第四十五話 事の顛末は尾を引く
山城歴157年。逆巻市・御影警備隊待機所。 初任務から2ヶ月後。
壮絶な過去話を聞き終えた隊員たちは、青ざめていた。 逆巻港の空調は完璧だが、今の待機所の体感温度は氷点下に近い。
「……元機動隊員として言わせて貰うけど、それだけ暴れていて公務員がやれてるのは、どうしてかしら?」
戸賀が神妙な顔で護を問い詰める。完全に尋問モードだ。 護が答えに窮していると、御堂が助け舟を出した。 「そりゃあ、あの時はみんな未成年だったからね!」
進藤も豪快に笑う。 「まあ、市長は昔から市民を罪に問うのを嫌う傾向があったからな! それに相手側の暴走という点も認められたのだろう? 俺も若い頃は派手だったが、護たちもやるではないか」
中村が同意する。 「うっ、うん、そうだよね。相葉ちゃんを守っただけなんだから護たちは悪くないよ戸賀ちゃん。ねっ、ねー井上!」
井上は遠い目をしていた。 「……人材獲得のための設備投資として大枚が投じられる高級住宅地を一棟……それを損壊させただけで、年単位のタダ働きになりそうな額が請求されるのに……三棟を全損……」 計算するだけで胃に穴が空きそうだ。
河原が端末を操作する。 「そんな大事なのに記録がないな。輝一くん、155年であってる?」 「幸いほとんどが未成年だったから公表できずに『無かったこと』になってるんだ。動画配信も関係者限定だったから世間には出てないよ、河原さん」 「死者が出なくてよかったが……決闘のあたりはもう、未成年というだけでは済まされない内容だったな」
戸賀がため息をついた。 「毎回話を逸らしてた理由は、よくわかったわ。それで、その後どうなったの?」
護たちが順番に答える。 「その場に警官が駆けつけてきて捕まって」 「もちろんしばらくは留置所に入れられて」 「面会では親からしこたま説教を受けて」 「その間に、市の行政官から今回の件の注意事項を分厚いファイルでお勉強した後に」 「相手方を含めた全員と仲良く釈放されて、いろんな方面から『滞納しても罪にならない範囲』の多額の罰金などが課せられたと」
「逆立ちしたって足りないわよね、それ」 「建築予定だった会社への保証金などを含めて、動画を見ていた連中まで合わせた全員が出せるだけ出しても、まったく足りなかったはずだよ」 高野が肩をすくめる。 護が頭を下げた。 「まあ、うん、市民の皆様には責任者の一人として本当に申し訳ない」
「結局その、速川のお兄さん(師匠)には伝わったのか護?」 「婆ちゃんが山城本星に行く前に伝えたって聞いたけど、それから会ってないから……正直、次に会うのが恐ろしいですね」
「まあ済んだことだが、それで返済のために、俺たち五人が市に五年間拘束されて警備隊をやることになったと」 「いやー丁度いいタイミングで市にやらせたい仕事があってよかったよ。それでも婆ちゃんには頭があがらないけどなぁ」
井上がまだブツブツ言っている。 「あの住宅管理コアは万が一のために宇宙への脱出まで考えられているから、宇宙船用のコア以上のコストなんっすよね……」 「井上くん、もうそのあたりを考えたら胃に悪いから止めたほうがいいぞ」 明石が優しく諭す。
戸賀が相葉に向き直った。 「もう! ミナは後ろを向いて何をやってるの? こっちへ来なさい」 「はい……」
護が庇う。 「いや、ミナは悪くないんだよ姉さん! 俺が――――」 「わかってるけど、騒ぎを収める責任はこの娘にもあった! そうでしょう? 直接バッサリ言えてないから相手が期待しちゃってるのよ」
怒っているのかと思いきや、戸賀は立ち上がると、相葉を慈しむように抱き寄せた。 「はい、市長にもそう言われました……ごめんなさい」 「もう、護たちも案外頼りにならないわよね……その様子だとまた来そうだし、今日から私が家まで送り迎えするから……」
その時、護を含めた四名(初期メン男子)が「あっ」という顔になった。 「いっ、いえ、それは……」 「遠慮しなくてもいいのよ、どうせ帰っても暇だしね」
中村が乗っかる。 「相葉ちゃん私も行くっす! 相葉ちゃんの家が見たい!」 「「正直だなぁ!」」 広瀬も続く。 「私も、その黒沼という男が来たら説教したいことがあるから一緒に行こう」
なんとか断れないか? そんな気持ちで一杯の男たちを置いて、女性陣は和気あいあいと送り迎えプランを練り始めた。
ピンポーン。 タイミングよく来訪を知らせるベルが鳴った。 進藤と護が出迎える。 ドアを開けると、そこには柔和な笑顔をした背が高い金髪の女性が立っていた。 作業用のツナギ服と、頭のゴーグルが印象的だ。
「はじめましてこんにちわ! 安定した職があると聞いて参りました、**城島 瞳**です! よろしくお願いします!」
「おお、来たか! 久しぶりだのう。というか了解の返信を貰ってすぐだというのに、少々到着が早くないか?」 「イヤですよ先輩! 私はお仕事をリストラされて暇なんですから、すぐ飛んでくるに決まってるじゃないですかー!」
「初めまして、隊長の護です。早速ですが推薦状を書くので色々とご記入をお願いします」 「護よ! それはがっつき過ぎだから落ち着け」 中村が手招きする。 「こっち、こっち、さあ座って座って!」
席に通された瞳は、ニコニコと周りを見渡した。 (わあ……良さそうな職場だなぁ、入れるように頑張ろう)
「よろしくおねがいします。もしご縁があったらヒトミとよんでくださいね」 「ヒトミは筋がいいから大丈夫だろう。あとは宇宙に適応出来るかだな」
「女性の整備士さんも珍しくはないけど、あまり宇宙へは出たことがないの?」 「いえ、学校の授業で行ったり、ライセンスを取ったりはしたんですが、仕事や遊びで出たことはなかったので、ちょっと不安ですね」 「整備士のライセンスを確認。整備班として問題ないみたいだよ隊長」 御堂が素早くチェックを済ませる。
そこで、広瀬が口を挟んだ。 「野暮なことを言うようで申し訳ないが……ヒトミ。こういう時(面接)は背広を着てくるといいぞ」
「あっ! あはは失礼しました」 瞳は笑顔のまま顔を真っ赤にして、自分のツナギを確認した。本当に今、気がついたようだ。
戸賀がフォローする。 「確かに大事だけど今回はいいのよ、よく来てくれたわ。何人かは来てくれたんだけど、ライセンスは足りないわ、眼がやらしいわで困ってたのよ」 松浦も頷く。 「女性の多い職場と聞いて来るヤツは多かったな。そういうのに限って根性なしも多かったから採用はなかったが」
「こっ、根性ですか?」 護が慌てて訂正する。 「まあ、人並みで大丈夫です。そこは入ってから改善すればいいわけですから」
明石がノートを開いた。 「苦手な食べ物はあるかな? 好きな物も教えておいてくれると助かるよ」
「ハンバーグ!」 「ラーメン!」 「肉だ!」
「お前たちには聞いてないぞ」 明石が呆れる。
広瀬が診察モードに入る。 「なにか持病はあるか? 既往歴がわかるものがあれば持ってくるといい」 「はい、私は病気はしたことないです。脇腹とか骨折は何度かしたことがあるんですが」 「そうか、よければ見せて欲しい」 「えっと、このつなぎチャックが面倒で、ちょっと待ってくださいね」 ジジジ……とチャックを下ろそうとする瞳を、戸賀が止める。 「広瀬、ここじゃ駄目よ! 後にしなさい!」
聞き取り調査が終わった後も楽しく談笑し、後日、市の採用試験を受ける前に訓練を行うことが決まった。 新しい風が、警備隊に吹き込もうとしている。
名前が有名な方と被ってしまっていたので
変更してあります 申し訳ありません。
リサーチが足りませんでした。
城島瞳 23歳 と、なります
年齢まで打ち間違えてしまった(汗)




