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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第三十七話 帰還した故郷で

 山城歴157年。逆巻市・宇宙船ドック外周。 逆巻市出発から12日目・深夜。


無事にドックを脱出した御影警備隊は、速川末里の案内で検疫や入国手続きを済ませ、ついに宇宙港の外へと出た。


時刻は深夜零時近く。 居住区画の太陽灯は消され、静かな夜が広がっている。 彼らは十二日ぶりの開放感と、足裏にかかる重力の感触を噛み締めていた。


「はぁ……地面っす! ほっとするっすね……」 井上がへたり込む。 「こうも長期になると、やっぱり筋力が衰えるのか? 動き難く感じるな」 高野が屈伸をする。 「ふん、鍛え直さないとな。休暇中は付き合え、高野」 松浦はやる気満々だ。


「肩が重いけど嬉しいー! 理香ちゃんは大丈夫かな?」 「ああ。肩こりはないがバランス感覚が少しおかしいな。微調整が上手く行かなくて転倒しそうだ」 中村と広瀬も、ふらつきながら笑い合う。


「輝一ちゃん! ほらほら、昔みたいに抱っこしてあげようか!」 末里が両手を広げる。 「姉ちゃん! あの時も俺は嫌がってただろうが! 人聞きが悪すぎるぞ!」 御堂が全力で拒否する。


そんな平和な光景の中、相葉が護の袖を引いた。 「あの護ちゃ……隊長」 「どうしたミナ? ……お前も昔みたいに抱っこされるか?」 「ちっ、違うよ、もう! あそこに止まってる車の車種とナンバーに見覚えがあるの。……機動隊の人たちだと思う」


護が視線を向けると同時に、闇の中から声が響いた。


「今頃、気がついたか! 待っていたぞ! 議員以外の全員確保しろ!!」


号令と共に、黒服を着た男たちが四方から湧き出した。 あまりに見事な隠形と奇襲。松浦でさえ気配を察知できなかったプロの動きだ。 (もっとも、長時間待機で体が冷えたのか、鼻をすする音も混じっていたが)


「くっ、また奇襲か! 我ながら不甲斐ない!」 「言ってる場合か、一点突破するぞ!」 松浦と高野が構える。 「なんだこいつらは? 投げていいのか護よ?」 進藤も応戦体勢だ。 「暴力反対! 暴力反対っす!」 井上は即座に両手を上げ、ニコニコした黒服女性に優しく手錠をかけられた。


抵抗する護たちだが、相手は本職の機動隊。しかも多勢に無勢。久々の重力下で動きの鈍った彼らは、次々と地面に押さえつけられていく。


一方、呆然とする中村と広瀬の元には、花束を持った数名の黒服が詰め寄っていた。 「中村さん! ファンでした!」 「広瀬先生、お疲れ様です!」 なぜか握手会のような状態になっている。


そんな中、一箇所だけガチの戦闘が行われている場所があった。 戸賀美佳だ。


「せいっ!」 鋭い蹴りが黒服を吹き飛ばす。 彼女は一人の隊員と一騎打ちを繰り広げ、周囲の黒服がドン引きするほどの激闘を見せていた。 力が入りにくく感覚がおかしいはずなのに、抜群の格闘センスでカバーし、徐々に相手を圧倒していく。 実はこの船で一番強いのは、松浦でも進藤でもなく、元教官の戸賀だったのだ。


ドカッ! 蹴り倒された黒服の女性隊員が、悔しそうに唸る。 「ちくしょー、今度こそ教官に勝てると思ったのに」 「あなた、ちゃんと受け身とった? 何で寝てるのか知らないけど、倒されても慌てず動けって教えたわよね?」


戸賀が追撃の構えを取る。 「こっ、降参! 降参しますから!」 「遅いわ!」 綺麗な回し蹴りが炸裂し、女性隊員は花壇の茂みへ吹っ飛んだ。


「ふう。……それで、私達を確保してどうしようって言うの? 衣笠きぬがさ隊長?」


指揮官らしき男――衣笠隊長が、苦笑しながら歩み出てきた。 「相変わらずだな戸賀。まさか本気で抵抗するとは思わなかったぞ。おーい大丈夫か美弥みや?」 「あの娘が本気でやりたがってたのを止めなかったくせに」


衣笠は悪びれずに告げた。 「まあな。これから全員を市長官邸へ連行する。その後、VIP用の宿泊施設で三日は過ごしてもらうぞ? まあ、ほとぼりが冷めるまでって奴だな」 「手錠はいらないでしょ? 外しなさい。じゃないとこのまま逃げて、意地でも任務失敗にさせるわよ」 「わかった、わかった。……おいお前たち! これで終わりだ!」


衣笠の号令で、黒服たちは不満そうに(もっと暴れたそうに)手錠を外した。 彼らは手際よく撤収準備を整え、三台の車に護たちを分乗させていく。 ちなみにこの黒塗りの車列は、機動隊員たちの私物である。


「またねー護ちゃん! 落ち着いたら会いにいくからー!」 現場に残る速川末里が、呑気に手を振って見送った。


車内では、先程までの殺伐とした空気が嘘のように、和やかな会話が交わされていた。


「うう、広瀬医師と同乗したかった……」 「俺もトレーナーだった中村さんのファンだったからわかるわ」 「いや、どう考えても女性四人になるに決まってるだろ?」 「隊長は護たちと乗ってんだろうな。あいつら面白いからまたどっか寄らない? 遊びてぇ」


彼らと護たちの縁は、一年前の「事件」に遡る。 警備隊設立前、修学旅行帰りの護たちを呼び出すため、市長が機動隊を使った時のことだ。 『抵抗するなら強制連行しても良い』という命令を、衣笠たちは『待ち伏せて捕まえる遊び』と解釈して実行。 その後の取り調べ(という名の宴会)で意気投合し、不思議な友情が芽生えたのだ。 戸賀や広瀬、中村が入隊したのも、この衣笠隊長のお節介スカウトがあったからこそである。


無線から衣笠の豪快な声が響く。 『よーし、みんな久々の再会だ! 今日は松浦の好きなステーキを御影隊に奢ってやろう! お前らは自腹だからわかってるだろうな? いつぞやのように遊ぶぞ野郎ども!』


「いや、前に怒られてませんでした?」 『今回は休暇を消費してるからな! 市長からの許可も貰ってるぞ、抜かりない!』


「肉か、有り難いな」 松浦が嬉しそうだ。 「とにかく体を動かしたいかな。さっきも思ったけど鈍り過ぎてるわこりゃ」 高野も腕を回す。


『よしよし、まあまずは腹ごしらえだ!』


深夜の道路を走る車列からは、歓喜の声が上がっていた。 彼らにとっての「帰還」は、こうして賑やかに幕を開けたのだった。

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