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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第三十一話 高野の思いつき

 山城歴157年。未探査宙域・警備船『クリュ』船内。 逆巻市出発から12日目・午後。


御影警備隊が管理する三隻の船団による移動が開始された。 先頭は管理AI結衣が制御する『閃光型駆逐艦』。それを牽引される『工作艦』。そして最後尾から監視・指揮する『警備船クリュ』。


理論上はこれで帰れるはずだった。 しかし現実は甘くない。三隻の相性は最悪だったのだ。


「――――なんだこの船は。抑えが全然効かないじゃないか!」 閃光型のブリッジで高野が叫ぶ。 駆逐艦の出力調整はあまりにピーキーで、少しでも気を抜くと加速しすぎて後ろの工作艦を引きちぎりそうになる。逆に緩めればクリュに追突されそうになる。 たった十五分で、牽引ケーブルがシールドに干渉して切断寸前になる有様だった。


「護がいないからかなぁ、それともこれは必然なのか?」 「さあな。だが全てにおいて三隻の足並みが揃わん。どうしたもんか」 松浦も頭を抱える。


中村美咲が弱音を吐いた。 「うーん、理解ってると思うけどこれはもう、個人の手に余るわ。市に連絡して指示を仰がないと……」 「「えー!?」」 「いやいや、あんな物を俺たちだけでどうしようと? ……救援を呼んで一緒に回収してもらったほうが……」


その弱気な発言に、高野が噛み付いた。 「みんな、とにかく動けばいい、って思ってたところがあるからな。俺たちのせいにされても困るぞ、中村の姉御!」


御堂も乗っかる。 「そうだ! そうだ! こんな時こそ、なんとかしてくださいよ経験豊かな真希先生!?」


真希が困ったように答える。 『お二人(結衣とバル)とも仲が悪いですからねぇ。それに駆逐艦の方が、ものすごく調整が難しいんです。さすがベテランばかりを集めて宇宙で接近戦なんてやってた船だけはあります』


いっそ微速で進むか? いや、それでは間に合わない。 工作艦を置いてクリュだけ先行? 「戻ったらいませんでした」では済まされない。 隊員たちの頭が煮詰まっていく。


「……護を起こして中止してもらう? そりゃ私も嫌だけどさ、無理してこれ以上なにかあったら言い訳も難しくなるよね?」 戸賀も不安そうだ。 「怪我人が出るような事態は避けたいな……。ただ、ここまで来たんだ。やり遂げたいなら止めないぞ私は」 広瀬も迷っている。


その時、高野が閃いた。 「あり余ってる閃光型の出力、追従出来ない二隻の船……なら、ドッキングだな!」


「……高野……お前……良策かもしれないな」 松浦が即座に反応した。 「えっ、英二くん? 誠くん? おっ、落ち着いて?」 相葉が慌てるが、技術屋たちは既に動き出していた。


「話は聞かせてもらったっすよ! 繋ぐでもない、積載する形ならいけるっす!」 「えっと、でもどこに載せるんだ? まさか――――」 「えっ? ワイヤーで縛ればいいんじゃないか?」 「駆逐艦の後部に不自然に空いてる場所があるな。そこに工作艦の腹を載せよう」 「ワイヤーの強度がたりないかもな。さっき鉄板で亀裂を塞いだように、溶接しちまうか?」


外では予定外の作業が開始された。もちろん、寝ている隊長の許可など取ってはいない。 三つの船を合体させて、駆逐艦の馬鹿力で無理やり運ぼうという計画だ。 やればやるほど実現可能性は高くなるが、反面、見栄えは最悪になっていく。


工作艦は閃光型の後部にフィットするように数カ所溶接され、さらに輸送用ドローンがワイヤーできつく巻きつける。 クリュは駆逐艦ブリッジ前のスペースに着艦し、ワイヤーでガチガチに固定された。 まるで継ぎ接ぎの怪物だ。


その裏で、AIたちも密談を繰り広げていた。


(なんだか、物騒なことになっていますね? 私としては乗組員が無事ならどうなっても構いませんが、彼らはどうしても私を連れ帰りたいようです。なぜでしょう?) (……黙りなさい。軍人である私が警備隊員に抑え込まれるなんて……こんなことなら静かに眠らせておいてくれればよかったのに……)


(自沈でもなんでもお好きにどうぞ。でも……あなたにはまだ、生きていくつもりはあるのでしょう? 乗組員をそちらに移乗していただけるというのなら、ご希望どおりに私を沈めても構いませんよ?) (命令違反して飛び出したくせに、まだ死にたがるのですか?) (うっ……)


真希が割って入る。 (バルさんも結衣さんもいい加減になさったらどうです? お二人を信じられない気持ちもあったでしょうけど、彼らはずっと彷徨っていたあなたたちを放置しておきたくない、優しい気持ちもあるのですよ?)


(無用な感情ですね。彼らを見ているのは楽しいですが馴れ合うつもりはありません。協力はします、けれど本部の命令以外は本当ならやりたくありません) (やはり、閃光型のAIはどこかおかしい。理解できませんね) (バルさんあなたもですよ。戦争が終わったのを知っていて軍属かどうかもわからない船を襲うなんて、良心が痛まないのですか?)


(その襲った相手を思って、約束通りになるように知恵を絞って作業をしている『人間』に、遺恨を捨てて協力しようとは思わないのですか? 自分の願いだけ叶えばいいと?)


真希の言葉に、二人は押し黙った。 (うーむ……わかりました。しかしどうすれば?) (今は、外の作業はドローンと彼らに任せるしかありませんからね。でも、それなら私達は私達ができることをしたいと思います。どうです? のりませんか?)


真希は、駆逐艦を見つけてから温めていた『ある台本』を二人に見せた。


(真希さんこれは……? 私、ちょっと妹には会いたくないのですけれど……) (捕虜であることは変わりませんし、私からも訴えかけを出来るのならありがたいですね。わかりました! のりましょう)


突貫工事が完了した。 見た目は酷いが、強度は十分だ。 隊員たちは新たな配置につく。


駆逐艦の操縦は松浦と高野のダブルエースが担当。 そしてクリュのコックピットには、万一に備えて相葉美菜が座った。 副操縦士には中村美咲が名乗りを上げる。


「まだ習ってる途中だけど仮免までいってるから、私が副操縦士やるね?」 「そうなんですか? よろしくお願いします、美咲さん」


ちなみに、二人のライセンスには天と地ほどの差がある。 中村が目指しているのは一般的な「Cランク」。 対して相葉が持っているのは、大型船団や特殊船の運用すら可能な最高難易度「Aランク」だ。 艦隊司令や大企業の社長がステータスとして持つような代物を、彼女たち五人は協力して取得していたのだ。 戸賀ですらBランクであることを考えれば、その異常さが分かるだろう。


「おっ? フォル君? 君はそこが好きだねぇ」 相葉のヘルメットに、またもドローンが着地した。彼女が名付けた『フォル』だ。 「もっ、もうフォル! 船が動くと危ないから、今は定位置で待機しなさい」


命令されると、フォルは素直に飛び立ち、調理場の隅に設置された即席ステーション(『賞味期限切れ』と書かれた箱の上)に着地し、固定モードに入った。


準備は整った。 眠る隊長と艦長代理を起こさないよう、彼らは手早く再スタートを切る。 三位一体となった異形の船団が、逆巻港を目指して加速を始めた。

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