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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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番外編 初めが肝心

 山城歴142年 逆巻市 孤児院 速川健


 皆様、如何お過ごしでしょうか? 速川健です。

 私も今年で十二歳となります。


 中学に上がる予定でしたが、方方からの圧力……いえ、家族の期待に応えるために他の方々より先に進学し高校生になることとなりました。

 

 そんな私はこの度、市を統べる桜井市長からの要請を受けて孤児院に来ています。


 出来れば家庭教師のアルバイトをするように、とのことですが正直気乗りはしていません。


 私には私の目的があります、それに誰かに物事を教えるということが、どうしてもピンときません。


 それも相手は五歳児というのでは困惑もしようというもの、妹とも歳が違いますし、どういった口調で何を教えていけばいいのか迷いますね。


 とにかく、お約束として会ってから決めるということになっていますので、まずは会ってからです。


 早々と随分と大きな家に引っ越しさせられたり、また外堀を埋められているような気もしますが、駄目そうなら断ってしまわなければ、きっとその子達のためにもなりませんからね。


 その時は相手が市長でもビシっと言いますよ、ビシっと。


 という訳で、どうみても古めかしい中学校跡地に見える古ぼけた孤児院に到着しました。


「子供を保育するにしては飾り気のない……。」


 粗雑な作りも気になりますし、入り口への階段の高さが遊んでいる幼児に合っていませんね、手すりも届かないから転げ落ちて怪我をしないか心配になります。


 スロープにするとか出来ないものか?


 設置された遊び場も鉄棒などが高すぎる。


 これは心臓に悪い。


 早々と退散したい気持ちが強くなりますが約束は約束です、会うまでは帰れません。


 勝手に入っていいか迷いましたが、まあ呼ばれている訳ですから多分大丈夫でしょう。


 中へ入って周囲を確認しましょう、中学生を経験していない私ですがなんとなく構造はわかりますよ、ドラマで見ましたからね。


 元職員室がそのまま先生たちの職員室になっているようですね、少ない印象ですが机なんかもそのままです。


「逆巻市、市営児童養護施設「竹里」へようこそおいでくださいました、私は院長の世良と申します速川先生でいらっしゃいますね。」


「はい、速川と申します。」


 既に「先生」が来ると連絡してありましたか、断り難くするために次々手を打ってきますね。


 他の児童も教えるのかと思いましたが、話にあった二人だけのようです、よかった。


 教員免許も持っていないのに万が一にも一クラスなんて任されたらと思うとゾッとします。


 図書室で教えることになるため、とりあえず図書室へ招かれました、児童でも本が読みやすいように畳が敷いてありますね珍しい。


 手間が掛かって昨今は工場が閉鎖されたと聞いていますがもったいない話ですよ、遊んでよし、運動してよし、寛いでよしと中々いい床材なのですが……。


 私も上がってみましょう、柔らかくて足に吸い付くようです、これはとても上物のようだ。


 そうだ、畳で寛ぐ際は古式ゆかしい座り方である正座を心がけるべしと本にあった気がしますね、やってみましょう。


 ふむ、姿勢も真っ直ぐになるし悪くありません。


 おや? 来られましたね。


 しまった、畳に夢中で対応について何も考えていませんでした。


「この二人です、ふたりとも、きちんとご挨拶できますね? それでは後は若い者同士で。」


「はっ、はあ……。(それはお見合いでの台詞では?)」


「兄ちゃんが先生か?」


「はっ、いえその……まあ兄ちゃんですね。」


「そっか! 俺はまもる、よろしくな兄ちゃん。」


「あいば……みな……です……。」


「はい、申し遅れました私の名前は速川健です……。」


「はやかわ兄ちゃんか!?」


「はやかわ……おにいさん……?」


 くっ、可愛い!? ですが好都合、このまま先生というのを忘れてもらって遊びに来たお兄さんで通しましょう。


 そういえば気になる点がありましたね、子供なのに中学の本が読めるとか? そこだけは確認したい。


「本がお好きと聞きました、一度読んだ本を持ってきていただけますか?」


「わかった、いこうミナ!」


「うん……。」


 女の子の方は大丈夫なのでしょうか? なんだか意識が別の所にあるような?


 しかし、この図書室にあるのは紙媒体のものばかり、今は不便なのでどこでも端末方式なのですが少し古すぎるような? 見てると一昔前にタイムスリップしたような気分です。


「これ!」


「これ……。」



 護くんは「よいこの足し算・引き算」

「書ける、ひらがな・カタカナ」


 うん、なるほど。


 流石に中学の本だけで新しい本を買い足さない、なんてことがなかったことには安心しました、紙媒体を選んだ理由がわかりませんけど。


 そして美菜さんの本は……。


「中学用・漢字辞典」

「初めての因数分解」「あなたは悪人でないか?」


 重かったんじゃないですか? 護くんが手伝った? 良い子ですね。


 ふむ、読むという定義も人それぞれですが、パラパラめくったのか、この歳で意味を理解してしまったのか?


「では、美菜さんの本からいきましょう、漢字を指定するので読み方を教えていただけますか?」


「はい……。」


 これは凄い、稲穂いなほまで読めてますね。


 えっ、書けますか? 凄い。


「美菜さんは本当にすごいですね、素晴らしいです。」


「……。」


「よかったなミナ。」


 顔を赤くしてカワ……いや駄目です、ほだされては。


 しかし、これは無垢な子供を興味本位で試してしまっているのでは? いや、そのままですねこれ、先生などやる気がないというのに……。


 とにかく最後までいきましょうか……。


「公式は覚えました?」


 (a + b)2 = a2――――


 うーん、すらすら書いていますね、おや? これは。


 違う項目やページ数まで書いてますね?


 わかりました、つまり内容を読み込んでるというのではなく、記号として丸暗記している感じですか。


 はぁ……でも、それはそれですごいですよ、書くにしても書き順は怪しいですが字そのものは間違ってはいません。


 仕組みさえ理解して埋めていけば応用問題もきっと簡単に解けますよこれ。


「なるほど、護くんは足し算引き算は出来ますか? それなら掛け算からいきましょう。」


 私が五歳の時は何桁くらい掛け算やっていたでしょうか、思い出せません。


――――――――


 ふむふむ、順調です。


 おっ、時間はかかりましたが、護くん二桁いけましたね。


 さすがに市長から頼まれる子たちだけのことはあります、護くんも十分優秀と言えます。


 最後に「あなたは悪人ではないか?」いやいや、こんな今までの自分を否定するような話は子供には早いです。


 意味がわからないうちに読んだようで本当に良かった。


 楽しい本を読んでいけば、きっと忘れて思い出すこともないでしょう。


「では、今度は私が本を持ってくるので休憩していてください。」


「はい!」


「……はい。」


 んっ? 足がしびれて動けませんね? ぞわぞわして気持ち悪いし足を崩して一回休憩を、いや、子供の前で変な体制は取れません!


 はぁ……さて、どんな本がいいのか、買い足した本がどこかにまとまっていればいいのですが……。


 おっ、岬提督の伝記ですね。

 

 しかし、これは中学高校レベルのもので途中から最後までが残酷過ぎます。


 今度、子供向けになっている物をプレゼントしましょう。


「革命の獄炎」

「堕落の底」

「忍者、赤石丸あかいしまるのモテ記」


 中学生にしても教育に悪そうな本が多すぎませんか?


 挿絵も強烈ですね、モロですよこれは。


 カッコいい表紙で惹きつけて、若い人に革命の美辞麗句を説きたい気持ちもわからないでもないですが、自分の中の革命が出来上がってないと他人の意見で戦うことになるだけだと思いますよ私は。 


 ホラーなんて以ての外です、夜トイレに行けなくなったどうします。


 たくさんの女忍者にモテモテ……ですか、おでこにちゅ~したら強くなる!? なんと破廉恥な。 


 高いところに置いておきますか……。



「丁寧な言葉、明るい挨拶」


「世界の単位」


「理科から科学へ」


 まあ、このあたりでしょう、おっと科学は駄目ですね真似して実験したら大変です。


 庭を燃やして怒られるのは私だけで十分です、ええ、そうですとも。


 時間が掛かってしまいました、使えそうな本が少なすぎます。


 今度来るときは何冊か買って来ましょう……今度? あれ? いかんいかん。


「くー……すぴー。」


「うにゅ……。」


 あらら? 算数の続きをしていて寝ちゃいましたか、そうですよね算数って疲れますよね。


 護くん、二桁はもう完璧ですね。


 美菜さんも、もう九九を理解しましたか使いこなしていらっしゃる……。


「とりあえず先生を呼びますか、風邪でも引いたら大変です。」


 とにかく才能があるのは十分わかりました、私では手に負えないかもしれませんし、しっかりとした教員免許を持った方に預けるように言いましょう。


 私のような若造がでしゃばった所でちゃんと教えられるかわかりませんからね。


 ……恐らく、この子達も覚えた事を相手に見せても理解されなかったりして辛かったでしょうね……私も経験ありますよ。


 個別指導の先生が付くとそれが当たり前になって褒めてもらえないし、期待と重圧だけがのしかかって……。


 いつか地球について調べて「なんで誰も地球を助けないんだー」とか騒いで周りの大人を困らせるのでしょうね。


 いや、これは誰も彼もが通る道だと思います……。


 あーいけませんね、私程度の人間が他者に同情などしては、あの子達を試した罪は私の三ヶ月分のお小遣いで買う、お菓子と本を送って許してもらいましょう。


「では、世良先生、あの子達をよろしくお願いします。」


「はい、いかがでしたか? 子供って大変でしょう?」


「いえ、素直でいい子たちでしたよ?」


「そうですか? よかったわ、次はいつ来られますか?」


 いえ、それは……おや?


「兄ちゃん!」


 護くん……。


「……また……ね?」


 美菜さん……。


 ここで、もう来ませんとは言えないですね……。


 仕方ありません少しだけ、もう少しだけ一緒に頑張りましょう。


「護くん……。」


「なんだ?」


「美菜さんを降ろしてください、危ないですよ。」


「わかった!」


「! ゆっくり! ゆっくりですよ!?」


――――――――


 疲れました……まあ、乗りかかった船ですから善処することにしましょう。


 私に出来ることもきっとあるでしょうし、彼らはなんだか心配なところもあります。


 それに……最初くらいは誰かに褒められながら勉強するのも悪いことじゃありませんよね?

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