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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第三十九話 逆巻市の希望

 山城歴157年。逆巻市・市長官邸。応接室。 逆巻市出発から13日目・早朝。


「不良息子!」 「婆ちゃんCPU!」


低レベルな言い争いは、周囲の者がいなくなったことで唐突に収束した。 静寂が訪れる。


「……あなたはもう少し上手くやれないのですか? やはり政治家向きではありませんでしたね」 真奈が呆れたように言う。 「うるさいな。婆ちゃんを罵倒なんて出来るかよ」 護がバツが悪そうにそっぽを向く。


真奈はクスリと笑うと、人差し指を唇に当てた。 影で見張っているSPへの合図だ。 『ここからは部外秘です(聞いても忘れるように)』 SPたちは無言で頷き、ドアをロック。対盗聴機能を作動させ、物理的・電子的な遮断を完了した。


「さてと。初任務はどうだったかしら? 監視衛星に向かったと聞いたときは、思考回路が停止するかと思いましたよ」


護は重く口を開いた。 「……隊長として出来たことは、あまりなかったように思う。隊員や他の人達に支えられて、助けられて、後押しして貰ったのに……心配かけて、命まで張らせた。そのくせ、困っている隊員の助力にもなれなかった」


護は拳を握りしめる。 「しかも、下手すれば隊は安易な偽装工作で犯罪者だ。隊長どころか、人としても失格だな……」


「あら? 真希さんからは『隊長としてしっかりやっている』と聞いていたのだけれど。随分自分への採点が厳しいのね護は。それに思考がネガティブ過ぎじゃないかしら?」 「流されるままで手応えなんてなかったからな。今回は本当に済まなかった。俺の刑期(借金返済期間)は延長してもらって構わないから、隊員たちには――――」


「そのくらいにしなさい、護」 真奈がぴしゃりと言った。 「初回から上手くいく人なんてそうはいませんよ。まあ、初回から大規模な偽装工作に手を染める人もいないでしょうけどね」


護が縮こまる。 真奈は表情を和らげた。 「それに今回のことは、私が行っている市政の甘さが原因よ。速川議員に行動を起こさせてしまったことも、行政が滞って市民に迷惑をかけたことも、私の責任です。でも、それを反省し、次に活かさなくては。……護も自分を卑下する暇があるなら、まずは前を向きなさい」


「……わかってる。このまま隊が存続出来るのなら全力でやらせてもらうつもりだ。借金のこともあるが、婆ちゃんや市には借りが増えるばっかりだからな。目的が果たされるまではしっかり手伝うよ」


真奈が試すような目で護を見た。 「……この警備隊を設立した『本当の理由』は、もう解りましたか?」


護は少し考えてから答えた。 「亜空間潮流の影響下にある、次の資源宙域の採集候補を調査する先遣隊だろ? 『警備隊』というのは設立のための方便だな」


「残念ですが不正解ですね。半分も合っていません。でも『警備隊が方便だ』というのは合っていますよ」 「そうなのか? それだともう予想の範囲外だな。次にバトンを渡すようには聞いてるが、他には通常の任務以外に出来ることなんて……」


「今回はまだ初任務ですからね。答えが見えたなら、また教えて頂戴」 真奈は意味深に微笑んだ。 「一つだけ言うとしたら、あなたの隊は**『逆巻港の希望』**よ。上手く行けば、『逆巻市ここ』本来の役目もできるようになるかもしれないわね」


護は考え込んだが、これ以上聞いても答えてくれないことは経験上わかっている。「仕方がない」と肩をすくめた。


「まあいいか。……それと、今回見つけたモノはどうするんだ? ミナがみんなの取り分を交渉すると息巻いていたが、俺達は仮にも公務員だから、やっぱり難しいか?」 「そうねー。お金はボーナスくらいなら支給できるけど、多額となると難しいわ。護はどうしたいの?」 「俺は借金の返済に当ててくれればいいよ。高野も松浦もそのつもりみたいだしな。他のみんなにはそれぞれ思惑があるだろうから、そのとおりにしてあげたいけど……」


「あらあら? 欲がないのね護は。工作艦もそうだけど、閃光型を見つけてくるなんて大金星なのよ? 可能な限りは便宜をはかるわ。ついでにミナちゃんと話して、交渉についてのレクチャーもしなきゃね。楽しみだわ」 「現役市長から交渉の指導をされるなんて、ミナには刺激が強すぎると思うけどなぁ。まあ、お手柔らかにな」


真奈が悪戯っぽく笑う。 「ねえねえ、それで護はどの娘が好みなのかしら? 映像を見てると、みんなまんざらでもないみたいに見えるけど?」 「あー、最近は借金返済と初任務の忙しさでそれどころじゃなかったから、そういう話はパスだわ」 「まあ! 誰が『義理の娘』になるのか教えてくれてもいいじゃないの? それとも男の子の方が気になる?」 「? 気になるってなんだよ? ともかく、士気に関わるから隊員には余計なことを言わないように」


(慌てたり恥ずかしがってもくれないんだから、つまらないわね……) 真奈はつまらなそうに肩をすくめた。


「はいはい、セクハラ市長として訴えられないように気をつけますよ。……今後の予定については衣笠隊長から聞いてるかしら?」 「いや、何も聞いてないぞ?」 「そう。これから三日間は要人用の宿泊施設で過ごしてもらうことになってるわ。自宅にも報道や敵対議員に雇われた人が来る可能性もあるから危険なの。帰りたいだろうけど諦めてね」


真奈の声のトーンが少し下がる。 「閃光型と工作艦の処分は追って決まるけど、護が勝手に約束したこと(乗員の埋葬など)や、違法改造した警備船のあの状態もなんとかするから安心しなさい」 「……悪かったってば……ありがとう婆ちゃん……」


「今回のことで、スポットが当たった御影警備隊への参加希望者も増えるかもしれないからそのつもりでね。初任務開始からすぐの大活躍ですもの、私が大々的に広めます!」 「そんなに急に増えても対応できないぞ、まったく」


護が頭を抱えるのを見ながら、真奈は内心で舌を巻いていた。 (私はAIだから、とても信じる気持ちにはなれないけど……あなたたちは誰よりも幸運なのか、そういう運命にあるのかもしれないわね。まさか必要だった『銀環結晶』まで見つけて来るなんて……)


彼女の計画にとって、銀環結晶は喉から手が出るほど欲しい重要物資だった。 (この計画は思ったより早く終わりそう。少なくとも、未来ある若者を早く開放してあげなくてはね)


その後も二人は雑談を続けた。 久しぶりの、保護者と被保護者の会話。


「ところで婆ちゃん。……話の途中から変えたその格好はなんだ?」 護がジト目で見る。 いつの間にか真奈の姿が、ビジネススーツから若かりし頃の軍服姿に変わっていたのだ。


「久しぶりに昔を思い出して、つい! 似合うかしら?」 「まあ、うん、そうだね(結衣さんにそっくりだな)」 「やっぱり若い姿もいいわね。議会でもしばらくはこれでいこうかしら。服だけ替えれば誰も気にしないでしょ?」 「いや……議会についてはよくわからないよ、俺は政治家には向かないからね……でも驚くと思うよ……」


その時、ドアが勢いよく開いた。 「失礼します!!」 先程のメイドさんが、鬼の形相で飛び込んできた。


「市長! もう、本当にお時間の方がありません! 次は市役所で講演となりますので、至急移動をお願いいたします!!」 外のSPたちが頭を抱えているのが見える。どうやら強行突破してきたらしい。


「あらあら、ごめんなさい。つい長話をしてしまったわ。すぐに向かうわね」 真奈は悪びれもせずに微笑んだ。 「またね、護」


フッ。 市長の姿がかき消える。ホログラムの転送が切れたのだ。 周囲の者たちは慣れた様子で撤収作業に入る。


「……相変わらずだな」 護も立ち上がった。 メイドさんの案内を受け、一足先に向かった隊員たちが待つ宿泊施設へと歩き出す。


長い一日が、ようやく終わろうとしていた。

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