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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第三十八話 今、話題の官邸へ

 山城歴157年。逆巻市・市長官邸。 逆巻市出発から13日目・早朝。


衣笠隊とのどんちゃん騒ぎ(深夜のハシゴ酒ならぬハシゴ飯&銭湯)を終えた御影警備隊は、車内で仮眠を取った後、ついに目的地である市長官邸へと到着した。


身なりを整え、車から降りる。 衣笠隊長と二人の隊員に続き、護たち十二名が後に続く。


「おう、俺についてこいよな」 「結成式以来だな」 御堂がきょろきょろと辺りを見回す。 「警備が厳重になってるね。カメラが増えてる。やっぱりデモが加熱した影響かな?」 「デモ!?」


その不穏当な単語に、官邸の警護SPたちが一斉に反応した。 ジャキッ! 「ヒィっ! またっすか! 暴力反対っす!」 井上が即座に両手を上げる。 「いや、あんたビビリ過ぎだから」 河原が呆れる。 「……輝一……余計なことは言わなくていいから大人しくしてろ……」 松浦が小声で諌める。


「護ちゃん……これは両手をあげた方がいいのかな?」 中村が真顔で尋ねる。 「いえ、中村さんでしたか? そのご心配には及びません」


SPたちの背後から、指揮官らしき男が現れた。細身で長身、鋭い眼光の男だ。 「お前達、もう少し余裕を持て! お客様を威嚇するな!」 「「失礼致しました!」」 SPたちは直立不動に戻った。


衣笠隊長がニヤリとする。 「おお、誰かと思えば**つかさ**じゃねぇか」 「衣笠か……来るとは聞いていたが懐かしいな」 「知り合いですか?」 護が尋ねると、衣笠は肩をすくめた。 「同期の桜ってやつだな。逆巻港には桜なんてねぇけど、まあ、そういうこった」


SP隊長――**深堀ふかほり つかさ**が、護たちを一瞥する。 「この男が迷惑を掛けていないだろうか? 昔から無茶苦茶なやつでな」 「いえ、お世話になるばかりです。いい先輩ですよ」 「それなら良かった。案内をするからついてくると良い。初めてではないようだが、外が騒がしかったもので警戒レベルを上げているからな」


深堀が先頭に立ち、広い官邸の庭を少し迂回するように案内を始める。


(……このルート、順路を外れると即座に警報が鳴る仕掛けか?) (いや、一歩間違えれば防衛システムが作動する罠だな……)


松浦や戸賀、そして進藤といった戦闘慣れしたメンバーは、官邸の「本気警備モード」を肌で感じ取り、戦々恐々としていた。 一方、高野だけは「へぇ、凄い庭だな」と呑気に感心している。


「ところで、見つからずに市長官邸へ導くはずだっただろう? こんなに遅れてきた上に、目立つ車両で大挙して乗り込んできたのはなぜだ?」 深堀が衣笠に小言を言う。 「固いことを言うな、市長の許可済みだ」 「お前また……ふん、まあいい。市長はもう戻られてお待ちのはずだ」


玄関口を過ぎると、今度はメイド長の案内を受ける。 時間は既に早朝。至るところでメイドやボーイ、執事たちが忙しく立ち働いている。


護がメイドさん三人の近くを通りかかると、彼女たちは護を見つけてパァッと顔を輝かせ、小さく手を振った。 護も軽く手を振り返すが、なぜか顔が赤い。 彼は以前、彼女たちに「お世話(物理的・精神的なケア)」をされた時のことを思い出していたのだ。


「むー、護ちゃん、だらしない……」 中村が、さきほどの議員(末里)の真似をして頬を膨らませる。 「そうね……護はメイド服が好みとは知らなかったわ……」 戸賀の視線が冷たい。


「懐かしいね、まもっ……隊長」 相葉が慌てて言い直す。 「男性の考えることはわからんが、清潔で整然として見える作業服というのは見ていて気持ちがいいのは、わかるぞ」 広瀬が真面目に分析する。


ここで弁明するのは火に油だ。護はとりあえず無視することにした。 この事情を知る者は、結成メンバーの五人のみである。


「こちらになります。首を長くしてお待ちでしたから、労ってあげてくださいね」 メイド長が応接室のドアの前で一礼し、下がっていった。


衣笠隊長がドアの前に立ち、部下二名と共に姿勢を正す。 コンコン。 「どうぞ、お入りください」 「失礼いたします」


部屋に入ると、奥の窓際に市長――桜井真奈が立っていた。


「衣笠隊! 隊長! 衣笠きぬがさ 壱輝いっき、ご要望どおり御影警備隊を連行して参りました」 「遅かったわね衣笠隊長? まあ許可はしていたから今回は咎めません。あなたたちのような優秀な『隊』を使って申し訳なかったわ」 「いえ、パレードや大事故でもない限りは暇をしておりますので、いつでもお呼びください」 「地が出てるわよ衣笠隊長? ……ありがとう、下がって構わないわ。お疲れ様でした」 「はい、失礼致します」


衣笠隊長は、市長に見えない角度で護たちに親指を立て、去っていった。


部屋には、御影警備隊と市長だけが残された。


「さてと……。御影警備隊の皆さん、初任務の件、お疲れさまでした」 市長の声は穏やかだが、どこか冷やりとしている。


「はっ、はい市長! 御影警備隊、隊長! 御影護と隊員十一名、帰還致しました! ご報告が遅くなって申し訳ありません」 「本当にあなたたちは……定時連絡もしないで……」


(あっ、長くなるかもな、これ……)高野が察する。 (久々のお説教かな? 帰ってもう少し寝たいんだが)松浦があくびを噛み殺す。 (市長が隊長の保護者というのは本当だったんだな。同じ親の立場から言わせてもらえば、怒るのも無理ないぞ隊長)明石が同情する。 (車に俺たちの荷物のせっぱなしだけどどうするんだ? 前にもこんなことがあったな)河原が心配する。 (あとでエンジンについて交渉できないだろうか? いや、まとめて相葉に頼むのが筋道だろうな)進藤はブレない。


護がしどろもどろに弁明する。 「いや、まあ、うん。失礼しました市長、これには複雑な事情がありまして――――」 「報告書は何度も拝見しましたよ? 潮流の影響と工作船の妨害機能の『誤作動』で定時連絡が不可能だったのよね? でも、それらが解消されてからも定時連絡が『なかった』ようだけど、これはどうしてかしら?」


「いえ、その……隊員たちにも無理をさせていたので私も少し頑張った結果、つい長く就寝してしまって」 「お黙りなさい!」


市長が一喝した。 「まったく! そもそも任務として存在していたとはいえ、予定外の作業を市に連絡もなしに行おうとするとは言語道断です! 危険な任務を独断で決めて、隊員になにかあったらどうするつもりだったのです? 隊長としての自覚が――――」


(うわぁ、結衣さんみたい。やっぱり姉妹なんだな) (市長、そのくらいでかんべんしてあげて欲しいっすよ) (真希さんが粗方報告してるから茶番のはずなんだけど、鬼気迫る演技ね。ドックでの演出も見事だったし、けっこうな役者なのね市長って) (工作艦に残された乗組員や、潮流溜まりで見つかった戦闘艦の遺体を逆巻港に収容するようにお願いしたいのだが、今は間が悪そうだな)


隊員たちがハラハラする中、護がキレた。


「仕方ないだろ婆ちゃん! 俺だって好きで、こんな工作してないぞ!」 「あんな雑な虚偽の報告書を平気で送ってきておいて、よくそんな! 理解がない上司だったらあなたは犯罪者として今度こそ刑務所行きですよ!」 「だから、それ以外どうしようもなかったんだって! あんな喧嘩を売られたら買うしかないし、攻撃してきたとはいえ、漂流者を見捨てて戻れるか! 工作艦の解体はともかく、AIコアには手出しはさせないからな!」


(うわぁ、護も意外と激しいんだな) (昔を思い出すなぁ。それで方々と喧嘩になって) (ダメそうならいっそ、あの艦で山城本星まで逃げるか? 船のお宝を渡せば匿うぐらいはしてくれるだろう……楽しそうだ)松浦がよからぬことを考える。 (護ちゃんの怒り顔! 怖いけど良い!)中村がときめく。 (止めたいけど、この会話には入れない。ごめんね護ちゃん)相葉が縮こまる。


「いい加減にしなさい! この不良息子!」 「俺の婆ちゃんCPU!」


「! ……そんな古い言葉で親代わりを侮辱するとは! そこになおりなさい――――」


これは長くなる。 そう察したメイド長が、呆れた顔で護以外の隊員を部屋から出し、移動予定だったVIP用の宿泊施設へ誘導し始めた。


部屋に残されたのは、いがみ合う「親子」二人だけ。 「お二人とも、予定が詰まっていますからそろそろお開きにしてください」 メイドさんの冷静な声が響くまで、喧嘩は続いたのだった。

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