第五十四話 必要な事を必要なだけ
山城歴157年 逆巻市 御影警備隊待機所
降って湧いたような緊急任務により、総動員となった御影警備隊は救助ということで焦っている者もいるが、船の準備もあるため必要以上に急いでいても、まだ出発はできない。
だが、正式な命令書をもらった次の日には休暇が予定されていた者も一度集合し、朝一会議が行われていた。
第一の目標は、北山郡の外周。
そこから痕跡を辿れるようであれば可能な限り追跡を行うことになる。
戦後、研究者が調査を打ち切ってから既に四十年近く人が入っていない亜空間ゲート跡に至る道。
それは難所に次ぐ難所ということ以外は状況もわからないため、航行にはその場その場の対応が重要な場所となっており経験と技量が問われる所だろう。
まだ未知数というよりは確定的に経験の浅いと思われる警備隊ではあるが広間に集まり、まずは知識と認識のすり合わせや確認事項に追われている。
「在庫を抱えていたお店があって助かりました、これなら二日くらいで必要な物が揃います。」
「さすが相葉ちゃん、それにしても四十人に届く人数に必要な3ヶ月分の物資が二、三日で揃うなんて不況なればこそだよな店も助かったろう。」
「彼らの船が壊れていたらどうするんだ? 生命維持装置もそうだが、寝床も予備の宇宙服も必要になる。」
「可能な限り工作艦のスペースに彼ら用の物資と共に詰め込みます。それと相手側の艦長と私以外は基本的に直接の接触はしません、必要でも最低限で行います。」
「なぜだ? 宇宙での漂流者は心身ともに病んでいる場合が多い、すぐに診察をしなければ。」
「こういった場合に人質を取って大規模な乗っ取りを行おうとする者も過去にいたようです、彼らが普段はまともな人間でも精神状態が悪化していれば何をするかわかりません。場所が場所なだけに、普通に救助して連れて帰るというわけにもいかないことは、ご理解ください。」
「……その通りだな、すまなかった。」
「焦っちゃだめよ広瀬、一人づつなら診断も出来るだろうし、みんなで協力するからね。」
「生鮮食品が足りない分は錠剤か、栄養については学んだがこの辺はよくわからないな。」
「まあ、大丈夫だろう一ヶ月くらいは粗食に耐えるつもりがなければ、こんな馬鹿げたことはしないだろうしな。」
「レーション暮らしなんてまっぴらっすねー。」
「船が分かれるから全員分作れないのが残念だ。」
「「しまった!」」
「自分で作っても味が違うのよね……。」
「本職ってやっぱり凄いんですね。」
「隊長、閃光型のリストにあるこの艦載機ってなんすか?」
「良いところに気がついたね古川くん、誠が市長に強請って手に入れた機体なんだよ。」
「二人乗りの戦闘機「蒼鷹」だ、逆巻市に贈られた艦「軽空母、瑞光」に搭載予定だったが借りてこれた、これでなにかしら怪しい場所への偵察ができる。」
「どうして一昨年に配備されたばかりの艦が市に……。」
「詳しいな、軍人不足で余っていたところを結晶と交換したらしい、結晶やレアメタルは使われていない艦だが最新型だから今後何かで役に立つだろう。」
「その艦ごと警備隊に回ってこないんですか!?」
「落ち着かんかヒトミ、こちらも三隻運用するので手一杯だからな、人員次第じゃないのか? 訓練もいるだろう。」
「そうですか……いいなぁ新鋭艦か……。」
「あの、私も参加してよろしいでしょうか?」
「カナさん? 未成年ですが訓練生として参加は可能ですけど、心配なので出来れば待機所に残って頂いた方が……。」
「しっ、心配なんて! わっ、私も行きます! 護さん。」
「そうね、暴れる乗組員がいたら取り押さえないといけないし、きっと助かると思うわ、ねえ? 高野。」
「えっ、俺? まあそうだな、助かると思うぞ。」
「わかりました、無理はしないでくださいね。」
「先頭の閃光型がデータを送信しつつ、二隻のバックアップか、というかクリュいる?」
「万が一に備えて後続として来てもらいます、真希ちゃんだけでも動くみたいですから整備班が時々様子を見れば、隊員が乗る必要はないかも知れません。」
「保険として大げさな気もするね。まあ無理だったり必要が無さそうなら帰らせればいいよ。」
「乗客がいないと拗ねるんじゃないかしら?」
「工作艦に回線を繋げて、思う存分接客してもらいましょう。」
「適材適所だなぁ、さすが隊長だねお兄さん。」
「……はい。」
(美弥……あんたの方が年上なのよ? そのあたりちゃんとわかってるのかしら)
(副操縦士とはいえ閃光型も捨てがたいし、戦闘機も乗りたいし、僕のポジションはどこになるんだろう)
(工作艦なんて初めてだよ、地球からのカタログとはもう設備が全然違うみたいだし、整備用のマニュアル読んでおかないと)
(できればクリュに乗って後方がいいっすね。)
――――――――
逆巻市 宇宙船ドック
ここでは現在、工作艦を簡易ホテルにするべく急ピッチで作業が進んでいる。
物資も詰め込むために内部が点検されるが、もともと多種多様な工作用具を詰め込んで活動していた輸送船に近い設計のARー70型は元々積載については十分なスペースがある。
ブリッジを箱で挟んだような双胴型の本艦は何を入れるにも重宝するだろう。
そこに雑魚寝に近いが人が寝泊まりできる区画を設け、救助者がいればそこに押し込める予定だ。
贅沢は言えない。
だが、必要な物は揃っているし、救助が難しければ作業ドローンや買い足された移動ユニットでのサポートも可能なので救助船としては及第点だろう。
「お客様が一人も乗らないなんて……。」
「まあ回送だと思ってここはご辛抱を、救助者が出たらお世話をお願いします。」
「そうですよね、では失礼して……。」
(なっ、なんですかこの艦が侵食されるような感覚は)
「ふう、お客様のお世話するのに何も知らないというわけにもいきませんからね。」
真希が工作艦からデータの吸い出しを行っていると近くで大声がし始める、一人の老人が閃光型の前で杖を振っており、護衛と見られる黒服の男女がなんとか窘めようとしているようだ。
そんな状況だが結衣の姿はなく音声でのみ対応している。
「こりゃ! 結衣! 出てこんか!」
「原田……艦長……お久しぶりですね……。」
「なにがお久しぶりじゃ! 儂らを置いて出撃しくさりおって! そこへなおれ!」
「会長落ち着いてください、お体に障ります。」
「やかましい、あの若い隊長からは許可を貰っとる! あの時のことを全部話すまで帰らんからな!」
「いえ、その、閃光型十一隻の判断でして私の独断では……。」
「あらあら嘘はいけませんよ姉さん、九隻の独断ですよね?」
「真奈、ちゃんと任務はこなしますからお止めしてください、よじ登ってブリッジまでこられそうだわ、危険よ。」
「また勝手に出撃されたらお説教もできませんからね。私も、もう少し当時のことを聞きたいわ。あっ、これは命令ですよ?」
「あなたまでそんな……。」
「くっ、よりによって儂の乗艦だけが帰ってくるとは……ともに悲しんだ皆に申し訳ない、今までどこで何をしておった! 結衣返答次第では、ただでは済まさんぞ!」
「わざわざ南山郡からお越しになられているのですから、会ってお話するのがヒトの道というもの。」
「わかりました……。」
(旧逆巻の軍人ですか、八十代後半くらいでしょうか? やはり随分と時が経った、私達にとっては時間が経過しただけですが、人間にとっては一生の大半、その半生を後悔の中で生きたとすると同情を禁じえませんね)
「そちらにもお客様が? おもてなしをしなくては。」
「! 真希さん、なんですかこれは? 止めなさい!」
「これでそちらにも投影出来ます、こういうのは共用と違って面倒ですよね?」
「許可のない乗船は看過できま――――」
「結衣大尉、聞いとるのか開けんか!」
「はい……。」




