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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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番外編 不自然な少年

山城歴141年 逆巻市 図書館 視点:速川はやかわ けん


私の名前は速川健、十一歳です。 今は小学校に通っており、もうすぐ中学生になります。


最近、父や母、祖父からは「このまま中学に上がるのか? それとも段を飛ばして高校に行くか?」と何度も聞かれます。 ですが、仲のいい友人もいますし、できれば共に中学へあがりたいと考えています。


夢は軍人であり、祖父がかつて要塞だった逆巻を必死の思いで守ったように、時がくれば私も立派な軍人となり、市となった逆巻港を守りたいと強く願い、日々精進しております。


ある日、祖父に頼まれて指定された日時に、逆巻市の中央区役所の隣りにある図書館へ行き、ある人に会って欲しいと言われました。 その図書館は家から近いものの、古い紙資料を扱った、普通の人はあまり用がない場所なので行ったことはありません。


その上、相手のことも知らなかったにも関わらず、尊敬する祖父の言うことを深く考えることもなく、つい了承してしまい、今日その日を迎えました。 我ながら、いい加減ですね。


着ている服などは、家からお仕着せられた堅苦しい服ですが、これから会う人物のことを事前に知っていれば、もう少し身なりを整えるべきだったと思います。 まあ、もともと身なりはあまり気にしない方なので、先方に妥協していただきましょう。


ただ、髪は刈り上げが嫌いなので少し長めの髪をキープし、毛を軽く立たせて動きをつける。色は変えずに黒。 見た目に、これ以上のこだわりは必要ありません。


――――――――


私は歩きでゆっくりと移動し、目的地である図書館に到着しました。 暑くも寒くもありませんが、服が服なので無駄に急いで汗をかきたくはないですね。


外観は石材を積み上げたようなデザインで、洋風の内装の古い洋館のような作りです。掃除も行き届き、ガラスもしっかり磨かれているようです。 図書館の自動ドアが開き、中へ入ると空調が効いており、外より肌寒い冷房の風を感じながら受付へ向かいます。


「いらっしゃいませ、図書館へようこそ! 今日はどんな本をお探しですか?」


制服姿のとても若いお姉さんが親切に対応してくれました。 隣のお兄さんも手に持った書籍を持ち上げて笑顔です。 そして、その隣のお姉さんもなぜか手を振ってくれて、こちらも振り返した方がいいのか迷います。 さらに上階の渡り廊下では、三人の女性がこちらを見て騒いでいます。……職員が多いですね。


私は、昨今は仕事が少なく就職率がとても低下してしまい、市がいろんな職の斡旋を行っていると報じるニュースを思い出しました。 なるほど、この図書館でも溢れてしまった大学卒業者の受け入れが行われているのですね。だから違和感を覚えるほどの、お若いお兄さんやお姉さんがたくさんいると。


納得した私は、不思議そうな顔をしている親切なお姉さんに、自分の名前と面会の約束をしていることを告げます。 驚いた顔をする三人の受付係の方々は顔を見合わせて、再度、確認を取ってきました。


「お客様のお名前は『速川様』。お間違えありませんか?」 「はい、間違いありません」 「……しっかりされていますね。失礼しました、こちらへどうぞ」


何かを納得したようなお姉さんは、私の歩幅に合わせて歩き、丁寧な対応で図書館内に設けられた談話室へ案内をしてくれます。 それは子供の私から見てもあまりにも完璧な対応であり、とても好感が持てました。


「こちらになります。お相手の方がお二人での面会を希望されておりますので、私はここまでです……もし何か不安な点があるようでしたら、私も同席致しましょうか?」


彼女は中にいる人物を知っているのでしょうか? どちらにしても、私がまだ児童であるため不安ではないかと気を使ってくれているのですね。 ですが心配は無用ですよ。私も軍人を志す者です、護身術くらいは身につけていますし、こんな市の建物で誰かを襲うなど非効率極まりないこと。何も恐れる要素はありません。


「いえ、大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」 「そうですか……失礼ですが、気をしっかり持たれて、出来ないことはお断りください。何かありましたらすぐに、壁のインターホンを使ってお呼びくださいね。それでは失礼致します」


一礼して去っていく彼女が言った言葉に少しの不安を覚えたものの、いまさら一緒に入って欲しいとは言えず、ドアをノックして来訪をお知らせします。 一体どんな方が私を呼んだのでしょうか?


「どうぞ、お入りください」


うん? 声には聞き覚えがありますね。


「失礼します、お呼びでしょうか? 市長」 「あら? 秘密にして欲しいと言ったのに、もうバレてしまったの? 残念だわ」


そこにはビジネススーツを着た、白髪の優しげな初老の女性が応接室のソファーに座って笑っていました。 いやいや、毎日のようにテレビや記事などで騒がれている人物ですからね、私でなくてもきっと声でわかるでしょう。


「いえ、逆巻市の女傑と言われる市長にお会いできて光栄です」 「こちらこそ、優秀な速川家の御曹司に会えて私も嬉しいわ。下手な場所で会うと周りが騒がしいから、ご足労頂いてしまってごめんなさい」


山城本星から離れた居住地である逆巻「市」を統べ、市政を握る女傑。 **桜井さくらい 真奈まな**市長。年齢は……まあ失礼ですから考えないようにしましょう。 しかし、受付の方々が困惑するはずですね。会いに来たのがこんな児童では、無理からぬことだと思いますよ、ええ。


「いえ、私もまだ学生の身で自由が効きます、いつでもお呼びください」


市長は私の言葉に吹き出しながら笑い、手の平を差し出して私を席へと促してくださいました。 私がソファーに座ると、給仕のロボットがお茶を用意し奥へ下がって止まりました。 人員が余るほどいるのに、お茶を入れるロボットが必要なのでしょうか? それほど聞かれたくない話をする場合に使用する部屋なのですね。


「あなたはもう少し、素で話すことを覚えた方がいいですね。女の子のような声が可愛くて、顔も同様に可愛いから似合っているし、教養として考えれば正しいと思うわ。でも、その年齢だと違和感の方が強すぎると思いますよ」


むむ、女の子のようなとは失礼な。なぜ私の声は早く声変わりをしないのでしょうか?


「そうですか? わかったよ、じゃあ普通に喋るぜ市長」 「崩しすぎです! 大人をからかってはいけませんよ」


おおう、加減が難しいですね。友人も同じことを言いますからいつもは崩した口調で話しておりますけど、しかしながら、この場合どのくらい言葉を崩すのが正しいのか?


「加減がわかりません、児童に無茶を言わないでいただきたい」 「あらあら、仕方ありませんね。さてと、今回お呼びしたのは頼みたいことがあったからです。優秀な児童であるあなたには一足早く高校生になってもらって、アルバイトをして欲しいのですよ」


「なんですと?」


「高校生ですよ、そしてアルバイトです。変ですね、お祖父様からは高校への進学に前向きで、すでに高校へ行くことが決まっていると伺っていましたけど」


ふむ、祖父に言われて高校に進学するように説得に来られたのではないのですね? いや、流石に市長を相手にそれは、役不足というもの。 祖父はそれほど傲慢ではないし、私を強制したりはしないだろうと思っておりましたが、これが策だとすると強引な。 そういえばこの前受けさせられたテストも範囲が広くて、科目が多くて難解で、なんだかおかしかったような? まさか高校への編入試験だったのですか?


話をもう少し聞いてみる必要がありますね。


「アルバイトとおっしゃいますが、私はまだ十一歳ですよ? 市の状況を考えれば人手が足りないわけではありませんよね?」 「もちろん、これはあなたにしか出来ない仕事。ですからあなたには、その資格がある高校生になっていただきたいのです」 「興味はありますが、お受けできませんね」 「なぜですか? まだ仕事の内容も聞いていないというのに」 「私が軍人を目指しており、そのために共に励む友人もおります。彼らと共に中学へ上がりたいので申し訳ありませんが――――」


「あら? ご友人たちにも飛び級のお話をしてお誘いしたら『喜んで』という返事が頂けましたよ? これで問題はありませんね」


すでに外堀を埋めてきていましたか、油断なりませんね。 しかし、訓練の時間もありますし出来れば断りたい。 どう、お断りしたものか。


「簡単な仕事ではないけれど、経験にならない訳でもありません、有意義なアルバイトとなるでしょう。そう! あなたはこれから家庭教師になるのです」 「なるほど、家庭教師ですか……え?」


なんだかよくわかりませんが、育てたいお子さんがいるみたいですね。 私もまだ、育てられるべき「子供」なのですが、一体何をお考えなのですか市長?


「あなたは背も小さいし、可愛い顔だけど美形よ? それに口調も穏やかだわ、だからあの子たちの先生にぴったりだと思うのです」


相性というものですか? 相性が良さそうだからお見合いをしてみろとか、そういう話なのですか? 市長は全国的に珍しい戸籍を持ったAIで、人と違う感性をお持ちなのかもしれませんが、常識に疎い方だという話は聞いたことがありませんでしたよ……。


「あの子達を任せられるのはきっとあなたしかいないわ、なんとかお願い出来ないかしら?」 「私には私の展望がありますし、そのためにアルバイトをしようにも時間が足りないくらいです、どうにもなりませんね。失礼ながら祖父もただ高校へ進学させたかっただけでしょうし……」 「そう? でも勉強や訓練のための環境を整えるためにも、お金とコネは必要じゃないかしら? 私も元軍人で駐留軍や駐留艦隊には顔が利きますからね」


元軍人でなくても市長ですからね、むしろそれは顔が利くというより強制になりそうな。 うーん、裏からの特別扱いは望んでおりませんが、確かにただ親のスネをかじりながら軍人になるのも――――


「知り合いのスポーツ・ジムに優待会員として融通を効かせるようにも言えますよ? 困ったわ、聞いていた話だとそんなに難色を示されるとは思わなかったのだけれど。難しいわね、なんとか週一回くらいで妥協してくれないかしら?」


むーこれは、妥協点を探っての特典の小出しでしょうか? あまり多くを追加されても今度は辞め難くなりますし、これ以上断ろうにも、市長の顔というのもあります。 一旦、降参しますか……。


「わかりました、人気の高い市長を困らせたと、支持者から睨まれるのも困りますし、とにかくその子に会ってから決めましょう」 「本当に? あなたもきっと気に入るわ、男の子と女の子なの! ……おほん、失礼」


なんでAIの立体映像が咳払いをするのですか? 必要ないと思いますけど? マイクチェックですか? 仕方ありませんね、やはり権力者というのはたとえ物腰が柔らかくても、後ろに見える物が大きすぎて威圧感が凄い。 これで強制の言葉があれば、反発するか恭順するしかない、という気持ちになる人がいるのも、頷けますね。


「それと、お祖父様からは家を用意するように言われているの。速川家の功績と能力は誰しもが知るところ、ですから立派な家が必要だと押し通したわ。だから家の方は期待して頂戴! ちょっと理由があるのだけれど、広い家を用意することになったの、次の入居者が決まるまでの一時的な場所だけど大切に使ってあげて頂戴ね」


えっ? 一人暮らし? お祖父様は時々私を十一歳だとお忘れの時があるような気がします。 高齢とはいえ盤上ではいまだ衰えておらず、最近でさえ負け知らずだというのに困ったお人だ。


「わかりました、祖父が望むこれから通う高校の場所と、その子たちの家に近いとありがたいですね」 「もちろん、そこも考えてのことです、伊達に市長はやっていませんよ。それに……あの子達が気軽に通える範囲にしたいわ」 「……つまり、時には家に呼んで、しっかり教えて欲しいと?」 「フフッ、あなたは察しがよくて助かるわね」


むう、私は一体どこに期待されているのでしょうか? そこまで言われても気乗りがしませんが、まあ会ってみましょう。 さてさて、その子たちには、どんな口調で合わせればいいのやら。 よくよく考えれば年上の可能性も少なからずあったのでは?


まあ詳細はまた送るということなので待ちましょう。


―――――――


おお……孤児院ですか……うん?  五歳児?  なんだか波乱の予感がしますね。

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