第四十九話 それぞれの訓練予定
山城歴157年。逆巻市・御影警備隊待機所。
待機所のデスクで、松浦が書類に目を通していた。 新人候補のプロフィールデータだ。担当者の高野英二が作成したものである。
【候補者1:城島 瞳】
23歳。元整備工。進藤隊員推薦。
必要なライセンス確認済み。
長身の金髪で美人に見える。
元気で明るく集中力があるが、前しか見えていない危うさがある。宇宙での活動には不慣れなため、要サポート。
【候補者2:亜月 香菜】
19歳。元接客業。田中施設長推薦。
特別ライセンスはなし。
格闘術は達人レベル。小柄な黒髪ショートで、相葉隊員と並べると姉妹みたいで可愛いと思う。
好きなものや嫌いなものへの反応が面白……いや、分かりやすい。
宇宙生活経験は豊富。学力に不安があるため集中講義予定。
【候補者3:秋山 美弥】
22歳。現役機動隊員。衣笠隊長推薦。
警察関係者として逮捕技能、地上車運転スキルあり。
格闘術は隊員のお墨付き。
髪は栗毛の……なんて言うんだあれ? ショートボブ? 内ハネ? なるほど。
船外作業補佐として期待できるが、学力面での懸念事項が多く、亜月候補生と共に集中講義を受けてもらう予定。
松浦が顔を上げた。 「女性の候補者は以上だ」 「高野……お前は本当に書類が苦手だな。相葉隊員、すまないがこれの清書を頼む」 「了解しました、松浦副長」
相葉が苦笑しながらデータを受け取る。 「音声で入力したものをそのまま起して持ってくるなよ」 「いや、人物評ってよくわからなくて、隊長のご意見を伺おうと思いまして」 戸賀がため息をつく。 「これも訓練と思って回数をこなせばそれなりになっていくわよ、たぶん」 「やっぱり俺には向いてないと思うんだがなぁ」
「悪いな高野。向いてないのは百も承知だが、経過観察や訓練のスケジュールを組む人間が必要ってだけで、全部お前に任せっきりにするつもりもないから。今だけは副長として頑張ってくれ」 「未来の提督からそう言われたら断れないぜ。まあやってみるか」 「提督ってなによ?」
護と戸賀は、今後のスケジュール調整と予算のやり繰りに頭を抱えていた。 松浦は訓練施設の交渉や予約で忙しい。 消去法で、手が空いている高野が新人担当に選ばれたのだ。彼もまた、5人でAランクライセンスを取得したエリートの一人なのだが、どうやら書類仕事は天敵らしい。
続いて、男性候補者のデータだ。
【候補者4:菅原 瞬】
20歳。元小型コンテナ船乗組員(会社倒産)。松浦副長推薦。
Dランクライセンス所持。
おとなしそうな見た目で背が低く、20歳には見えない。
青みがかった髪、前髪で目元が隠れそう。御堂隊員と並べてみたいが本人は嫌がるかもな。
連絡時の服装が『映画の岬提督が着ていた宇宙服を模した普段着』というレアものだったのが気になる。
【候補者5:古川 和也】
20歳。現役工事車両運転手。松浦副長推薦。
Dランクライセンス所持。
菅原の幼馴染で相棒。性格は前のめりで活発、暑苦しいタイプ。
大柄な吊り目で、俺と同じ赤みがかった黒髪短髪。目元はちょっとだけ、ま……いや、隊長に似ている。
見た目以外は情報が少ないが、やる気は満ち溢れている。
「男性の候補者は以上だ」 「だから、音声入力で書類の作成をするな」 松浦が頭を抱える。 「楽だからつい」 「……私がちゃんと添削して清書します」相葉が請け負う。 「相葉ちゃんと並べると可愛いと思ったのになぁ、消されてるわ」 「もう! 当然です!」
戸賀が腕を組む。 「整備班も情報処理する人間も足りないわね」 御堂が提案する。 「真希先生に聞いてみるか、意外と顔が広いかもしれない」 「基本、船から動けないのに広いわけがなかろう?」 「市長じゃあるまいし、輝一が会いたいだけじゃないの?」 「言葉でつねる相手がいないのは寂しいもんだよ姉御」
「健康診断は、知り合いの病院があるからそこでいいか護?」 「えっと~はい、市長からもそこを推薦してもらってますから、そこにしましょう」
井上が手を挙げる。 「隊長~訓練中は休みをもらいたいんっすけど?」 「井上~あんたは訓練に強制参加だからね? 二度と宇宙で弱音を吐けないようにしてあげる」 戸賀が笑顔で却下する。 「そんな~戸賀代理はもう少し年上を敬うっすよ」 「ほう、では年上(進藤)からの命令だ。参加しろ井上」 「先輩も酷い、酷いっす」
「井上さん……わかりました。候補者が訓練する内の一日か二日は休みを余分にあげますから頑張ってください」 「隊長の優しさが身に染みるっすよ……」
同時刻。警備船クリュ船内。
『はっくしゅん!』
『どうされました真希さん? 風邪ですか?』 バルが心配そうに尋ねる。 『いえ、誰かが私の噂をしているような』 『ほう? たぶんそれは良い便りですね。きっとそろそろ出番が回ってきますよ』 『そうでしょうか? 嬉しいですね、早くみなさんに会いたいです』
二人の会話を聞いていた結衣は、呆れたように呟いた。 (真奈……私はこの会話にツッコミを入れるべきなのでしょうか? ……それもなんだか不毛な気がしますね)
新たな仲間を迎える準備は、着々と(ドタバタと)進んでいた。




