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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第三十話 隊長は大変

 山城歴157年。未探査宙域・警備船『クリュ』船内。 逆巻市出発から12日目・深夜。


ハッチ開放で抜けた酸素を充填し、除染を終えた船内。 十数時間ぶりに宇宙服を脱いだ隊員たちは、一時間の自由時間の後、三時間の仮眠を義務付けられた。


元第一客室では、男性陣が窮屈そうに雑魚寝している。小柄な御堂だけは隅の隙間にハマって快適そうだ。 元第二客室では、女性陣が休んでいる。 中村美咲は恐怖が抜けないのか相葉美菜に抱きついていたが、寝苦しくなった相葉が脱出し、広瀬の布団へ避難するという攻防が繰り広げられていた。


一方、駆逐艦『閃光型』。 エンジンルームから離れない進藤を井上が説得し、近くの個室で仮眠を取らせていた。


そして、起床時刻。 明石が温め直した食事を配り、交代メンバーが身支度を整えていく。 松浦がコックピットへ向かうと、そこには予想外の光景があった。


時間を少し遡る。 隊員たちが仮眠を取っている間、起きていたのは隊長の護(閃光型ブリッジ)と、艦長代理の戸賀クリュ・コックピットだけだった。


護がウトウトすると、 『見張りが寝てどうします! 起きなさい!』 結衣大尉が怒鳴りつける。


戸賀が船を漕ぎ始めると、 『美佳みかさんー任務中ですよー! 起きなさーい! さもないと私がクリュを好き勝手に動かしてしまいますよー!』 真希が物騒な脅しで叩き起こす。


「(見張りは任せるから寝かせろと言いたい……!)」 二人は歯を食いしばって耐えていた。


特に護は限界だった。 作業スケジュールの構築、承認、そして艦長業務である日誌と報告書の作成。 しかも「バレたらまずい」レベルの捏造(ドローン隠蔽工作など)も含んでいるため、誰にも任せられない。 精神的にも肉体的にもオーバーワーク気味だ。


(俺は隊長としてやれているのか? 進藤さんや中村さん、みんなに無理をさせて……姉さんにも苦労を掛けっぱなしだ)


不安に押しつぶされそうになった護は、閃光型からクリュへ通信を入れた。 「……姉さん……すまない」


『……どうしたの? あっ、ちょっと寝ないでよ護!? 私達の休息時間は遠いのよ? 眠いのはわかるけど!』 「いや、苦労をかけるなって。姉さんが隊長だったらよかったのにな」


『――――何をいまさら改まって。あんな個性派揃いの隊員を引っ張っていく自信なんて、私にもないからね』 戸賀の声が優しくなる。 『あんたはよくやってるから思いつめないで。……もう、そんなんじゃミナも広瀬も心配するでしょ? 私は優秀な副長二人のおかげで結構、楽させてもらってるわ。だからこっちの心配より自分の心配をしなさいよね』


二人の会話の裏で、AIたちの通信回線が賑やかになる。 (ププっ、「も(広瀬も)」って、自分も入ってるんですよねコレ)真希が茶化す。 (今いいところですから、お静かに)結衣がたしなめる。 (いいですね、やはり生きている人間に仕えていると飽きません)バルが混ざってくる。 (捕虜は黙って作業していればいいんです!) (まあまあ、これもAIの役得ですから仲良くしましょ!)


「……でも姉さんは機動隊の訓練教官まで上り詰めていたのに、なんで警備隊なんかに来てくれたんだ?」 「あなた達が呼んでおいて『それ』をいまさら聞いてくるの?」 「ミナが男ばっかりの中で仕事をするところを想像したら無理があったからなぁ。あの時は必死に人を探してさ」


「いや、それはわかってるけど……でも本当にそれだけで衣笠きぬがさ隊長なんかに頼んだわけ? 呆れた……あの人もあの人で、張り切って何度も言ってくるのよ? 『戸賀! 宇宙船に乗らんか?』って。最初は新手のナンパかと思ったわ」 「多少、縁があってね。たまに相談にのってもらってたんだよ。……いきなり隊長をやるように言われても、実感なんか沸かなかったしな」


「それにしても、一年と経たずに名字が隊名に付くなんてよっぽどよ? 市長の秘蔵っ子とはいえ、一体どんな手を使ったの?」 「……むしろ、市には借金と借りしかないんだがなぁ」 「時々聞くけど、そんなに多いの? 借金? いくらなの?」


護は遠い目をした。 「えっと、逆巻市の高級住宅地になる予定だった資材と管理コアを粉砕して出来た負債を、ケンカ相手と、その中継を見ていたやつらまで巻き込んでみんなで負担して――」


「いやいや、あなたたち何やらかしてんの!? 個人どころか町内全体で抱えても返済なんて無理じゃないのそれ?」 戸賀が素っ頓狂な声を上げる。


「いやー姉さん、それがその……ミナを嫁に欲しいって相手が地球からの貴族でさ。工事現場で決闘をだな――――」 「意味がわからないわ! 帰ったら問い詰めるからそのつもりでいなさいよ! もう、ミナはなんで断らないの? ……って、断れない性格だから決まってるわよね」 「相手があまりに強引すぎたから四人で捌いて守ってたんだが、だんだんと集まった野次馬がエスカレートして……」 「ふーん、それもまとめて聞くわ。相手の情報もね……」


積もる話を仕事をしながら消化していく二人。 しかし、次第に会話は途切れがちになり……ついに双方が力尽きた。


(なんか、最後の方は定時連絡のついでにやる業務会話みたいになって……) (色気がありませんでしたね、残念ながら) (……真希さん、この二人はどういう関係なんです? 姉って?) (ただの愛称ですよ。地球ではよくあることだったとか) (恋愛対象というより、仲のいい上司と部下では? どちらかというと艦長代理殿が上な感じもします) (そうでしょうか? しかし、相性はよさそうに聞こえますね)


真希が楽しそうに続ける。 (他の娘も護さんが気になるようですし、まだまだ、美人もカッコいい男の子もいますからね。飽きませんよこちらのクリュは)


すると、バルが控えめに割り込んだ。 (……良ければこちらにも回線を回していただけますか、真希さん?) (そもそも捕虜がどうして会話に参加しているのです?) (地球では蛇の道は蛇と申しまして――――) (自由になったら必ず潰しますからね、あなた)


真希が提案する。 (仲良くなさるなら、私の秘蔵データをお貸ししますよ?) (……これは、休戦ですね) (私はあなたとは違いますけど、今はいいでしょう)


その後、真希から送られてきた古い「時代劇データ」を、結衣とバルはいそいそと再生し始めた。 しかし、画面に映るチャンバラを見た二人のAIは、「……思っていたのと、なんか違う」という微妙な空気を共有しつつ、つい見入ってしまい――結果として、護と戸賀を起こすのを忘れてしまった。


「……おい、起きろ」


交代に来た松浦と高野が、それぞれの場所で倒れている二人を発見した。 聞きつけた広瀬が優しく戸賀を起こし、気まずそうな彼女を「診察」と称して連れ出す。 護の方も起こされたが、「仕事がまだ……」と寝ぼけて抵抗したため、高野に引きずられてクリュへ強制送還された。


後に残されたのは、護がやりかけていた膨大な事務仕事。 最後に起きてきた相葉美菜が、それを見て静かに端末に向かった。


日誌の作成、スケジュールの微調整、申請書類の不備修正。 彼女の手は魔法のように動き、護が数時間かかっていた仕事を片付けていく。 副長の高野がチェックし、驚愕して仮承認を出した。 「すげぇな相葉ちゃん……」


すべての準備が整った。 隊員たちは、泥のように眠る隊長と艦長代理を起こさないよう静かに行動を開始する。 まずは小惑星帯を抜け、この宙域を離脱し、逆巻港へ帰還する。


「よし、野郎ども! 帰るぞ!」 松浦の小声の号令と共に、奇妙な船団(クリュ+閃光型+工作艦)は動き出した。

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