第五十話 それぞれの目的 前編
山城歴157年。逆巻市・御影警備隊待機所。 新人候補者面談当日・早朝。
元消防署の建物を改装した待機所は、いつになく張り詰めた、しかし清々しい空気に包まれていた。 事務机が整然と並ぶ大部屋の奥。小部屋に設けられた面談室には、真新しいふかふかの椅子が鎮座している。
「……これ、結構高かったんですよね」 会計担当の相葉美菜が領収書を見て眉をひそめたが、護の「面談室として恥ずかしくないように」という主張が通り、必要経費として計上された。
それだけではない。 前日には総出で大掃除を行い、隊員全員が散髪を済ませ、今日のために発注していた新しい制服に袖を通している。 「どっちが面談される側かわからなくなるな」と一部の隊員がぼやくほどの気合の入れようだ。
だが、それも無理はない。 これから迎えるのは、と共に命を預けるかもしれない新しい仲間なのだ。護の「新しい職場に希望を持って欲しい」という願いに、皆も自然と背筋が伸びていた。
そして当の隊長・御影護はというと――
「よし、窓も完璧だ!」
朝日を浴びて輝く窓ガラスに、満足げに頷いている。 彼は待機所で一夜を明かし、朝から一人で仕上げの掃除をしていたのだ。
ちなみに、彼らの新居となる『御影寮(速川邸)』は現在、引っ越し戦争の真っ最中だ。 休みを取らされて一番に移り住んだ名目上の家主・速川末里議員は、広い部屋を荷物で埋め尽くし、仕分け作業で死にそうになっているらしい。 そんな中、手早く荷造りを終えた独り身の男性陣(松浦・御堂・河原)と、戸賀・中村だけはさっさと越してきて、良い場所を確保済みだ。 (※井上は愛車のために入居を辞退している)
護は相葉のことを女性陣に任せ、一人の時間を得たことで、つい仕事場磨きに精を出してしまったのだった。
出勤してきた隊員たちは、ピカピカになった待機所と、妙に爽やかな笑顔の護を見て呆れ返った。
「さあ、今日も頑張っていこう!」 「護、あんた……さては、あんまり寝てないわね?」 戸賀がジト目で睨む。
「何が『ちょっとブラブラして帰る』だよ。帰ってこないとは思わなかったぞ、護」 高野も呆れる。 「いや、悪かったよ。待機所に戻って掃除の続きをやってたら、つい……」 「謝罪に心がこもってないわよ、もう」
明石が温かい飲み物を差し出す。 「隊長さんは、とにかく朝ごはんだな。顔色が少し悪いぞ」 「友達甲斐のない奴だぜ。俺たちも呼べっつうの」 松浦が肩をすくめる。 「それだと夜通し騒ぐのが目に見えてるから却下だ、高野」
軽食を済ませ、全員で配置につく。 今回の面談は、先着順に行われる予定だ。
まずは入り口の受付。 ここに相葉美菜が立ち、その脇を中村美咲が固める。 「可憐な受付嬢」と「頼れるガードマン」のコンビだ。
次に、大部屋の端末席。 ここで御堂輝一が候補者のデータを入力する。 その際、待機している他の隊員たちは、通り過ぎる候補者に対して起立し、敬礼で迎える手はずになっている。
そして、待合スペースでのお茶出し。 本来なら炊事担当の明石が適任だが、今回は高野と松浦の提案により、変更されていた。
「お茶くみは、広瀬隊員にお願いします」 「……私がか? 明石ではなく?」 「ああ。広瀬さんの所作は美しいからな、候補者も緊張がほぐれる……というか、背筋が伸びるだろう」 「なるほど、医療者としての落ち着きを見せるわけだな。了解した」
広瀬は真面目に頷いたが、明石は困惑していた。 (絶対に面白がってるだけだろ、あいつら……)
そして最奥の面談室。 ここで隊長の護と、艦長代理の戸賀が待ち構え、志望動機や人となりを聞くことになる。
「準備は万端だな」
いつもと違う、ピリッとした空気が待機所に流れる。 隊員たちは皆、候補者たちが試験に受かり、仲間になってくれることを心から望んでいる。 だが同時に、甘い顔をするつもりもなかった。
宇宙は過酷だ。 半端な覚悟で臨めば、命を落とす。 初任務でそれを痛感した彼らは、自分たちなりに「彼らが本当に背中を預けられる相手か」を見極めようとしていた。
「……よし。時間だ」
多少アバウトに設定していた面談開始予定時刻。 最初の候補者が、扉を叩こうとしていた。
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