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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第三十六話 再会する光

山城歴157年。逆巻市・宇宙船ドック。 メンテナンスルーム(隠し部屋)。


警備隊の一行は、速川末里の手引きでドック上階のメンテナンスルームへ移動していた。 ここは整備状況を確認するための部屋であり、ドック内のカメラ映像を警備網に引っかからずに傍受できる特等席だ。


末里がヘルメットを脱ぎ、説明を始める。 「ふう。この後は別の場所で、順番に検査や入港手続きに移ってもらいます。と言ってもすぐではありませんので、護ちゃんたちにはここで様子を見ながら待っていてもらいますね」 彼女は当然のように続けた。 「任務完了報告はご心配なく。入港した時点で市長から『成功』として仮認証をもらって受理してあります」


護が苦笑する。 「ありがとう、末里姉ちゃん。でも今は市が大変で、忙しかったんじゃ……」 「何、お礼なんていってるのよ! 私と護ちゃんの仲じゃない! それに市長のために頑張ってくれたんでしょ? 私はめっちゃ怒られたけど、護ちゃんならきっとなんとか出来るって信じてたからね」


その親しげな様子に、中村美咲が反応した。 彼女は小声で戸賀に耳打ちする。 「!ねっ、ねえ『護ちゃん』……!? この人は誰なの?」 (いきなり「ちゃん」付け!?)


「……落ち着きなさい中村。この人、確か南山群で連絡を取ってきた議員よ」


末里が笑顔で自己紹介した。 「おっと失礼しました。改めてご挨拶します。市長派閥の末席、速川末里です。以後お見知り置きを」 輝一が補足する。 「俺たちの先生にあたる、速川の兄貴の妹さんなんだよ。昔はよくお世話になったなぁ」 「輝一ちゃんも久しぶりだね、元気だった? 背は伸びなかったみたいねぇ、残念」 「うぐっ……」


「随分、若い議員さんだな。私達と同じくらいか?」 進藤が感心する。高野も頷く。 「俺はあまり面識がなかったが……几帳面だった師匠と違って大雑把な印象しかなかったのに、まさか議員になるとはな」 「姉ちゃんは変わらないな。ブラコンも治ってなさそうだ」


御堂が端末を操作した。 「みんな、始まるみたいよ! 画面を大きくして」


ドック内は騒然としていた。 鎮座するのは、三隻が合体した異様な船体。そこから吹き出した蒸気が晴れ、全貌が明らかになると、マスコミや野次馬のシャッター音が止まらなくなる。


突然、照明が落ちた。 ざわめきの中、光が集まり、市長の立体映像が浮かび上がる。


「おお! 市長だ、こっちにカメラを回せ!」 「警備隊の設立を行った市長だ! リポーター行け、インタビューしろ!」


市長は無言で歩き出し、駆逐艦のブリッジを見上げた。 するとそこからも光が集まり、結衣大尉が現れた。 二人のAIの圧倒的な存在感が、群衆に沈黙をもたらす。


『姉さん……お久しぶりですね。お変わりがないようでなによりです』 『真奈……まだ生きていてくれたのね。よかったわ……他のみんなは……』 『閃光型AIで残っているのは私だけです。ともに残った妹の陽向ひなたも、あの後に起こった掃討戦で艦と共に行方不明となりました』


『……そう。あなたたちを残して出撃したこと……まだ――――』


(結衣さんセリフが違いますよ。それは軍部の秘密ですから、だめです) 真希からの通信が入ったのだろう。結衣が一瞬詰まった。


『! ……こほん。あなたたちに後を任せて出撃し、今まで帰ってこれずに、本当にごめんなさい。苦労をかけましたね』 『……姉さん、いえ結衣大尉……。長く逆巻へ帰れなかったあなたと、もう戻ることのない光輝型数十隻を思えば、ずっと国と逆巻にお仕えできた私は……ただの果報者です』


『あなたがそう思うのなら、きっとそうなのでしょうね……。もう帰ってしまったけれど、あなたが設立した警備隊の皆さんには、今回とてもお世話になりました』 『はい。まだ新設したばかりの隊ですが、自慢の隊ですよ……』


ここで観衆も気づき始めた。 目の前にいるのは、50年以上行方不明だった伝説の艦と、市長の姉。 そして、姉に託され、生き残ってしまった妹である市長。 このドラマチックな再会に、カメラのフラッシュが一斉に焚かれる。


結衣と市長が対面する。 『あなたは変わったわね……私の姿も心も、歳を取らせたらそんな感じになるのかしら?』 結衣の言葉に、市長は首を振った。 光が揺らぎ、市長の姿が変わる。 それはかつて閃光型駆逐艦に乗っていた頃の、若く可憐な軍服姿だった。


『これは軍人として要塞であった逆巻を守るための姿でした。軍人達や要塞で必死に働く人々と共に戦い、苦労を分かち合い、そして最後まで支えるための姿でした』


市長は再び、現在のスーツを着た初老の女性の姿に戻る。


『そしてこの姿が、市長として逆巻市となった今を人々と共に支える姿……。でも、私はどんな姿を取っても、私はあの時と変わってはいません。どんなに苦しく悲しい過去があったとしても、遠くない未来にいつか……ここが壊れてなくなる日が来るとしても。私が護りたいのは現在、逆巻港の今なのですから』


二人は触れることのない光の手を伸ばし、互いを慈しむように重ね合わせた。 拍手が巻き起こり、やがてそれは大歓声へと変わった。


その後、真希とバルが現れた。 真希は客室乗務員のスキルを全開にし、警備隊の活躍を(かなり盛って)語り始めた。 『私と共に船に乗っていた御影警備隊の皆さんは、自らの危険を顧みず、危険な宙域での任務を果たし、その疲れた帰り道において見つけた困っている工作船の救助を――――』


バルも続く。 『艦長たちの最後の願いは故郷へ、それだけでした……。ですが亜空間航行の設備もなく、いつまでも燃料もたない。そんな状況で途方に暮れ、数十年と時間が経ったその時――――』


「真希さんや市長たちも、やってくれてるわね……」 戸賀がため息交じりに呟く。 「かっ、感動しました……私……」 相葉が目を潤ませている。


護は脱力して椅子に沈み込んだ。 「はぁ……とにかく終わったなぁ」 「ああ、色々あったが完勝と言っていいだろう」 「俺たち初任務から結構凄いことしてないか?」


高野がニヤリとする。 「捏造と偽装もしてるから、公的にはどう発表されても婆ちゃんからはお説教だろうな。それに、それが世間にバレたらどうなることやら」 「あの人の話は長いからなぁ……そうだ、録画して送ってくれたら早回しで見るんだけど」 「それはいいな! いっそ頼んでみるか」 「いやいや逆に長引くパターンだろそれ」


笑い合う彼らの横で、相葉美菜が立ち上がった。 「みなさん、お疲れ様でした。戦利品の取り分がちゃんと出るように、私がきちんと交渉しますから安心してください!」


(おお? 相葉ちゃんが交渉するのか? 頑張れ相葉ちゃん!) (頼りないが、今はまあ、誰がやっても一緒だろうしな。これもいい経験になるだろう、頑張れ相葉隊員) (ミナ……! ちゃんとしっかり喋って……寂しいが、そろそろ俺はお払い箱かな……)護が少し寂しそうだ。 (隊長! 取り分が! ローンが! 困るっすよ!) (井上、空気を読むっす)中村が小突く。 (この進藤が押さえつけておくから心配するな。いやーしかし、良い旅だったな) (そうですね、前職に戻る気持ちも無くなりましたよ) (そうそう、とにかく楽しくはあったしなぁ)


「あんたたちボソボソと何を言ってるのよ? 私も協力するから安心して交渉しなさい、ミナ」 戸賀が助け舟を出す。


広瀬が居住まいを正した。 「体調を崩す者も出たが怪我人がいなくてよかった。それから、途中で取り乱してしまったことを謝罪する。改善するので……その……」 戸賀が遮る。 「井上と中村を見てから言いなさいよ、そういうのは……何があったかは知らないけど、そんな報告にもあがらないような些細なことで謝ってたらキリがないわ。そうでしょ広瀬?」


「私も……ごめんね護……単独行動しちゃって……遅くなったけど本当にごめん……」 中村がしょげる。 「いや姉御……まず俺を見てから言え!」 松浦がツッコんだ。


「だから、自分で言うな松浦!」 護が笑った。


「俺も誰かの事は言えんなぁ。今回は皆、等しくわがままや迷惑をかけておるだろう。正直すまなかったな、護よ」 進藤が豪快にまとめる。


中盤は反省会の様相を呈したメンテナンスルームでの会話は、やがて雑談へと変わっていった。 話は尽きることなく続き、彼らが密かにこの宇宙船ドックから去る準備が出来るまで、その賑やかな声は響き渡っていた。

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