第三十二話 高速の艦隊?
山城歴157年。南山群→逆巻港 航路。 逆巻市出発から12日目・夕方。
御影警備隊率いる奇妙な三隻船団は、ついに難所である小惑星帯を抜け、通常航路へと到達した。
本来なら迂回を余儀なくされるルートだが、彼らは最短距離を突っ切ってきた。 しかも、不本意な積荷(工作艦とクリュ)を二つもぶら下げているにも関わらず、その機動は驚くほどスムーズかつ高速だった。
理由は単純。 御堂が説得の末、航行権限を**結衣大尉(閃光型AI)**へ委譲したからだ。
「……隊長が起きる前に行けるところまで行こう。流石に勝手をし過ぎた。怒鳴られるのはともかく、再チェックを言い出して止められかねない」 「確かに、信用以前の問題だからなぁ。しかし快速だなこいつは、最初のもたつきが嘘みたいだぜ」 「まあ、操縦してる感はあまりないがな」
松浦と高野が苦笑する。 手厚いサポート……というより、ほぼ自動操縦に近い。 結衣が涼しい顔で告げる。
『不本意ですが仕方ありません。山城星の傑作機である私とこの艦が、アレ(工作艦)より役に立たないなどと言われるのも困りますからね。それに貴方達は所詮、教習所で優秀といった程度でしょう? それではこの艦の性能は引き出せません。権限を軍人に預けたほうが安心だと思い知りなさい』
『自分の体のようなものですから扱えて当然です。むしろそれを知っていて教えずに「協力はする」などと言っていたヒトは、恥ずかしくないのでしょうか?』 バルが即座に嫌味を返す。 この航路も、彼が提供した詳細な潮流データがあってこそ通れたものだ。
『軍人として保護する程度なら、あれでも過分でしょう? その民間人を襲って部品を奪おうとしていた無法者は黙っていなさい』 『お二人とも仲良くすると約束したばかりではありませんか? 乗客が不安になりますから喧嘩はおやめなさい』 真希が割って入る。 『『善処はします』』
「……たぶんだけど大丈夫だよ真希さん。武器さえ渡さなきゃ、がっちり繋がってる以上は体当たりも出来ないし。せいぜい逆噴射して抵抗するくらいしか出来ないよ」 河原が肩をすくめた。
航行は順調だ。予定より早く到着しそうである。 話題は、これから行う「例の件(隠蔽工作)」に移った。
「本当にやるのか? 人間として言わせてもらうが、効果があるかは保証できんぞ」 「あらまあ! 誠さんみたいに全員がいつも競い合いや戦いばかりを求めてるわけじゃありません。こういった演出による『ドラマ』も昔からありますけど、まだまだ人気があるのですよ?」
真希の言葉に、高野が感心する。 「年季が違うから説得力があるなぁ。婆ちゃん(市長)も護と接してから結構変わったっていうし、人間と接してるAIは成長でもするのかねぇ」
松浦が尋ねる。 「市長自らが護の保護者というのは違和感があったが、何か事情があるのか? 速川師匠も市長に頼まれて先生をやっていたようだが」
「あー……確か、婆ちゃんが議員から『子供も産めなければ育てることも出来ないAI風情に市長など務まるか、辞任しろ』って煽られてさ。その後だいぶ悩んだみたいなんだ」 「なるほど、売られた喧嘩だったのか」 「市長と面識のあった護の両親が事故で亡くなったことで、孤児の保護と育成を目的とした企画を立ち上げて、護がその第一号になったわけだ」
「それで市長が保護者として登録されたか……」 「護はそういうの隠さないから俺も知ってるけど、それでも孤児院ってのは変わらなくて、そこで相葉ちゃんと出会ったんだよね?」
高野が懐かしそうに語る。 「そうそう、小学校からの付き合いだがあいつは面倒見がよくて、頭が良くて運動もできた。……けど、最初はキレやすくて大変だったんだ。相葉ちゃんの髪にガムをつけた馬鹿の腕を、危うくへし折るところだったし」
「えっ、英二くん! ……そのあたりの話は止めて……」 相葉が慌てるが、無線から茶々が入る。
『……それ、へし折ってもよかったんじゃないっす? それより、隊長の子供の頃かーもっと聞きたいっすね』 「中村さん! 俺の真似は止めるっす!」 「井上! 手を動かさんか! お前達も暇なら誰か回してクリュの傷を中から塞いでおけ! 無かったことにするのだろう?」
進藤に怒鳴られ、井上たちは作業に戻った。
さて、本題の「カバーストーリー」だ。 河原からは「三流以下のシナリオ」と酷評されているが、護と真希が考えた苦肉の策である。 副長二人が、劇の台本を読むように読み上げる。
「えー、第一項。『当たってしまった岩石との摩擦で船が焼けたが、攻撃なんてなかった』」 「第二項。『運搬用ドローンを誤認してライフルで射撃してしまったが、相手に敵意はなかった。隊長も反省している』」 「第三項。『チェーンガンタレットで壊れて外れないメインスラスターや部品を排除し、動けなかった工作艦を救助した』」 「第四項。『彼が隠していた場所を知らされ、そこから閃光型を回収し運用。二隻を積んで帰還致します!』」 「そして最後。『中村隊員のバイクは運搬用ドローンが運んで壊れました。お伝えするのが遅くなって申し訳ありません』」
『どうしてそんなにポンポンと嘘が出てくるのかな? 悪党だねみんな……えっ? 私のバイク壊れちゃったの? そんな……あれは高かったのに……』 中村の悲鳴が響く。
「嘘も武略だからな」 「まっ、これも経験だ」
『やはり、そのあたりはちゃんとした方がいいのでは? 私は廃船となる覚悟は出来ていますから、そちらが嘘をつく必要はありませんよ』 バルが心配するが、高野は笑い飛ばした。 「大丈夫だよバル。これでも護が頭を捻って考えてたんだからさ。あいつにとってはモデルAIも身近な存在だから放っておけないんだろな」 「でも、こっちには口裏合わせだけで責任は自分が背負い込もうなんてのは、けしからん! 真希さんの台本も合わせて、せめて楽しくやろうぜ」
『つまり私が暴露すれば、あの工作船は解体ですね』 結衣が冷たく言い放つ。
「もう市長には通達しましたよ? 『姉にも協力するよう伝えるように』とのことです」 真希が告げた。 「逆巻市にあった軍司令部はもう解体され、今は駐留艦隊司令も不在です。その結果、この地域の最高司令官は市長ということになりますね。やっと軍人としての仕事ができそうでよかったですね、結衣大尉さん? ご命令は確かに伝えましたよ?」
『真奈……怒ってるみたいね……』 結衣の表情が曇る。 『妹が市長……これは喜んでいいのかしら……』
「市長は良い人だよ? 悪い噂も聞かないし、今やってる騒動も勢いだけで、言いがかりに近いみたいだからそろそろ終わるさ」 「河原くんのような優秀な情報担当が言うと説得力倍増だ。……ところで、クリュからそちら(閃光型)に食事が運べそうにないんだが、松浦くんたちはどうする?」
「「「しまった」」」
全員が声を合わせた。 三隻合体状態では、船外に出ての移動が困難なのだ。
「食事抜きは辛いっすね……一回止めるっす」 「なにを言うか! せっかくエンジンがいい調子だというのに!」
進藤は不満そうだが、背に腹は代えられない。 それに、クリュ側の戦闘痕(亀裂)も、もう一度入念に塞いでボロ隠しをする必要がある。 御影警備隊は、食事と証拠隠滅のために、広大な宇宙の真ん中で一度停止することになった。




