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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第四十話 貸切の宿泊所

山城歴157年。逆巻市・宿泊施設。 逆巻市出発から13日目。


市長官邸から専用通路を抜けた先。 そこには、かつて逆巻港が最盛期だった頃、政府の重鎮や著名人を迎えてきた高級宿泊施設がある。 外観からは入り口すら分からず、厳重な警備に守られた要塞のような場所だ。


「ここがVIP用の宿舎?」 御影警備隊の面々は、期待に胸を膨らませて足を踏み入れたが――


「こういうところって普通、プールとかあるんじゃないの?」 「広くもなければ狭くもない程度か……なんというか、古いな?」 「知ってるか? こういうのを『和風』っていうんだぜ」 「不思議だな。なぜか懐かしい気持ちもするよ」


彼らが通されたのは、畳敷きの和室だった。 女将に促されて靴を脱ぎ、内履きに履き替える。 男性陣四人が最初に入った部屋には、低い木のテーブル(ちゃぶ台)があり、皿の上には奇妙な茶菓子が乗っていた。 「スコンブ」と呼ばれる海藻のようなものと、黄色い飴玉だ。


「意外といけるぞ高野」 「マジかよ松浦。お前が肉以外のものを好むなんて! でもそれは両方いっぺんに口に入れるもんじゃねぇと思うぞ」


窓を開けると、地面には土が敷き詰められ、木々が植えられている。だが視線を上げれば、そこは高い壁に囲まれていた。 「なにもないな……木は珍しいものだけど」 狭いアパート暮らしの彼らにとっては新鮮だが、少し物足りない気もする。 防犯のため端末は没収されたが、小さいテレビがあり、外の情報は辛うじて得られそうだ。


部屋割りを確認した戸賀が、女将に詰め寄った。 「女将さん、ちゃんと男女別になってますよね?」 「もちろんですよ。少し離してありますし、殿方が近づくようでしたら私が止めますからご安心ください」 「それならいいんです。この隊にはデリカシーに欠けてるところがありますからね」


戸賀は相葉を振り返った。 「ミナも、寂しいからって護のところへ行こうとしないのよ?」 「しっ、しませんよ、お姉ちゃん! ……あっ、失礼しました艦長代理……」 「もう……任務と訓練の時以外はお姉ちゃんでいいわよ。何よ変な時だけ遠慮して! ミナのバカ!」


顔を真っ赤にする相葉を、戸賀が抱きしめて頭を撫でる。 すると中村も便乗して、ミナの腕に抱きついた。 「仲がよろしいんですね。昼食にはお呼びしますので寛いでくださいね」 女将が微笑ましく見守る中、女性陣は自室へ向かった。


一方、一人取り残された(?)広瀬理香は、いつの間にか二番目の部屋(男性部屋と女性部屋の中間)に入り込み、自然な正座でお茶をすすっていた。 「美味い……そして落ち着く。初めての体験だというのに、なんと懐かしい気持ちになるのか……」


「おお!? 広瀬、ここは男部屋だぞ? 見つかったら戸賀がうるせえんじゃねぇか?」 進藤が入ってきて驚く。 「まあ、そう言うな。どうせ一度は集まって、また騒ぐのだろう? とりあえずは近い部屋でいいではないか。荷物もすでに運び込まれておるようだしな」 「ガハハ! そうだな。しかし遅いのう護は」


護はまだ市長と話し込んでいるらしい。 制服から着替えたいが、全員揃うまでは待機だ。 手持ち無沙汰になった一同を前に、戸賀があることを思いついた。


「んっ? 結局この服これから洗濯するのよね? じゃあ今から訓練すればいいんじゃないかしら?」 「「それだ!」」 体育会系の数名が賛同する。 「いや、眠いから少し寝かせてくれると……」 井上や河原が抵抗するが、無駄だった。


「施設内をランニングよ! ほら全員駆け足!」 「宿内で走るもんじゃないっすよぉ……」 「さあ、鈍ってる体をもう一回解すわよ! 走って!」


結局、護がだいぶ遅れて到着した頃には、体力のない隊員たちは廊下で死体のように転がっていた。 「……何があったんだ」 今日も隊長は困惑するばかりだ。


その後、全員で護からの報告を聞く。 「私は聞いてたけど、やっぱり三日間はここにいろって?」 「そういうことだな。市長からご家族へは連絡がいくので、皆さん安心してください」 「そうか、よかった」


進藤が頷く。 「ワイフは心配せんヤツだが、知らせておくに越したことはないからな」 「進藤さんも結婚してたんですね……意外だなぁ」 御堂が目を丸くする。 「御堂も若いからまだいいかもしれんが、考えておくといいぞ。食わせるのには困ったがな! その点、市長や護たちには感謝しとるぞ!」


「家族か……姉は元気だろうか……」河原が遠い目をする。 「私は今一人暮らしだし、実家のお父さんにまで連絡とってないよね? もう勘当同然で出てきてるし、生存報告とか困っちゃうなぁ……」中村が苦笑する。


高野がポリポリと頭をかいた。 「そういえば母さんには何も言ってきてなかったな。まあ仕事に行ってくるとは言ったが」 「ほう? もう出発から13日目だが、それは大丈夫なのか?」 「さあ? 長期任務だって言う暇もなく呼び出されたからなぁ。仕方あるめぇ」


護が申し訳無さそうに告げる。 「そこのことだが、高野のご両親から捜索願が出てたらしい」 「えー!」 「任務内容を話せないから揉めたそうだが、もちろん気がついた婆ちゃんが事情を電話で説明したから、まあ、うん、安心しろ」 「そっか……悪いことしたなぁ。婆ちゃんや父さんたちには謝っておこう」 「親に心配をかけるもんじゃないぞ高野くん。例え大人になってもね」 明石が諭す。


「次に、家に帰って三日のお休みを挟んで次の任務となります。さすがに次の任務は、喧嘩を売られたり妨害やら攻撃など、トラブルなしでの『普通の任務』になることを期待しましよう」 「いや、まったくだな。……しかし油断はできないし、井上はどうする? 降りるか?」 「取り分次第っすね!」 「「正直だなぁ!」」


女将に洗濯物を頼み、ロテンブロという特殊な湯船に浸かって汗を流す。 やっと私服に着替え、夕食の時間となった。 この宿の料理長が腕によりをかけた豪華な食事が並ぶ。


「今はあまり人が来ませんから、料理長が張り切って作りました。それに若いから必要なのは量ですよね、量!」 「はい、全力で賛同します!」 「右に同じく!」


「かーっ、酒が美味い! 任務中は飲めんから格別だのう」


「美味い……ここで修行したくなるな」 明石が料理を味わいながら呟いた。 料理人として、この珍しくも奥深い「和食」という技術に感動しているようだ。


宴会が進む中、酔った中村が河原に絡み始めた。 「ねぇ聞いてよ河原ぁ……護がさあ……私のこと荷物みたいに……」 「いや姐御、俺に言われても……」


河原が困惑していると、横から進藤が豪快に酒瓶を傾けた。 「ガハハ! お前が単独行動をしたせいではないか? では罰だと思って飲め飲め!」 「むぐぐ……」


「ミナ……飲めないなら無理はやめなさい」 「……ジュースお願いします……」


思い思いに食事を楽しむ仲間たちの姿を見て、護は今度こそ心底ホッとしたようだった。 まだ心配事は尽きない。借金もあるし、次の任務もどうなるか分からない。 だが、とりあえず責任は果たせた。


張り詰めていた糸が切れ、安心感に包まれた彼らは、翌日、昼まで誰も起きてこなかったという。

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