第四十二話 逆巻港の新たな力
山城歴157年。逆巻市。
かつて人類が資源採集のために建設した要塞は、「居住地兼資源採集中継基地」として生まれ変わり、今また新たな節目を迎えようとしていた。
初任務での御影警備隊の活躍により、市内外に良好なイメージが発信され、寄付金や入隊志願者が集まり始めている。 とはいえ、活動場所は危険な宇宙。資金はまだ足りないし、志願者も厳選せざるを得ない。 それでも、4年後――護たちが借金を返し終えて抜けた後を見据え、次期隊長や艦長候補の育成プログラムが順次開始されることとなった。
資金面に関しては、戦場跡から回収した破壊された艦艇のパーツを売却することで、当面の目処が立った。 これにより、持ち帰った『閃光型駆逐艦』と『工作艦』の修理予算も確保された。古すぎるため解体論も出たが、「数が必要」という判断で続投が決定。回収したドローンも活用され、船外作業のリスクは大幅に軽減されるだろう。
さらに、軍部からも異例の便宜が図られた。 かつて逆巻市の訓練学校を出た軍人たちが、ニュースの熱が冷めやらぬうちに上層部へ直談判したのだ。 その中には、護の恩師であり、現在は本星の参謀本部にいる速川 健中佐の姿もあったという。
彼らの働きかけと、今回見つかった希少な「赤影結晶」やレアメタルを交渉材料(賄賂?)にした結果、人員不足で余っていた新型艦と艦載機が、防備の薄い逆巻市へ譲渡されることになった。 なぜか閃光型駆逐艦も警備隊への配備が決まり、御影警備隊は単なる警備隊の枠を超え、準軍事組織並みの戦力を有することになりつつあった。
市長執務室(電脳空間)。
『真奈……私は軍を辞める気はないのですが?』 結衣が不満げに訴える。
「そうなのですか? 確かに英雄として歓迎される可能性もありますが……せっかく皆で守った逆巻港から、今すぐに出ていくこともありませんよね?」 『でも、辞めたら軍に戻れないかも知れないわよね? 私の意志は一体どこへ……』
真奈はきっぱりと告げた。 「これは、この市の最高責任者である私からの命令です。めでたく軍籍を抜けてくれたおかげで、警備隊に入るように言えるのですよ」 『だから私は、軍籍を抜けるための手続きを行っていないのよ……』
「『軍の船を盗んで特攻し、あまつさえ友軍機から部品を強奪した脱走AI』……軍法会議にかければ、そのような評価で即刻解体処分です。致し方ありませんよね?」 真奈は微笑む。 「もちろん工作もしましたが、解体される可能性を排し、これ以上の拘束もされずに『平時の軍人に似た』お仕事が出来るのですから。もっと喜んでくださいよ、姉さん」
『……妹が酷い。軍人を辞めさせられるくらいなら、解体されればよかったのに……』 「まあ! そんなことを言ったら護たちが悲しみますから、彼らには言わないでくださいね?」 『過保護! 親馬鹿! 悪趣味市長!』
「私にならなんとでも仰って構いませんよ。……そして、おめでとう。警備隊の結衣さん」
数日前。未探査宙域・潮流溜まり。
色々な決定がなされる少し前、御影警備隊は次の任務に就いていた。 「戦場の墓場」での慰霊祭だ。
困難な道筋にも関わらず、多くの参列者を乗せた駐留艦隊旗艦『星彩型15番艦』が、潮流を越えて到着した。 先行していた警備船『クリュ』は、既に周辺の安全確保を完了している。
時刻に合わせて黙祷が捧げられ、各自が思い思いの言葉を宇宙へ向ける。
特攻した閃光型には人が乗っていなかった。 しかし、ここに眠る他の駆逐艦は違う。山城本星の軍人を乗せ、要塞「逆巻」から出撃し、帰らなかった船ばかりだ。 参列者の多くは当時を知らない世代だが、動けない老人や亡くなった家族から想いを受け継ぎ、ここに眠る肉親へ哀悼の意を表していた。
そして、敵であった工作艦や戦闘艦の乗組員に対しても、宇宙用に加工された花束が供えられた。 逆巻市において彼らは侵略者であり、誰もその名を知らない。 しかし、激闘を繰り広げ、勇敢に戦い散った魂を慰めるべく、艦内には祭壇が置かれ、参列者たちは分け隔てなく祈りを捧げた。
護たちも、作業の手を止めて黙祷する。
53年前。自分たちが生まれる前の大戦争。 そこで散っていった無数の艦艇と命。 まだ新しい部隊の若者たちは、その静寂の中で何を思ったのか。
多くを語ることなく慰霊祭は終了し、それぞれの艦は無事に帰路に就いた。 過去の疵痕を胸に刻み、彼らは未来へと進んでいく。




