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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第三十五話 到着する警備隊

山城歴157年。逆巻市・宇宙船ドック前。 逆巻市出発から12日目・深夜。


任務を完璧にこなし、沢山の土産を積載した御影警備隊の乗艦は、やや見栄えが悪いものの工作船と警備船を取り付けた状態の「閃光型駆逐艦」であり、ハイペースで航行、無事に逆巻港への帰還を果たす。


ちなみに書類に追われていた隊長の護がこのドッキングに気がついたのは先程のことであり、報告をする必要があったにも関わらず、隊長が起きてからも隊員はずっと知らぬ顔でおのおの仕事をしていたようだ。 戸賀艦長代理も同じことで、詰めるだけ詰め込んだ亜空間潮流溜まりからの戦利品を警備船クリュから内部カメラの映像と、各種のセンサーで危険や異常がないかを吟味していたため、二人は結局のところ最後の定期チェックにおいてそれを知ることとなる。


航行に関する権限も緊急停止関連について以外は、駆逐艦の管理AIである「隊員ではない」結衣大尉に隊長も知らぬまま移譲がなされていたことは重大な規律違反ではあるのだが、本件は副長二人と、その他の隊員の満場一致の署名がなされ緊急的な対応として一定の正当性をもった。


護も隊員たちのこの一見暴挙に見える行動を苦々しく思いながらも、逆巻港を前に規律違反で処罰することを躊躇したため、渋々追認する事となる。


――――――――


警備船クリュから連絡を取り入港許可を申請。 それに応えた宇宙船ドックの管制官からの指示により、二番ドックへの入港が許可され、まず外側のゲートが開き、この駆逐艦(?)を迎え入れる。


戦争期から存在し多くの駆逐艦を迎え入れたこの宇宙船ドックは、もっと大型の軍艦を想定されて建てられており、この閃光型駆逐艦に工作船が載った程度なら問題なく受け入れが可能だった。 そのため、開けられた外側のゲートから悠々と入ることができたようだ。


外側のゲートが閉じられると液剤が噴射され除染が行われ、放射線の影響や船に付着した有害な塵芥がドック内を汚さないように洗われる。 そして、そのすべての液剤を排水設備が吸引した後、空気が充填されて内部の気圧と合わせられ、ドック内に大風を起こさぬようチェックがなされた。


全てに入念に問題がないかを管制官がチェックしたあと、内側のゲートが開き宇宙船ドック内に進入することが出来る。


『確認作業が終了いたしました、内部ゲートオープン、おかえりなさい』


女性管制官の一言で内側のゲートが開いた。 すでに駆逐艦と工作船のデータも警備船のデータと共に、ずっと前から管制官に送られており、この想定外の艦による入港も比較的スムーズに行われた。


「よし、指定されたドッキングポイントはあそこだな、着陸するぞ」


『外観は全く別物になっている逆巻なのに、宇宙船ドックは当時のままとは……私が機能を停止したのはつい先日のような感覚なのに、不思議と懐かしいですね……』 結衣の声が震える。


「内側のゲートは無かったんですよね? 昔は」 護が尋ねると、結衣は頷いた。 『ええ、空気を入れていませんでしたから……』


「地球から移民として山城本星に来た人達が、さらに要塞から居住地として形を変えた逆巻市に移住する際、宇宙船ドックにも空気を入れて船への乗り降りを楽にしたいと考えたのがきっかけだったそうよ」 御堂が補足し、ニヤリと笑う。 「へへ、ゲート一枚ならハッキングして乗っ取るのも楽だったでしょ?」


『はい、艦のすべてのシステムを掌握するついでにちょいちょいっと……って、何を言わせるんですか! 民間人は黙って大人しく最後まで保護されていなさい!』 「そっ、その設定はやっぱり無理があるよ結衣さん」


着陸態勢に入ると、護が指示を出した。 「よし、みんな私物以外の荷物整理は後だ。マスコミなんかが計画通りに集まっているが、ここはAIのお三方に任せて、俺達は本道とは別のルートで脱出する」


「俺と高野と、輝一、それから整備班の私物も頼む」 「持って入る食材も調理器具もないから俺が担当しよう、もう何人か頼めるか?」 明石が呼びかけると、相葉が手を挙げた。 「私が手伝いますね、明石さん」


「……えっ? いっ、いや別に……助かるよ……」 明石は少し驚きつつも、相葉の申し出を受けた。


(やっぱり重労働なんかをさせるのは違和感を感じるなぁ。それでも上手い方だから本来は安心する所なんだけど) 華奢な見た目に反して、無重力下での荷物の扱いが的確な相葉に、明石は内心で舌を巻く。


それを見ていた戸賀も、上司としての視点で分析していた。 (見た目と能力が伴ってないのよね。体力がない分、感覚は鋭いし、磨けば光るから、もっと鍛えてあげないとダメね)


「よしよし、この中村お姉さんが御堂の荷物を持ってあげよう……開けていい?」 「いやいや、やめてよ姉御! というか乱暴に扱わないでくれよ? 精密機器も入ってるんだから」


護が脱出ルートを確認する。 「集まってるギャラリーからは見え難い、駆逐艦の後部を通って船体の底まで移動する。そこから『末里姉ちゃん』か誰かが誘導してくれる手筈だけど、空気が入っていないエリアも通るから全員宇宙服でな」


「! 末里姉ちゃんって誰なの護!?」 中村が食いつく。 「中村、今は準備が先だから急いで! 後でまとめて聞けばいいでしょ」


(護……いろいろあったし、落ち着いたら質問攻めだな) (ああ、俺たちも根堀葉掘り聞かれそうだ) (隊長はモテるなぁ。俺も腹以外の点に注目されたいもんだ) 河原が腹をさすりながら思う。


「お前達、そっちでエンジンの後始末はしておけよ」 進藤が井上たちに指示を出す。


エンジン停止。 AIたちとの別れの時だ。


「それでは、真希ちゃん……今回は色々ありがとうございました」 『いいえ、護さん……こちらこそ勝手をしてごめんなさいね。受け入れてくれたこと……嬉しかったです。みなさんもありがとう、またのご搭乗を、お待ちしております』 真希が優雅に一礼して消える。


『私も出来れば逃げたいですね……妹がなんというか……』 結衣が渋い顔をする。 「婆ちゃんは話せばいい人だから分かってくれるって。50年以上も前のことで、くよくよすんなよ。……面倒くさ」 御堂がボソッと言うと、結衣が睨んだ。 『……御堂隊員とおっしゃいましたね? あなたにはいつか、徹底した指導を行いたいものです』 「結衣大尉も不本意でしょうが、お願いします」


『司令官(市長いもうと)から命令されては仕方がありませんが、捏造と逃亡の片棒を担ぐのはこれっきりにしたいものです……。まあ、またお会いしましょう』 結衣のホログラムも消灯する。


「バル。出来る限りになるかもしれないが約束は守る。そちらも頼んだぞ」 『ええ。宿敵たる逆巻とはいえ、乗組員も降ろしていただけるのでしょう? それでしたら私の希望は半分叶ったようなもの。あちらで申しました通り、格別のご信頼にお答えしたいと思います……。出来れば、またお会いしたいものです』 バルの通信も切れた。


「そのために俺がどれだけ苦労したと思っているんだ。最高責任者(市長ばあちゃん)の許可も真希さん経由で取ってある。心配するな!」


戸賀が心配そうに尋ねる。 「艦はそのままで大丈夫なの? 積荷は出たときとは比べ物にならないほどの宝の山よ、護?」 「火でも吹かないと整備はしばらく行われないように手続きをしてくれてるから、誰も触らないよ姉さん。こんな警備の厳重な公共の施設で、泥棒なんて無理だしな」


ゆっくり、そして確実に指定のポイントへ着陸し、艦隊(?)はその機能を停止した。


護がクリュのエンジンをチェックした後、合図を送る。 外に放熱のための冷却装置から出る蒸気を、わざと大きく吹き上げた。


後部ハッチに集まった隊員たちがそれに合わせて外へ飛び出し、その蒸気に紛れて駆逐艦の後部へ向かう。 駆逐艦側も同様に大きな蒸気を発生させ、隊員たちは集まった観客に見つからないように脱出を図った。


速川議員によって集められた報道関係者やそれを見て集まった野次馬は、その異様な船体とそこから吹き出す大きな霧に驚き、動画や写真を撮り始める。 その霧は大きく、人影も見えないほど船体を覆ったが、宇宙服を着ている警備隊隊員はそのガイド機能に従って駆逐艦後部を通り、船体の底の方へ移動した。


ドックの底には穴が空いており、女性と思われる宇宙服を着た人物が手を振っているのが見える。


「――――護ちゃーん、こっちこっち!」


「姉ちゃん久しぶりだな! 全員この穴から出るぞ、遅れるなよ」


「さすがに異常を疑われかねんから、この目くらましもほどほどにしてある。もうすぐ蒸気が晴れるぞ、お前たち急げ」


最後の隊員が穴に入ると、姉ちゃんと呼ばれた女性――速川末里が床を動かして閉める。 そのあと急いで先頭まで移動し、予定の順路へ誘導。 今は使われていない、メンテナンス室へ隊員たちを導くのであった。

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