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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第四十四話 騒がしかった過去 中編

山城歴155年。逆巻市。


大学の講義室。 授業が終わった後も一人残り、項垂れている青年がいた。 **黒沼くろぬま**だ。 彼はまだ自分が失恋したとは思っていない。ただ、「いきなり腕を引っ張ったのはやり過ぎた」と反省し、謝罪とデートの誘いを綴った手紙の執筆に没頭していた。


彼は成績こそ平凡だが、リーダーシップと行動力はある。 これまでも何もしていなかったわけではない。彼女(相葉美菜)の後をつけたり、私立探偵を雇って身辺調査を試みたりした。 だが、なぜか尾行中に訓練中の機動隊員に阻まれたり、雇った探偵が別件で逮捕されたりと、不運に見舞われて悉く失敗。 業を煮やして、直接大学に乗り込んだ結果があのザマだった。


「……写真も撮ろうとして失敗してるらしいし、なんか可哀想だよな」 「昔っから変わった奴だったがついに春が来たか」 「まあ、色々と面倒事をやってもらってたのもあるし……散々笑いの種も提供してもらったからな」


彼の友人たち――スポーツサークルの面々が集まっていた。 「協力だな。どんな美人か気になるし」 「ボロ負けだった競技大会の借りも返したい」 「名門貴族に姫を嫁がせるなんて大役であり名誉(笑)」


「よし、腹は決まった! 我らスポーツサークル四十名は黒沼に付くぞ!」


私念と面白半分が混じった動機だが、総勢41名の「黒沼組」が動き出した。 彼らは知り合いの伝手を頼りに、黒沼を阻んだ男(高野)へメッセージを送った。


『午後四時。市営闘技場で待つ』


メッセージを受け取った高野は、護たちを集めて相談を始めた。 「これほど直接的な行動を起こすとはな。乗り込む手間が省けたと見るべきか?」 松浦が唸る。 「気に入らないが、まだ争うとは決まってない。だが場所が場所だからな」 御堂が補足する。 「闘技場で何をするのかってもう書くまでもないからね。あっちも血の気が多そうだなぁ」


「護ちゃん……私が行ってくるから……」 相葉が手を挙げる。 「お前もそろそろ『ちゃん付け』は……いや、相葉が行くとそのまま拐われかねないから却下だ」 護が即答した。高野も同意する。 「そうだぞ。遊びに行った先で保護されてたことだってあるんだからな。一人でなんて行かせられない、俺らに任せとけって!」


「ちっ、違うよ! それは中学生と間違われて補導されかけただけで……」 「背丈は俺(御堂)よりあるのに、なんで間違われるのかねぇ?」 「子供向けの玩具やゲーム機の前にいたからだろ?」 「うう……」 護に真相を突かれ、相葉は顔を赤くして机にへたり込んだ。


「学校で待たせるにしても誰か付けないとな。家まで帰ってると時間に間に合わない」 「俺と松浦が行ってくるから、高野と輝一は相葉と待っていてくれ」


護が指示を出した時、教室の周りに男たちが集まってきた。 腕組みをして立っている者、椅子にもたれ掛かる者。かつて護たちに喧嘩を売って返り討ちにされた連中だ。


「――――俺達がその役(護衛)を引き受けた」 「却下!」 護が即答する。 「なんでだよ! 俺たちに相葉さんを守らせろ!」 「また俺たちと交渉(物理)したいのか?」 「いや、それはもうたくさんだぞ!」


「じゃあ、護たちについて行けば?」 「「それだ!」」 「お前ら、さては退屈してるだけだな」 「おうともよ!」 「否定しろよ!」


こうして、非公式の「相葉さんファンクラブ」会員10名が加わり、護たちは指定された場所へ向かうことになった。


市営スポーツ推進施設(通称:闘技場)。 室内競技に特化したこの施設は、ボクシングやフェンシングなど地球由来のスポーツ設備が整っているが、最近は運営資金難で存続が危ぶまれていた。 そんな中、40名もの団体客が訪れ、さらに14名の別団体が到着したことで、職員たちは色めき立っていた。


入り口の休憩所。 黒沼組を見つけると、数名が前に出てきた。 「逃げずによく来たな!」 「何の用だ!」


「せっかちな野郎だ! うちのメンバーがそっちで世話になったらしいな。その落とし前をつけにきたのよ」 護が前に出る。 「黒沼って奴に伝えろ。文通からなら許可してやる。それも相葉に迷惑が掛からない程度ならな! あいつは文章を書くのは好きなんだ」


「小学生じゃあるまいし、ふざけるなよ! あいつのアプローチを邪魔するな!」 「それが常識の範囲内ならな!」


だんだんと腹が立ってきた護を抑え、松浦が前に出た。 「随分と人数を揃えたようだが、まずは一戦交えたいということなのだろう? 受けて立つから競技を選べ」 「わかってるじゃねぇか」


血の気の多い彼らが、なぜ殴り合いを始めないのか。 理由は単純。逆巻市は監視社会だからだ。 道路、公共施設、ビルの裏に至るまでカメラが設置されており、大規模な喧嘩をすれば即座に警官が飛んできて補導される(護と松浦も経験済み)。 だからこそ、彼らは「スポーツ施設」での決着を選んだのだ。


「種目は剣術、卓球、射的、ボクシング、バスケット!」 「上等だ!」


大学推奨の制服に保護具をつけ、健全な決闘が始まった。 黒沼組40名 vs 護・ファンクラブ連合14名。 道具を用意する職員は、一度に52名もの利用客が来たことに感激し、涙を流して喜んでいる。


試合開始。 数は黒沼組が多いが、個の力は圧倒的だった。 特に、大学上位の実力者である護と松浦の壁は厚い。 剣術で叩き伏せ、射的で的を抜き、バスケでダンクを決める。次々と対戦相手を入れ替えても、誰も二人には勝てなかった。


結果は、相葉組の圧勝。 黒沼組は撤退を開始する。


「くっ……あいつが諦めんのなら、俺達も諦めんからな!」 「お前ら、使用料金を払って帰れよ?」


護たちの完全勝利で終わったかに見えた。 だが、この話はまだ終わらない。 諦めの悪い黒沼と、ヒートアップする周囲。 この「健全なスポーツ対決」が、やがて後に語り継がれる大騒動――高級住宅地破壊事件へと発展し、護たち五人の人生を大きく狂わせることになるのだった。

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