第五十三話 御影警備隊の行く末
山城歴157年 逆巻市 宇宙船ドック
現在行方不明となっている高崎造船の輸送船は、恐らく亜空間ゲート跡に向かって航行していると見られている。
市長の命令により細かい概要を調べるように指示が出ているが、逆巻港から社長以外の協力者を残さずに出発しているために計画の細かい部分を知るものがいなかった。
分かっているのは船の性能と、人数が跡取り息子を含めた22名ということくらいだろう。
宇宙船ドックを介さずに造船所での作業段階で秘密裏に物資を詰め込んでいるため、どれほどの日数が航行できるのかはわからないが輸送船という艦種と、領収書や取引履歴を見るに、その通りにしっかりと載せてあれば数ヶ月はもつだろうという推定だ。
市に見つからないという計画の見事さの割に、このあたりが雑で入手経路もバラバラであり、個人が独断で買い揃えた物もあって微妙に分かり難いという感じである。
市長は救助を行うための手段として閃光型を使うかどうかを迷ったが、とりあえずは宇宙船ドックを訪れ、当人に相談してみることにする。
そんな市長と結衣は船内のブリッジに立ってお互い神妙な顔で睨み合っている。
「それは無理ですよ真奈。」
「……宇宙の状態があの頃とは違いますからね。」
「敵艦からのデータで見ましたが、いくら閃光型でも潮流を突っ切るのは危険すぎる、性能や腕の問題ではありません。」
「しかし、このまま見捨てるわけには……。」
「そうですね、救助出来るのであればした方がいい。でも、それは現実的に難しい上にまだ遭難したと決まった訳ではないのでしょう?」
「確かに、でも捜索は行いたいのです。」
「自分でやれ、ですか? 軍人の性質も変わったんでしょうね、昔はこういう時、不謹慎な表現ですが喜び勇んで出掛けていく者も多かったというのに。」
「費用が掛かりますからね、こちらで負担すると言っても星彩型に被害を出したくないようで……。」
「そんなことで軍隊が務まるのか、疑問ですね。訓練だと思って人を送ってくるくらいの気概はないのでしょうか? まあ、軍属でなくなった私が言っても仕方ないことですけど。」
「とにかく、残された計画書にあった北山郡の外周まで行っていただけませんか?」
「警備隊の隊長も通さずに? 私を警備隊に入れたのはあなた、なのですよ?」
「そうですが、もし伝えたらどうなるかはわかるでしょう?」
「私はあの子達のことはあまり知りませんけれど、間違いなく自分たちで行くと言うでしょうね……! 盗聴されています真奈。」
「えっ?」
「隣のクリュから直接通話線が張られています、私としたことが。」
「どうして気が付かなかったのです!?」
「センサー関連が昔と勝手が違いますから、あなただってわざわざドックに来て話しているからではありませんか、私のせいではありません。」
「真希さん! 他言無用にお願いします!」
「申し訳ありません市長、今ちょうど護さんと通話線のお話をしていて、お隣の駆逐艦に繋げてみろと。」
「嘘を言わないでください真希さん、そんな偶然があるはずないでしょ!?」
「――――はい、わかりました。護さんたちが直接話したいそうですよ?」
「ああ……。」
隊員候補を迎え入れて数ヶ月、もう十一月になろうとしているが、なんとか全員を合格させて訓練を行っていた御影警備隊は、今回の事件を知って待機所で市長から説明を聞くことにした。
御影警備隊待機所
「……概要は以上ですが、何か質問はありますか?」
「いえ、出発まで時間がありますから、また追々。」
「言いふらしたりしないように説明はしましたけど出動を要請した覚えはありませんよ?」
「みんなはどうする? 降りるか?」
「? 聞くまでもないだろ、いつもの退屈な任務より楽しそうだ。」
「松浦、不謹慎よ。」
「まあ、俺たちが持って帰ったお宝が原因っていうなら責任は俺たちにもあるしな。」
「その、英二くん……顔がにやけてるよ。」
「今度は、完調の閃光型をフル稼働出来るな。」
「お休みの人たちにも連絡したよOKだって、お兄さん!」
「隊長です!」
「待ちなさい護、今回は初任務の時より危険なのですよ? わかっているのですか?」
「クリュ一隻ならともかく、三隻だから大丈夫だろ?」
「いえ、しかし……。」
「そうだ! 俺もわかってきたよ、婆ちゃんが警備隊を作った理由が、政府が軍事費を減らしても逆巻港が守れるように、独自の軍隊を作るつもりだったんだな。」
「……。」
「政府は居住地が独自で防衛することを推奨しているから政府の軍隊からの保護を打ち切っても、前例通りに事が運べば星彩型が何隻かはそのまま貰えるはずだ。かかり続ける維持費と、ただでさえ少ない軍人を取られ続けるよりは大分マシなんだろうな。まあ、ここにはもう軍人はいないけど。」
「一体どこで気がついたのですか? 前はわからないようだったのに……。」
「警備隊を設立する前に議員たちに配られた資料と寄付金の項目を見てからだ、不況で金もないのに船を何隻でも提供してもらえるように書いてある。必要がない船はスクラップにして売るにしても今はあんまり買い手もつかないだろ?」
「つまり俺達の行く末は逆巻市内に限られるが軍人か、それみたいなもんになる予定だったのか?」
「それなら五年で枠組みだけ作って、まあ十年、二十年後って、ところじゃないか? 気の長い話だ。」
「まったくだ、先に財政破綻が来そうだよ。」
「もう少し早く言ってくれれば兄貴も協力出来たんじゃないか? それに経済的な負担だって増大する可能性もあっただろう? そこだけはよくわからないんだよな。」
「未来ある若者を騙してやるようなことではありませんけど、少しつづでも軍人になってもいいという、それなりの人材を探さなければなりませんでしたので……。」
「秘密だったのは逆巻港内外からの妨害工作への警戒と、警備隊自体が崩壊しかねなかったから、って所ね? 確かに私も軍隊もどきなら躊躇したかもね。」
「まあ、この話はまた後日にでもゆっくりとしよう。(まだ秘密があるようだしな)とにかくそんな理由があるなら救助のひとつもこなして見せないと軍人志望どころか、隊員志望も出てこないさ。」
結局、護たちが救助するという方針が固まり総員準備に入る。
しかし、かなり遠回りしているとはいえ、二ヶ月以上も先行している船に追いつけるのか?
新米隊員を含めた、まだ二年と立たない警備隊に一ヶ月以上の航行が可能なのか?
不安な要素は尽きないが、ともかく彼らはこれから集まってもう一度決意を固める必要に迫られる。
――――――――
「出番ですよ真希さん、私は久しぶりの航行なので楽しみです。」
「今回は、バルさんも結衣さんも一緒ですね。それと、ありがとう結衣さん。」
「……なんの事かしら?」
「さあ、なんでしょうね?」
「おやおや、秘密のお話ですか? 女性同士はいいですね。」
「まったく……こちらはともかくクリュは追いつけるのですか? 改造はしていたようですが。」
「はい、新型のエンジンと、なんと言っても私がいますからね。」
「こちらも閃光型には及びませんが修理と強化が入っています、遅れはとりません。」
「あなたには聞いていませんよバル。でも、人助けをするのですから足を引っ張ることは許しませんよ。」
「性能はそちらの方が上ですが、私の方が年上で航行歴も長いのですよ? 状況把握が足りませんよ、ほんと。」
「まあまあ、バルさんも結衣さんも同じ警備隊員なんですから仲良くお願いしますね。」




