第四十八話 松浦の縁
山城歴157年。逆巻市・商店街。
松浦誠は、軍人の家系に生まれた。 祖父は彼に英才教育を施し、立派な軍人に育て上げようとした。だが、松浦にとって平和な時代の軍人など「退屈」以外の何物でもなかった。 激怒する祖父と泣き崩れる母。 家を追い出されそうになった彼を救ったのは、入り婿として肩身の狭い思いをしてきた父だった。義父に初めて逆らい、息子の自由を守ってくれたのだ。
おかげで大学までは出たが、家には居場所がない。 松浦は退屈を埋めるため、街を彷徨い、闘争を求めた。 護たちと出会うまで、彼の居場所はゲーセンとストリートにしかなかった。
商店街の一角にある、古びたゲームセンター。 開業から30年。本格的な宇宙船シミュレーターを備えた隠れた名店だ。 かつての松浦の古巣でもある。
休日の昼間、未来のパイロットたちが筐体にかじりついている。 松浦が向かうのは、奥の常連専用コーナーだ。 職に就けなかった燻る者たちが、鬱憤を晴らす場所。 彼が近づくと、常連たちがこわばった顔で道を空ける。
「ああ、すまんな。今日は対戦相手を探しに来たんじゃないんだ」 松浦は周囲を見回した。 「瞬はいるか?」
常連のおじさんが指差す先に、一人の青年がいた。 菅原 瞬。 松浦とは一つ違いの20歳だが、小柄で大人しそうな風貌は高校生に見える。 彼は松浦を見つけると、固い表情で立ち上がった。
「松浦……さん……」 「久しぶりだな瞬。ライセンスは取れたか?」 「Dランク、ですけど……」 「十分だ。お前をスカウトしたい」
「僕を、ですか?」 「そうだ。お前には才能がある。俺のいる警備隊で仕事をしてみないか? やる気があるのなら俺が全力でサポートする」
殺気を撒き散らして対戦相手を狩りに来る「あの松浦」が、人を褒めてスカウトしている。 周囲の常連たちは驚愕していた。
「確かに仕事はなくて困ってはいましたが……考えさせてください」 「わかった。いつでも連絡してくれ」 「あの……**古川**もいいでしょうか?」 「あいつも少し雑だが問題ない。やる気があるなら、と伝えておいてくれ。他の奴らもな」
松浦が去った後、ゲーセンは蜂の巣をつついたような騒ぎになった。 「瞬坊がスカウトだってよ! ドラマみてぇだ!」 「警備隊って、今話題の御影警備隊だろ? よかったな瞬!」
「いっ、いや、まだ受けると決めたわけじゃ……」 瞬は縮こまる。 「僕は、その……荒事は……」 「古川相手だと戦闘機の筐体でボコボコにするのに?」 「お前、レーザー好きだったよな? 閃光型が見つかったって聞いたときの顔、今でも笑えるぜ!」 常連たちが茶化す。
「なに、警備隊つっても犯人取り押さえたりはしねぇと思うぞ。宇宙船ならお前の独壇場だ。それに松浦はお前の目標だろ? 古川と二人でぶちかましてこいよ」 「やっ、やっぱり、考えさせてください……」
それから一ヶ月後。 瞬は、幼馴染の**古川 和也**にようやく連絡を取った。
飲食店に呼び出された瞬は、和也に胸ぐらを掴まれていた。 「瞬! てめぇ! こんな大事なことをなんで一ヶ月も黙っていやがった!」 「いや、僕も悩んでたし……君が一ヶ月もあそこ(ゲーセン)に来ないなんて思わなくて。行ってればおじさんたちから伝わると……」 「なんでお前はいつもそうやってマイペースなんだ! 端末にメールを入れればいいだろうが!」 「そうだね……」
和也は呆れて手を離した。 小学生からの付き合いだ。宇宙船の知識と操縦に関しては、ガサツな自分より繊細な瞬の方が上だと認めている。 だからこそ、瞬のその自信のなさが歯痒いのだ。
「なんで俺より操縦が上手いのにそんなに自信がないんだよ。謙虚を通り越して嫌味だぞ、それは」 「……」
二人の間に重い沈黙が流れる。 やがて、和也が静かに言った。 「わかったよ。お前の決心がつくまで、俺も連絡しねぇ」 「えっ、いや、やる気があるなら良いって松浦さんも――――」
「俺もあの警備隊の話は気になってたから、募集に応じるかどうかを考えていたんだ。でも俺は……お前がいないから採用されたなんて、後で考えたくないからな」 「そんなこと……」
和也は瞬を真っ直ぐに見据えた。 「瞬、俺たちもう成人しちまったんだよ。学校に行っても、もう先生たちは何も教えてくれねぇし、後押しもしてくれねぇんだ。でも、自分の責任で自分の自由にできる」 「……」 「俺はお前と試験を受けて、叶うなら一緒に働きたい。それ以外の道なら他の仕事を探すぞ。お前も本当は何がやりたいのか考えて覚悟を決めろ!」
言い捨てると、和也は飲み物を一気に飲み干し、二人分の支払いを済ませて店を出ていった。
さらに一ヶ月後。 ついに覚悟を決めた瞬が和也に連絡を取り、二人は揃って警備隊の門を叩いた。
「いや、遅えだろ? 間に合うのかこれ?」 「いや、本当にごめん……」
ただ、女性隊員候補(カナ、美弥、瞳)の三名が決まってから、ちょうど良いタイミングだった。 彼ら五名を加えた新人たちは、警備隊寮と化した護の家(速川邸)で寝泊まりし、補強訓練――強化合宿を行うことになったのだった。




