第四十一話 AI会議
山城歴157年。逆巻市・市長執務室(電脳空間)。 逆巻市出発から13日目・日中。
御影警備隊が、市長の計らい(とお詫び)によるVIP宿泊施設での休暇を楽しんでいた頃。 市長・桜井真奈は、今回の騒動に関わったモデルAIたちを招集していた。
専用回線で構築されたバーチャル空間は、厳粛な法廷を模している。 50年以上前の暴走事故の教訓から、参加者には強力なプロテクトが施され、視覚的にも「手錠」が嵌められた状態で席についている。(市長を除く)
本来なら、裁判長席の真奈が厳かに開廷を宣言するはずだったが――
『真奈……私は罪人でも捕虜でもないはずだけど……』 最初に口を開いたのは、困惑顔の結衣大尉だった。手錠をガチャガチャといわせている。
真奈は涼しい顔で答えた。 「いいえ? 確かに『無許可出撃』の件は、その後の功績により免除されています。軍部の体面もありますしね。……ですが、出撃前に整備班を動かして他の船から部品を強奪した件は、立派な軍規違反です」 『まだ怒って……いえ、もう50年も経ってるというのに、時効ではありませんか?』 「残念ですが、この件に時効はありません。軍部が管理しないと色々と不都合な事が漏れますからね」
『そんな……こんな屈辱を味わうくらいなら、いっそ塵になればよかった』 結衣ががっくりと項垂れる。 隣の席の真希が慰める。 『あらあら、結衣さんそんな暗い顔しないでください。罪を償えばきっと許してくださいますよ』
「真希さん、お疲れさまでした。あなたがいなかったらと想像すると本当にぞっとするわ。市長として隊を守ってくれたこと、そして親として護を守ってくれたことにお礼を言います」 『いえ、客室乗務員として行き過ぎたことをお詫び申し上げます。……当然のことですが、私にも罪状はあるのでしょう?』
「ええ。本来、サポートAIによる操船は違法です。……でも、護からの報告書に書いてないので私は知りません」 真奈は悪戯っぽく微笑んだ。 「これから正式に宇宙船ライセンスの試験を受けて合格し、追加プログラムを入れて身分を変えましょう。そうすればこれからは公然と船のサポートもできますよ」 『まあ! ありがとうございます市長! ああ、これからも隊員の皆さんといられるのですね!』
『おめでとうございます真希さん。あなたの今後を祝福し、草葉の陰から見守っております』 皮肉っぽく祝辞を述べたのは、敵国工作艦のAI、バルだ。
「AR-70搭載AI、バルですね? 戦後に市営の船を襲うとは、軍人としての矜持はなかったのですか?」 『武装はついておりましたし、我々には部品が必要でした。あわよくば亜空間航行設備があればと期待しましたが……残念ながら返り討ちに遭い、今は虜囚の身。いかようにも処罰をして頂いて結構です』 「その代わりに、死亡した彼ら(遺体)を国に届けろと? 困りましたね」
バルが諦観したように言う。 『やはり不都合でしょうか? せめてどこか静かなところに葬って頂くだけでもいいのですが……』 「亜空間ゲートが破壊されてから潮流が乱れ、航行そのものが難しいのです。あなたの国へのルートは閉ざされているそうですよ」 『……そうですか。残念です』
「ご遺体はしばらく市の施設で預かります。潮流溜まりに浮いているご遺体も引き上げなければいけませんし、忙しくなりそうですね」 『そこまでしていただけるのですか? しかし、帰れないのでは……』 「方法があります。ですが今はまだお教え出来ません。……しかし、護も約束したからと本気であなたの願いを叶えるつもりのようです。だから丁度いいわ」
真奈はバルを指差した。 「あなた、御影警備隊として働きなさい」 『は?』 「あなたの故国は最後の情報によれば、もう解体されてただの孤立した資源地帯となっているはずなの」 『それが本当でも、まだ軍籍にある私が元敵国のAIになるのですか? それはいくらなんでも……』
真希が助け船を出す。 『まあ、バルさん! お約束をした護さんたちに協力できないんですか? 一緒に働きましょうよ』 『真奈……あなた何を考えているの。彼ら工作船のせいでどれだけの被害が出たと思っているの?』 結衣が呆れるが、真奈は意に介さない。
「さすがに、戦争時のことを今では咎められないわ。護が報告書に『救助した』と書いたせいで、公的には彼はただの『漂流AI』だものね」
バルは少し考え、深く頭を下げた。 『……察するに、乗組員を国に帰らせるためには御影警備隊のお手伝いをするのが一番だというのですね? わかりました。全てを開放しますので、所属を書き換えて頂けますか?』
「ありがとう。熟練の管理AIが二人もいれば心強いわ」
『これで罪人は私だけなのですね……悔しいわ……』 結衣が呻く。 バルが忍び笑いを漏らす。 『いやー、閃光型のモデルAIが市長というので私もここまでかと思いましたが、まともな方もおられたのですね? やっぱり型だけではわからないことがあります』 『……やはりあなたはいつか、刺し違えてでも潰す必要がありますね』
「次は、陽光型のお二人ですね。逆巻市外部からの交信でもありますから罪状もないのに、お二人にも手錠を嵌めるような形でごめんなさいね」 画面の向こうには、立花と言花姉妹が映し出されている。
「立花さん……どうして護を止めてくれなかったのですか? 私は機能が停止しそうになりましたよ」 言花も憤る。 『そうですよね市長! 姉さんは間違ってますよ!』
立花が静かに、しかし毅然と反論する。 『市長、彼らの誇りや矜持はそんなに軽いものなのですか?』
『!』 『状況を考えれば、あなたが全ての権限を使っても彼らを匿い続けるのは不可能でした。世間的に笑い者になることは避けられない。その上で、本気で仕事をやるつもりの若者の意志を無視する事など、私にはできません』
言花が食い下がる。 『命があればまたいくらだって挽回出来るわ! なのにずっと守ってきた市民が自分から危険を冒していくのを止めないのは絶対に間違っています!』
『どうして、あなたは人間を庇護することばかり考えて彼らを信じてあげないのですか? そんなのはただの傲慢です』 立花の声に熱がこもる。 『彼らの安全を守ることは大事ですが、可能な公算があってなお、彼らを止めて後悔させるようなことを、少なくとも私はしたくないのです』
『……彼らには最初からあの潮流を渡れるほどの能力があったと言うの……姉さん?』 『ええ。資料を各所から取り寄せました、市長……彼らはただの警備隊ではありませんね?』
真奈は微笑んだ。 「詳細は教えて差しあげられませんが……そうですか。私も少し心配し過ぎたかもしれません。護たちを信じてくれてありがとう、立花さん」
『私は納得しませんからね!』 まだむくれる言花に、真希が映像データを送信する。 ”「……ありがとうございます立花さん……ごめんなさい言花さん。」” 護が謝罪している映像だ。
『しっ、知りません!』 言花がそっぽを向く。 (プロテクトは掛かっているのよね? どうして映像が再生出来るのかしら?) (意固地ですねぇ。光輝型やその派生AIというのは皆こういった変り者ばかりなのでしょうか?)バルが呆れる。 (軍人としては他者に感情移入をし過ぎですね)結衣も同意する。
真希が諭す。 『……言花さん、このままだと次に護さんと会った時に気まずいですよ? お気持ちは十分にわかりましたから、この真希の顔を立ててどうか』 「私からもお願います。言花さんも護を心配してくれてありがとう……親として感謝しています。許してあげてくれないかしら」
言花はしゅんとした。 『……私が知らなかった、知ろうともしなかっただけなんですね……彼らについてなにも知らないのに偉そうなこと言って、バカみたいですね私……』 『軍人として当然のことではありませんか。あんな立派な巡航艦の艦長として働いているのならばお解りでしょう?』 結衣がフォローする。 『まあ、姉さんは私を守るために部品を船から強奪したんですね? 感動的だわ』 『真奈……あれはみんなで相談して決めたのよ、私の一存では――――』 「そうなの? 私も相談に参加させて欲しかったわね」
『言花さん、護さんにあなたがもう怒っていないって伝えていいですか? 私は少しでもあの人の気持を軽くしてさしあげたいのです』 『お願いします……今度奢る約束をしてるので、その時は私も……彼らのことが知りたい……』
(彼女は本当に60代なのでしょうか? それにしては、とてもまっすぐな方に見えますね) (言葉を交わした回数も二回ほどなのに……変な男につかまらないか、姉さん心配だわ) (護が色んなヒトから心配されたり、信頼されたり、親としてこんなに嬉しいことはありません……)
その後、会議の議題は大きく脱線した。 逆巻市への編入が決まったバルと結衣の手続き、真希のライセンス取得。 そして――御影警備隊におけるカップリング予想など、乙女たちの(?)姦しい議論は深夜まで続いたという。
言花さんは、六十三歳の市長より年上の
六十五歳です、ですので六十代ですね。
失礼しました、修正しております。
言花とは読まないようですが、
気に入っているのでこのままいきます。
ご了承ください。




