第四十三話 警備隊待機所からの募集
山城歴157年。逆巻市・御影警備隊待機所。
宇宙港から遠くも近くもない、町中の商店街の一角。 そこに隠れるように建っている、小さな消防署の跡地。ここが護たち警備隊の待機所だ。
初任務から二ヶ月。 彼らは何事もなく警備任務を遂行していた。 内容は、逆巻港に駐留する四隻の星彩型巡航艦とローテーションを組み、三箇所ある資源採集宙域をパトロールするというものだ。 「未探査宙域からの帰還」という実績を買われ、遠方の宙域も任されたが、その甲斐あって酷使されていた軍艦たちはしっかりメンテナンス休暇を取ることができたらしい。AIのまとめ役から感謝状が届くほどだ。
「嬉しいことだが、任務なんだから気にしなくてもいいのにな」 「まあ、今までの待遇が悪すぎたんだろな。三箇所守るのに、交代用の船が一隻って……ブラックすぎる」 「宇宙船持ってる民間警備会社もあるが、あれは頼むと高いからな」 「暴利で有名だからね。市の防衛も必要だけど、自動哨戒機やハリボテのパトロール艦を浮かせて誤魔化してるらしいし。艦数を増やしたい軍の気持ちはよくわかるよ」
「まあ、うん。……手を動かそうか」
現在は「しばらく出番はない」と告げられており、護たちは溜まりに溜まった書類仕事と格闘していた。 これまでは相葉が一人で必死に処理していたが、流石に限界が来たため、護・高野・松浦の三人が引き取ったのだ。 護の判断で、頑張りすぎた相葉と、色々あった女性隊員(戸賀・中村・広瀬)には休暇を与えている。今頃は女子会でもしているのだろう。
一方、技術班もフル稼働だ。 御堂と井上は、新しく編入される工作艦と駆逐艦の旧式設備を取り払い、最新規格に換装する設計を行っている。 河原と進藤もそれらのデータを受け取り、シミュレーション中だ。 つまり、明石以外の男性隊員は全員出勤である。
「明石はどうした? あいつが作った芋のバター焼きが食べたいんだが」 進藤が作業の手を止めてぼやいた。 「そうですね……俺も腹が減りました」 松浦も同意するように頷く。
護が苦笑しながら答える。 「明石さんは奥さんと息子さんがいるんで、女子達と同じタイミングで休暇を取ってもらいました。進藤さんも明日は休んでいいですよ?」
「馬鹿言え。こんな大事な作業を他人に任せて休めるか」 進藤は即答し、再びモニターに向き直った。 「メカニックの鑑だねぇ」 「ほんとほんと、井上も見習おう」
井上が机に突っ伏す。 「休みたかったっす……。愛車をチューンしたかったのに……。まあこれだけ古い船が扱えるなら嫌じゃないっすけどね」 「実益があってなにより。俺は体を動かしたいよ」 高野が伸びをする。 「スポーツ・ジムが近くて良かったな」 「区画はいいんだけど、その中では辺鄙って言えば辺鄙な場所だよね」 「農業用区画の隣や、家畜用区画の高原のど真ん中じゃなくてよかっただろう? わかったら手を動かしてくれ」
「へいへい……」 井上が渋々顔を上げると、隣で作業していた御堂が目を輝かせた。
「おお? 昔のプログラムはやっぱり創意工夫に溢れていて面白いなぁ」 「この設備、取り外して要らないなら欲しいっす」 井上もつられて身を乗り出す。
「市長に聞いてください井上さん。まあその分は給料から天引きになると思いますけど」
一段落したところで昼食だ。 料理番の明石がいないため、隊長の護がクリュの余り食材と冷蔵庫の中身でチャーハンや肉野菜炒めを作った。 少々脂っこいが、保存処理された肉が多めに入っており、松浦は満足げだ。
「隊長は料理が出来るんだな」 「まあ人並みですが」 「河原さんは店屋物やカップ麺食ってそう」 「わかる? やっぱり油ものとご飯がやめらんないんだ」
「次はそうめんにしよう。それに天ぷらが食べたい」 「貴重品になったワサビが恋しいのう」 それを聞いて、御堂がニュース番組を流した。 「これでしょ。大手の寿司店が独占する高級薬味……。これは婆ちゃん(市長)に任せるべき案件だな」 「生産量が足りないものは市長でも無理だろ」
ニュースが切り替わる。 『次のニュースです。第三十四回ロボット相撲が開催される時期が訪れました。学生たちの中から選りすぐられた強者達が競うこの――――』 大きなロボットが摺り足を行っている映像が流れる。
「もうそんな時期か。働いてるとあっという間だな」 「二十歳を越えたから出られないが、またやりたくなるな」 「終わったら早くあがっても構わないから手を動かせ、頼むから」
なんとか書類を終わらせ、三時を過ぎたところで業務終了。
「よし! 間に合ったな。俺は出かけるから、早あがりするにしても最後の人は戸締まりを頼むぞ」 「どっか行くのか護?」 「これから二隻も増えるからな。人材確保に走らないと、とてもじゃないが手が回らん」
AIたちが自律制御できるとはいえ、法的にパイロット無しというわけにはいかない。 「あー、クリュをまだまだ使うとするなら整備班も必要だな。後輩を当たってやろう。もしかすれば不況のこのご時世だ、職探しをしているかもしれん」 進藤が請け負う。
「助かります。救護班や、不審船を臨検するための警備要員、火器管制、パイロットも交代を入れると足りないですね」 「じゃあ手分けして探すか。宇宙に出たいなんて物好きは探さないと集めるのが難しそうだ」
松浦がニヤリとした。 「心配するな。そういった奴らが集まる場所がある」
(松浦が通うアンダーグラウンドな場所!?)河原が青ざめる。 (影の依頼や武器を扱う闇の犯罪シンジゲート!?)御堂が想像を膨らませる。 (松浦の事は本当にわからんが、とんでもないところと繋がっていそうだのう)高野が感心する。
「良さそうな人材がいたら、応募書類と連絡先を渡してくれ。もちろん強要はするなよ?」 「よし、準備に掛かる。一人五人がノルマだ」 「返事をしろ! 勝手にノルマを設定するな!」
退屈な書類仕事から開放された隊員たちは、定時を待たずに「外回り(人材探し)」へと飛び出した。 逆巻市の経済状況は依然として厳しい。 市が無理やり仕事を押し込めている現状の中で、宇宙に夢を持ち、ライセンス取得や専門職を目指す若者を見つけることができるのか?
御影警備隊は設立当初のように、再び街へと繰り出すのだった。




