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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第四十四話 騒がしかった過去 前編

 山城歴157年。逆巻市・御影警備隊待機所。 初任務から2ヶ月後。


初任務から二ヶ月。 警備船クリュによるパトロールは順調に続いていたが、これといったトラブルもなく、平和そのものだった。 「フォル」のような正体不明の存在が現れることもなく、護としては安堵の日々だ。


だが、別の問題が頭を悩ませていた。 人材不足である。


「……船を乗り回せるのがそんなに魅力的に見えないのかねぇ」 「『自由に』って付けば、そりゃ違うだろうが……」 松浦がぼやく。


商業が少し持ち直し、地上での雇用が改善された結果、わざわざ危険で堅苦しい宇宙職(軍人・警備員)を目指す物好きは激減していた。 勧誘で集めた候補者たちも、基礎体力不足や宇宙適性の低さで全滅。 待機所の大部屋では、重苦しい空気が漂っていた。


「艦数を増やすどころじゃないな。星彩みたいにAIでの自律行動が認められないか掛け合ってみるか」 「ポスターでも貼る? 相葉ちゃんと広瀬さんや姉さんの写真でさ」 輝一の提案に、女性陣が即答する。 「嫌よ」 「嫌だ」 「ありゃ? 私は(別にいいけど)?」 中村だけは乗り気だが、却下された。


「いっそ、企業を買収して取り込むとか出来ないもんか?」 「いくら掛かるかわからないから難しいと思うぞ」


そこへ、奥の部屋から進藤が顔を出した。 「おお護よ、喜べ! 整備班に一人候補が出たぞ」 「本当に? これで三隻が同時に動いても整備班ナシなんてことがなくなるな」


護が身を乗り出す。 「どんな人かは知らないが、進藤さんから見て大丈夫そうなら強めに推薦もしてもらえないか? 最悪、ライセンスを持ってる俺たち五人が手伝えばなんとかなる」 「そうだな。一癖あるが腕はいいぞ。三つくらい前の会社で面倒見てた後輩だな」


(うわー個人情報だから見れないだろうけど、進藤さんの職歴、すごく気になるわー)戸賀が思う。 (エンジン好きが暴走して俺と一緒にクビになったっすもんね。務めてた会社がまだ何社もありそうっす)井上が遠い目をする。


「わかりました。市の面談に移る前に一度ここへ来てもらいましょう。一夜漬けでもなんでもしてもらって合格させないと」 「おいおい、変な子だったらどうするんだ? まあ進藤さんが見て大丈夫なら俺も大丈夫だとは思うけど」 「この前みたいな根性なしは困るわね……」 「いや、機動隊並みの訓練についてこれる一般人はそうそういないからね?」


話を聞いていた明石が、少し暗い顔をした。 「俺みたいな料理しか出来ない奴がいても駄目なんだよな……すまない」


全員が即座に反応した。 「それをフォローするつもりはない。だが聞いて欲しい。俺たちはレーション暮らしには耐えられないから辞められたら困る!」 「美味い飯作ってるから心配しなくてもOKOK!」 「明石さんは適応能力は低くないですよ。井上さんの方が心配なくらいで、色々雑用もしてくれてますし助かってますよ」 相葉もしきりに頷く。


「今日の冷麺も最高でした!」 「そっ、そうか? それならまだ頑張らせてもらうつもりだから、何かできることがあるなら言ってくれ」 明石は照れくさそうに台所へ戻っていった。


「ヘッドハンティングの専門業者もあるそうだが、まともなやり方には見えないしな」 「うーん、保留?」 「仕方ないわよ、勧誘なんて設立当初でもほとんど成功してないわ」 「あの時に十二名も揃った事が、奇跡に近かったのは間違いないな」


昼食の冷麺を食べ終わり、まったりとした空気の中、戸賀が口を開いた。 「ねえ護。そろそろミナに言い寄ってきた奴等の話をしてくれないかしら?」 「あー……覚えてたか」 「まだミナに気があって攫いに来たらどうするのよ?」


護が苦い顔をする。 「子供じゃあるまいし……と言えないのが残念だ」 「あーなんか地球からの名門で、『探していた姫にやっと会えた』とかなんとか言ってたアイツな」 松浦が笑う。 「なかなか面白いセリフを吐くんだが、肝心の本人が弱くて話にならなかったぞ?」 「取り巻き連中が勝負を挑んでくるのを護たちが返り討ちにしてたけど、諦めるどころか本人も周囲もだんだんエスカレートしてさ」


「具体的に話しなさいよ」 「それは山城歴155年のことじゃった……」 「高野、まともに喋らないとちゃんと伝わらないぞ?」


山城歴155年。 当時大学生だった護たち五人は、既に宇宙船ライセンスを取得していた。 高校生の頃からの夢、「人類未踏の地・第二惑星へ向かうこと」は現実的に難しいと一旦諦め、この資格を活かした就職を考えていた頃だ。


ある日、隣の地区からある男が、大学で行われる競技大会の打ち合わせに訪れた。 そして彼は、実行委員の護たちに同席していた書記――相葉美菜と出会ってしまう。


彼は、彼女に理想の「お姫様」を見た。 文字通り、一目惚れだった。


大会終了後、彼は再び大学に現れ、告白の段階を飛び越えてプロポーズをした。 「ごっ、ごめんなさい……」 二秒と掛からず撃沈。


だが、彼の名は黒沼くろぬま。 地球において名門と信じて疑わない家の、19歳の青年だった。


「俺は諦めません! やっと理想の姫に会えたんです!」 「ひっ、姫?」 「さあ、共に両親のところへ!」 「いっ、いや……!」


強引に腕を引く黒沼の手首に、高野の手刀が落ちた。 「はい、そこまで」 高野は手慣れた様子で美菜を庇う。 「いや、実はな。学年が変わるたびにお前みたいなのが来るんだよ……。いやマジで。振られてすぐはツラいだろうけど、今回は諦めて――――」


「くっ、失礼しました! また来ます!」 「あっ、あの……」 黒沼は高野の登場に驚いたのか、捨て台詞を残して走り去った。


「ありがとう、英二くん」 「災難だったなぁ、大丈夫? なんかされてない?」 「平気……だけど」 「『また来る』なんて言われたら不安だよなぁ。護が知ったらなんて言うか」 「うう、また迷惑掛けちゃう……」 「相葉ちゃんが攫われた方が面倒だから、そこは気にしちゃだめだぞ?」


その後、合流した護が話を聞いてキレたのは言うまでもない。 「惚れた腫れたは仕方ないが、連れ去ろうとした……?」 「怒るなよ護。俺たちが止めた中にも暴走する奴はいただろ?」


松浦が冷静に尋ねる。 「ふむ、そいつとは相葉は面識があるのか?」 「えっと、隣の東地区の大学から大会の実行委員として来てたと思う」 「名簿を漁ったら出てきそうだな。身元が割れたら警告して終了だろう」 御堂が端末を操作する。 「もう調べたよ。東地区の有名人みたいだ。『黒沼』だって。金持ちみたいだね。名門っていうのはよくわからないけど」


いつもなら、直接乗り込んで(物理的に)説き伏せて終わるような事件だった。 だが、今回は様子が違っていた。 これが、逆巻市を揺るがす大騒動の幕開けだったとは、この時はまだ誰も知らなかったのである。

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