第五十二話 旧国の軍船
山城歴157年 逆巻方面 亜空間ゲート跡付近
進入禁止宙域
戦争期に敵国が設置したゲート、それは宇宙船本体に亜空間航行の設備を載せずに、それを潜るだけで亜空間へアクセスを可能にする画期的なものだった。
もちろん、入り口と出口を結ばねばならず、当時の敵国は二箇所にこのゲートを秘密裏に設置して戦闘艦を次々と送り出し、逆巻方面に対する優勢を確実なものにしたのだった。
しかし、閃光型駆逐艦を始めとする艦隊のために亜空間ゲートは破壊され、取り残された戦闘艦もその後の殲滅戦により駆逐されたとみられていた。
だが、亜空間ゲートを破壊した歪みにより宇宙に潮流が発生してしまいレーダー、カメラなどの機器を阻害していた状況である。
その索敵は完璧とは言い難かった。
お互いの国が停戦したことにより停戦信号も発せられ、もし生きている艦があれば出てくるだろうし、救難信号を上げるだろう。
そして、各艦隊が保有していたと見られる物資の限界がきた時。
行方不明者は全員死亡したと断定され。
敵艦も全ての艦が行動不能になったと判断された。
そんな憶測の元、戦争は終結し捜索も打ち切られることになる。
だが今回、生きていた戦闘工作艦と搭載されたAIが見つかったように、この宙域にはまだ生きている艦が存在するのではないか? 未回収の残骸がまだまだ存在しているのではないか? という考えに至る者もいた。
そんな彼らの中には、御影警備隊がもたらした多くの宝を目の当たりにして自分たちもと考える者もいたようで、さらに行動力のある者は、自らの利益のために動き出す。
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逆巻港から山城本星間の航路を通る名目で宇宙船ドックを離れた彼ら非公式団体「高崎団」は企業「高崎造船」の社員で構成されている。
彼らは売却を予定している新造の輸送船に乗り込み、逆巻市の警戒網をすり抜け、まだ監視衛星が十分でなかった逆巻市、第二の採集宙域である北山群の外周を迂回しながら航行する。
そして、目的地の亜空間ゲート跡に近づいたのだった。
二ヶ月半を要したこの冒険に、経験の浅い搭乗員は疲労困憊のようだったが同船した会社の跡取りである高崎陽32歳はこの成功に胸を踊らせる。
「物資は多く見積もって積んであるから後三ヶ月はもつ、その半分でお宝を見つけて回収し、会社を救わにゃならん。」
「しかし、若頭も無茶をしますね。捕まったらどうなることやら、乗員にはCランクしかいないんですから今まで通り無茶をしないでくださいよ。」
「ちゃんとわかってるぞ? 社員第一が我社のモットーだ。」
(この計画が社員第一じゃないんですがそれは?)
「若頭! 潮流が酷くて調査をしないとこれ以上近寄れません。」
「聞くまでもないだろ、やるしかあるまい。」
警備船クリュなどに比べて人手の多いこの輸送船はその目的のために改良してあり、多くの情報処理担当や機能を備え、国の機関には負けるがかなりの調査能力を誇る。
しかし、この程度でなんとかなるのであれば、国や市が調査に乗り出しすべてを明らかにしていても不思議ではない。
そのことに彼らは気づかず「会社のため」「そこで働く従業員のため」この冒険を企画したのだった。
幸運だったのか、それとも不幸だったのかはわからない。
ただ、彼らが選んだ航路はとても安全な航路ばかりであり順調に旅をして、潮流での事故もなかった。
最後の巨大な潮流を渡ることが出来れば、お宝が確実視されるようなゲート跡の近くに到達する。
もうひと踏ん張りといった所で安全の確保のため、各種機材により調査を続けるがレーダーに無数の大きな物体を捉える。
「なんだこれは、若頭!」
「なんかわかったか? 廃船か?」
「いえ、それが……動いています……。」
「動いている?」
「近づいて来ています、でかい……正面の艦と思われる物体を優先して解析急げ!」
「……すぐに退避行動を取れ、これは間違いなくこっちを取り囲もうとしている。」
「若頭……。」
「情報から生きている艦がいる可能性もあった。だが、これ程とはな、市長の婆さんが聞いたら泣いて喜ぶかもしれんぞ。」
「出ました戦闘艦BBー85、戦艦です……。」
「! 発砲を確認、撃ってきました。」
「なんだと!」
「退避急げ! 輸送船とはいえこの船なら逃げ切れる!」
「通信が入りました! あの艦からのようです。」
「繋ぐな、とにかく逃げろ。」
だが、乗組員の意思に反して回線が繋がれ船内に相手からの言葉が響く。
「投降せよ……」
「パーツを寄越せ……」
「燃料を……」
それを聞きながらも乗組員は必死に退避行動を取ったが、彼ら高崎団とその船は、ここで消息を絶つことになる。
――――――――
山城歴157年 逆巻市 市長官邸
売却予定だった船が山城へ到達しておらず、取引が行われていない、それに乗っていた社長の子息と社員も共に行方がわからない。
そんな不自然な点が少しづつ明るみに出て、それを根拠に「現、高崎造船の社長」を警視庁からきた刑事が問い詰めた。
そしてこの計画は白日の下にさらされる事となる。
現状を把握した桜井市長は、駐留艦隊を動かすべく山城本星に連絡し、星彩型を救助に向かわせるための正式な許可を求めたのだった。
しかし、その要請は却下された。
理由は簡単だった、進入禁止宙域での行動は認められておらず、万が一遭難したとしても救助をする必要を認めない。
それに、貴重な軍事費を使って配備している星彩型も危険に晒したくないため、暗に軍部は見てみぬ振りをするように市長に迫ったのだった。
ただ、市長も食い下がり、最後の希望とも言える一言を、このような件を担当している「責任者」である相手から引き出すことには成功する。
”やりたかったら自分たちでやれ”
それが限界だったものの、非公式ながら言質をとったことで動くことは出来る。
だが、潮流奥深くまで行き救助を行える部隊は現在の逆巻市には存在しない。
現状の御影警備隊では困難だろう。
市長は今動かせる船、閃光型の所に足を運ぶ。




