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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第三十三 話 吊るし上げられた議員

 山城歴157年。4月21日。逆巻市・市長官邸。


数日続いた市長への抗議活動は、奇妙な終息を迎えようとしていた。 元々この騒動は、第三派閥(渡辺一派)が仕掛けた「偽装デモ」と「偏向報道」によるマッチポンプだ。行政サービスを意図的に妨害し、市民の不満を市長へ向けさせる算段だった。


だが、綻びはすぐに生じた。 画面に映る「怒れる市民」のエキストラが、毎回同じ中高年男性ばかりだったのだ。 最初は便乗していた市民も、ネット上の有識者による検証や、あまりに杜撰な演出に気づき、急速に冷めていった。 特に若い世代は、「また茶番か」と呆れてニュースそのものを見なくなり、政治離れが加速する皮肉な結果となった。


この失態を好機と見た第二派閥も市長側へ加勢。 嘘がバレ、逆風に晒された第三派閥・渡辺議員は、いまや完全に追い詰められていた。


外野の騒ぎをよそに、市長官邸の一室では、ある議員への詰問(お説教)が行われていた。


「――――それで……速川はやかわ議員。釈明はあるかしら?」


呼び出されたのは、女性議員・速川はやかわ 末里まつり。 市長派の重鎮であり、護たち5人の師匠である「速川 健」の妹でもある人物だ。


「いえ、それはそのう……私は市のことを思ってですね……」 「あなたのお兄さんは、何があっても思慮深く行動して大したものだと感心したものですが……妹のあなたについては私の見込み違いだったようですね」 「……申し訳ありません」


末里は小さくなった。 彼女こそが、最南端での任務中に護へ連絡を取り、任務の裏事情(不正な追加)や市内で起きているデモの情報を密告した張本人だ。


「まったく。あなたがあの子たちに何も言わなければ、今頃は保護して安全な場所に隔離できたというのに」 「いえ、さすがに護ちゃんたちがおとなしく隔離されるとはとても……」 「お黙りなさい!」


真奈(市長)が声を荒らげる。 「性格を考えれば、間違いなく護一人でも衛星修理に向かうことは目に見えていたでしょう? せめて、どうして『帰ってきなさい』と言わなかったのですか? 立花さんも止めてくれなかったようですし……」


「ご心配はわかりますが市長。あのまま事情も知らずに帰還し、敵対議員や報道関係者に見つかれば『任務放棄』として晒し者です。それよりは――――」 「彼らはたった一年の訓練で、航行経験もそこまでありません!」


真奈の説教は止まらない。 「あなたのお兄さんに頼んで幼少期から鍛えてはいただきましたが、実戦経験はこれから積むのですよ? 亜空間潮流が起こる場所は、未経験者が何事もなく帰ってこれるような甘い場所ではないのです。それを悪戯に……」


(――――護ちゃん、ミナちゃん、早く帰ってきて……) 末里は心の中で祈った。 戦況が市長派有利に傾いたことで余裕ができた真奈は、即座に「裏切り者(情報リーク犯)」を特定し、こうして呼び出したのだ。


「でっ、でも市長? 彼らはもうすぐ帰ってくるのでしょう? それでしたら、もうお気に病むことはないのでは」 「……ええ」


真奈の表情が、ふっと緩んだ。 「お土産(工作艦と結晶)をたくさん持って帰ってきているようですね。監視衛星の復帰も確認しました。完璧に任務を完了したようです」


「でしたら……」 「ですが、トラブルは多かったようですし、罪に問わねばならない対象(ドローン騒動など)もいたようです……。それを……」


真奈がハンカチで目元を押さえた。ホログラムなので涙は出ないが、その声は震えている。 「真面目なあの子が、仲間を思って、騙し騙し報告書をあげて……『全部いたずらでした』なんて誤魔化そうとしたと思うと……健気で哀れですよね? そう思いませんか……?」


(うわぁ、相変わらずの過保護っぷりだ……) 末里は引きつった笑みを浮かべた。


「こうなったら、もう護たちが書いたシナリオ通りにするしかありません。協力しなさい、速川議員!」 「それはもちろん! 誰かが傷つかないように頑張ってる弟弟子のためですもの、私はなんでも致しますよ!」


「『なんでも』とは、いい心がけですね」 真奈はニッコリと笑った。 「宇宙船ドックに彼らを誘導して、そこに報道関係者を呼び込みなさい。今回、偏向報道をせずにいた社なら、こちら側でも中立側でも構いません」 「一体なにが始まるのですか?」 「さあ? わかりませんが、護たちは『派手に笑顔でお出迎えをして欲しい』そうですよ」


二人は、護と真希が作り上げた「台本」通りに舞台を設定し、彼らを待つことにした。


真奈にとって、喧嘩相手の渡辺派閥など既に眼中にない。 この騒動が沈静化し、渡辺が辞職に追い込まれる未来は確定している。 かつて自分が市政について教えてきた熱心な生徒が去ることは寂しいが、自ら招いた結果だ。


議員最後の日には、花束と議員年金の手続き書類を渡してあげよう。 そう思いながら、市長は愛する子供たちの帰還を待つのだった。

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