
少々この船の帰還が有名になりすぎたのもあるが、修理後の初航行ということでドックに押しかけてくる可能性も考慮しトラブルを避けるためにも、なるべく早く出発することになっている。
宇宙での航行任務の内容は基本的に部外秘であり、少なくともその完了までは周知されないが、今起きている事件やどんなことにでも口さがないことを言ってくる連中を避ける意味でも、これが最善とされたのだった。
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工作艦 AR-70-4
「さて、それでは相葉隊員、よろしくお願い致します。副艦長として頑張ってください。」
「はっ、はい! よろしくおねがいしますバルさん。」
「バルと呼び捨てて頂いて結構ですよ? あなたの手足となって働くからには呼びやすい方がいいでしょう。」
「わかりました、バル……。」
「あら? 艦長への挨拶が先じゃないのバル?」
「艦長へのご就任おめでとうございます戸賀艦長!」
「護みたいなこと言って……もう。」
「整備班より連絡、異常なしです、いつでもいけます。」
「了解ヒトミ、一人じゃきつかったらいつでも言ってね。中村、広瀬、カナは大丈夫? 美弥は大人しく手伝ってるのよ?」
「おお戸賀、医務室の点検は終わったぞ。」
「こちら中村、機器の最終チェック終了~。」
「……問題ありません。」
「教官、私にだけなんか言い方違うよね? あっ、頑張ろうねカナ!」
「……はい、秋山さん。」
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警備船クリュ
「護さん、本当にこちらには誰も乗らないんですか? 寂しいです……。」
「……帰りは誰かを乗せることになります……救助となったら、にぎやかになりますよ……。」
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閃光型 駆逐艦 八番艦
「閃光型の艦長として相応しい振る舞いをお願いしますよ、松浦艦長。高野隊員も。」
「副艦長としての立派な振る舞いってどんなだろうな?」
「結衣隊員もよろしく頼む、整備班、状況は?」
「こちら進藤、こっちの準備は出来ているぞ。前日に入って調整しただけあって完璧だ!」
「出発前の会が終わったら急にいなくなるからサトミさんも呆れてたっすよ。」
「こちら河原、解析班(情報処理班)も準備完了だよ、もう一人くるらしいが、やっぱり手が足りないから調査した航路データは送るけど、工作艦の方は姉さんと相葉ちゃんでバルに協力してやってくれ。」
「まったくだよ、交代のこともあるし三隻も一気に面倒を見れないからね、真希先生も結衣大尉頼んだよ。」
「御堂隊員はもう少し配慮のある言い方を覚えなさい。」
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駆逐艦内 居住エリア
「常備薬を確認、ってなんで俺らが救護班をしてるんだろうか……。」
「そりゃ僕らは新米だから仕方ないだろ? 副操縦士と戦闘機の方は、後でやらせてもらえる予定なんだからいいじゃないか。」
「いや、工作艦に乗せられて救助者を抑える役になるかと思ってたがなぁ。」
「あっちに乗ってる女性隊員は僕らより強いから……。」
「クリュも自律機動のテストも兼ねてるから乗れないしなぁ。」
「パイロット候補に手伝ってもらって申し訳ないけど、今は頑張ってくれ、そういえば好きなものはあるかい?」
「明石さん!? 聞いてたんですね……えっと、僕はスパゲッティかな。」
「俺はカニクリームコロッケかな、カニってなんだか知らないけど。」
「そうか……そのうち作って見るから期待しててくれ。」
「「ありがとうございます!」」
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クリュの最終チェックを済ませた護が全体の指揮官として閃光型に乗船する。
提督と呼ぶべきか? 軍人ではない警備隊の船団の指揮官として色々と迷われるが、今まで通り? に隊長呼びするということで決定する。
「あっ、いたいた隊長さん。」
護が移動しようとすると一人の男性が声をかけてきた。
髪が黒くボサボサで、30~40代くらいだろうか? 制服は間に合わなかったのか宇宙用の白衣と普段着を着ている、この普段着も制服と同じで簡易宇宙服モードが使える仕様だ。
「すまん遅れた、科学調査班として同船させてもらうことになった草壁徹だ、よろしく頼む。」
「……市長から話は聞いています、まさか前日に乗員を増やすと連絡してくるとは思いませんでしたが、手が足りないので助かります……。」
「スポンサーからの依頼は潮流の調査が主だが、もちろん協力させてもらおう。? どうした、元気ないな?」
「いえ、徹夜してしまって、ちょっと……お聞きかもしれませんが閃光型の解析室に席を用意してありますので……後は松浦艦長と話してください。」
「わかった、世話になるよ。(どうも苦労を掛けたみたいだねぇ、悪いことしちゃったよ。)」
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御影警備隊は宇宙船ドックから出発し、一路。
「第二資源採集宙域」通称、北山群へ向かう。
今回は、性能差のある三隻がしっかりと連携できるように予定が組まれ、クリュが少し離れたり閃光型が先に行き過ぎたりもするが、これらはすべて予定の行動である。
正式にクリュの管理AIとして真希が艦長となり、自律した機動が行われるが、そこには問題がなく順調と言えた。
ただ、新しく艦に入ってきた人物と隊長の護、そして真希は色々と問題を抱えているようだ。
「……悪い、松浦、高野、姉さん、あとは頼む……。」
「俺たちを呼ばずに作業に向かうからだ、まったく。」
「全員が寝不足で出発するわけには……いかない。」
「それでも、もう少しやりようはあったよなぁ、でもまあ、お疲れさん、ゆっくり休めよな護。」
「草壁さん? 大丈夫かい?」
「いや、すまん閃光型ってすごく揺れるんだねぇ。」
「船酔いの薬はあったかな?」
「後方の赤い引き出しに入ってますよ。」
「そっか、ありが……何やってんの真希先生?」
「寂しいから、来ちゃいました!」
「そっ、そうなんだ? (セキュリティをもう一度見直すかな)」
「ガバガバだな閃光型。」
「真希さんが特別なだけです……。まったく乗船するなら先に許可をとりなさい!」
「まあ! 結衣さん、そんなに怒らないでください。」
「その制服は地球モデルだね! いやー資料の通りだ、映像は鮮明だけど随分古そうなAIの立体映像だなぁ!? 興味深い……うぷ。」
「早くお薬を飲んでくださいね、それと女性に対して古いなんて言っちゃ駄目ですよ?」
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「やっぱり広い艦はいいよね、クリュだったら出発して安定してからもしばらくは、搭乗席から動けないし。」
「そうだなぁ、空きスペースがあるなら、また医療機器を入れるか、何が起こるかわからんしな。」
「理香ちゃんの理想通りにすると病院船になりそうだから、そこは護ちゃんと相談しようよ。」
「中村さん、ドアが壊れちゃって、どうしたらいい?」
「秋山ちゃん!? それは壊したって言うっす!」
「えーそうかな?」
「手は大丈夫か!?」
「理香ちゃん、先にヒトミちゃんを呼んでほしいっすよ!」
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「艦長、昼食はどうしましょうか希望はありますか?」
「……ダイエットメニューでお願いするわ……運動時間も長く取るから希望者は言って頂戴。」
「艦長、最初の潮流に入ります。」
「了解、またフォルみたいな奴が入り込まないといいわね。私もあれは説明できないわ。」
「そっ、そうですね。」
遭難として断定されていないとはいえ救助を目的とした行動と感じさせない和やかな雰囲気の中、隊員たちは航行を続け通常二日の道のりを一日で移動、北山群へと差し掛かる。




