第五十話 それぞれの目的 中編
山城歴157年。逆巻市・御影警備隊待機所。 面談当日・午前。
面談開始時刻から五分。 最初に現れたのは、やはり彼女だった。 即日挨拶に来る気概を見せた城島瞳が、今回もしっかりとビジネススーツに身を包んで一番乗りを果たした。
「お久しぶりです! 城島です!」 インターホンの向こうから元気な声が響く。
相葉と中村が待つ受付へ通される。 「きっ、城島さん、ようこそ。まずは必要事項に記入をお願いしますね」 「わかりました!」
整備工の声は大きい。騒音の中で的確に指示を通すための職業病だ。それに意気込みが加わり、狭い待機所に声が反響する。 相葉が少し驚きつつも書類を渡し、中村が筆記用具を渡す。 記入を終えた瞳は、奥の大部屋へと通された。
そこには―― 高野、明石、松浦、進藤、そして井上。 ゴツい男性隊員たちが一列に並び、ビシッと敬礼で出迎えていた。
「ようこそ!」 威圧感が半端ではない。
「わー皆さんこんにちわ! 先輩(進藤)も今回はよろしくお願いします!」 瞳は物怖じせず、笑顔で挨拶を返して通り過ぎていった。
「……もう少し驚いてくれた方がやり甲斐があるんだがなぁ」 高野がぼやく。 「高野くん、もしかして俺が広瀬さんとお茶くみを代わった理由ってコレ?」 明石が呆れる。 「男性恐怖症は元より、圧迫すると怯えるようでは困る」 「こういうのも圧迫面接っていうんすかね?」 井上が引きつった笑みを浮かべる。 「女も増えたが整備工といえば男の職場だからな。その筋で新人ならともかく、一年もやれば耐性がつくぞ」 進藤は満足げだ。 「もう少しインパクトが欲しいが……次に期待だな」 松浦が不敵に笑う。 「いたずらなのはわかるが、高野は一体何を期待しているんだ? 広瀬さんの『特製茶』を出す前に帰られたら困るぞ」
面談室に通された瞳は、少し動揺していた。 「よく来てくれました城島さん、どうぞお掛けくださ……どうしました?」 護が尋ねる。 「いえ、その……隊員の皆さんの中に、顔色が悪そうで笑顔がちょっと……いえ、なんでもありません」
(井上ね)戸賀が察する。 (井上さんだな)護も悟る。
面談自体はスムーズに進んだ。 希望ポジション、健康状態についての話、志望動機。 特に問題もなく終了する。
「この後は、お時間よろしいでしょうか? 今日来れる候補の方で説明会をする予定なんですが」 「はい、受けます!」 「では、待合室でお待ち下さい」
瞳が去ると、護と戸賀は顔を見合わせることなく呟いた。 「声が大きいわね……」 「城島さんの良いところですね」 「整備のことしか考えてない風だったわよ?」 「自分の希望をしっかり持っていて立派です」 「あんた肯定しかする気ないでしょ? 気持ち悪いわね」 「人が足りませんからね!」
戸賀も人手不足は理解しているが、護の「誰でもウェルカム」な姿勢に一抹の不安を覚えていた。 (コイツ、誰でも彼でも入れて、自分が苦労して面倒を見続けるつもりじゃないでしょうね……? 明石さんの時もそうだったし) 護の危うさが気になって仕方ない戸賀だった。
二人目の候補者は意外と早く現れた。 古川和也。 仕事先から直行したらしく、作業着姿だ。 事前に「後日でも良い」と伝えたが、彼は一貫して今日を希望したのだ。
「古川です、よろしくおねがいします!」 堂々とした態度で受付に立つ。 「今回受付を担当する、相葉ですよろしくおねがいします。まずは――――」
説明を始めた相葉の隣で、中村が吹き出した。 「ぶふっ!」 「なんすか?」 「みっ、美咲さん失礼ですよ!」
「ごっ、ごめんでも、高野からの報告書を読んでから改めて見ると、本当にちょっと護ちゃんに似てて、つい」 「ああ、確かに……」 釣り上がり気味の目元が、確かに護に似ている。 それ以外は特に似ていないが、中村のツボには入ったらしい。
「本当にごめんね」 「失礼しました」 「いっいえ別に……とっ、とにかく書きます」 古川は美人二人にまじまじと見られ、動揺しながらも書類を記入した。
そして、大部屋の「大男敬礼ゾーン」。 古川は一瞬怯んだが、気丈に押し通った。推薦者の松浦に礼を言い、面談室へ向かう。 「もう少しにこやかにしろ」 「わかってますよ、松浦さん」
ノックをして入室すると、そこには綺麗なお姉さん(戸賀)と、確かに自分と目元が似ている隊長(護)がいた。 古川は緊張で顔を強張らせながらソファーに座る。 「よろしくおねがいします、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ」 「はっ、はい、古川和也です、よろしくおねがいします」
面談は問題なく進んだ。 大雑把な所もあるが、受け答えははっきりしており、自分の考えもしっかり持っている。 特に宇宙船への情熱は本物だ。これからの警備隊にとって重要な戦力になるだろう。
「その、この隊に入るにあたって特別必要なことってありますか? 俺は宇宙船のこと以外はあまり……」 「努力、根性、気合と、モラルとあと――――」 戸賀が捲し立てようとするのを、護が遮る。 「ライセンスはお持ちですし、あとは体力の維持と健康管理と向上心だけで結構ですよ。全てはこれからです。あまり歳が変わらない者が指導にあたりますのでご不快かもしれませんが、ぜひ頑張ってください」
「わっ、わかりました、ありがとうございます」 立ち上がる時に少し雑な面も見えたが、何事もなく終了。 彼も説明会に参加するため、待合室へ向かった。
「もう、最後まで言わせなさいよね」 「勝手にハードルを上げないでいただきたい」 「必要でしょ? というか必須よ!」 「機動隊レベルでやられたら候補がいなくなるよ姉さん」 「甘いわよ。ちゃんと値踏みしないと後で困るんだからね」 「状況がそれを許しません。それに彼は問題がなさそうでした。今後に期待し、離さないようにしましょう」
待合室。 城島瞳と古川和也は、気まずい空気に包まれる……ことはなかった。
「そうなんですよ! 私も応募した後に閃光型を見に行ったんですけど、駆逐艦とはいえ逆巻港の船の中では結構大きいじゃないですか? もう整備のし甲斐がありそうで――――」 「ですよね! 逆巻港だと移民船がこないから駆逐艦と巡航艦くらいしか大きめの船がありませんし。俺も乗るんだったらデカイ船がいいなって思っていて、色々回ったんですがやっぱりここが――――」
瞳のコミュ力と、共通の話題(宇宙船メカ談義)のおかげで、二人はあっという間に意気投合していた。 そこへ、お茶くみ担当の広瀬が現れる。
「おお? なんだか盛り上がっているな。お茶をどうぞ」 「「ありがとうございます」」
二人は礼を言って湯呑みに口をつけた。 そして、固まった。
(にっ、苦い……!) (えっ、えぐみが……!)
広瀬特製の激苦茶の洗礼を受けつつ、残り三名の到着を待つのだった。




