第二十九話 光の名を持った脅威
山城歴157年。未探査宙域・閃光型駆逐艦艦内。 逆巻市出発から12日目・夕方。
隊員たちの努力により、ついに駆逐艦は始動を開始して最終チェックまでこぎ着けた。 各部がまだ異常を訴え、コンディションの表示が赤くなっている所も多々あるが航行に支障はない。 中は空っぽで貨物スペースにも余裕がある。工作艦から接収予定のレーザー砲やドローンも積めるだろう。
人員の配置には頭を捻るが、ほとんど選択肢はない。 閃光型の操縦は護と高野が担当し、設定を行った御堂が引き続きサポートする。 クリュの操縦は松浦と戸賀が担当し、こちらから河原が双方の船の状況をデータ化、両操縦士へ送る。 航路の解析も必要なため情報処理担当は休む暇がないことも気がかりだが、しばらくはこのまま耐えてもらう。
整備班に至るまで休息を強制し、まだ閃光型のエンジンルームから出たがらない進藤には近くの空き部屋での休息を承諾させた後、行動を開始した。
両船が発進したが、その絶望的な性能差が足並みを狂わせる。
駆逐艦『閃光型』の利点は、圧倒的な高出力と小回りの良さだ。 しかしその反面、出力調整は極めてピーキーで癖が強すぎる。 戦闘速度を前提とした軍艦にとって、旅客機ベースの『クリュ』に合わせた低速航行など想定外なのだ。少しスロットルを開ければカッ飛び、緩めれば失速する。 速度面では旅客機とは比べ物にならない化け物をなだめすかし、ストレスの溜まる微調整を繰り返すこと数時間。 うんざりしそうなところで、なんとか目標の工作船が待つ場所へ辿り着いた。
「――――なんだこの船は。抑えが全然効かないじゃないか。輝一、なんとかならないか?」 高野が操縦桿と格闘しながらぼやく。 「無茶言うなよ英二。動かすだけでも精一杯で航路も見なきゃだし、手が足りないよ」
「操縦士はもちろん副操縦士がいないとこれはきついな。ローテーションを考えないと残りの時間ずっと操縦し続けることになるぞ。松浦もそろそろ休ませないと――――」 『俺はまだいけるぞ護。副操縦士もいらんから姉さんに休んでもらえ』 『馬鹿言わないでよ! こんな危険地帯で操縦士一人になんて、させられるわけないでしょ?』
(なんとか一人三時間は寝かせないとな……) 護はため息をつき、通信機を手に取った。
「こちら、警備船クリュ(閃光型より発信)。聞こえるかバル?」
『おや? 戻られましたか』 バルの落ち着いた声が返ってくる。 『センサーの復旧は許可されておりませんので、周りのことがあまりわかりませんでした。……まだ少し距離がありますね。しかし、お出迎えできずに申し訳……そうですか、やはり私は撃沈されてしまうのですね』 「……あ?」 『乗組員たちのことは無念ですが、弔いもして頂けましたし、恨み言は申しません。煮るなり焼くなり――――』
「……何を勘違いしたのか知らないが、運良く牽引できる船を確保して連れて来れた。こいつで逆巻港まで引っ張るから、お前も手伝え」
『なるほど。しかし因果なものですね、戦時中、最も恐ろしかった敵であり最も憎み合った相手(閃光型)と繋がることになるとは。……「?」 手伝えとは?』
「少し動けるようにして、一人そちらに移乗させてから制御させる予定だったが、面倒だから自分でやってくれるか? スラスターの復旧を許可する。追加のスラスターも持ってきた、急いで作業に入れ」
『了解致しました隊長殿。お急ぎのご様子ですが、再度組み上げるだけとはいえ解体した時より少しお時間を頂きますよ』 「構わない。こちらも休息が必要だからな。交わした約束は守るから妙な真似はしないでくれ」 『虜囚の身なれど、その格別のご信頼にお応えしたく思います。お任せください』
その時、ブリッジの隅で黙っていた結衣が噛み付いた。 『敵の捕虜に自由を許すとは何事ですか!? 私達がこの工作船にどれだけ手こずったことか、油断なりません! 即刻、撃沈させてください!』
バルが笑った気配がした。 『おやおや、あなたも無事でしたか。見つけた時に隅々まで拝見させて頂いたところ、廃艦となって役に立たないと思っておりました』 『なっ……!』 『この場で艦(閃光型)を見たときは冷や汗ものでしたが、またあなたの乗る船のような過剰火力の船から攻撃を受けないとわかると、本当に安堵いたしますね』
『相変わらず趣味の悪い性格です! あなた達工作船が張った防衛網は嫌らしくて面倒で、その陰湿な一面が如実に表れていたと思いますよ!』 『いやはや、お褒めいただき光栄です。こちらこそ、あなた達「閃光型」には何度も死線を潜らされましたよ。まったく大したものでした、「火力に任せてがむしゃらに、こちらが構築した防衛網を撃ち抜いていく」など……戦術の構想がある者からすると、とても斬新(脳筋)だったのではないでしょうか?』
『あの時は、護衛がいて良かったですね? 自慢の防衛網を抜かれては手も足も出ず、逃げるしかない貴方を追撃して撃沈出来なかったことを悔やまない日はありませんでしたよ!』
護が割って入る。 「――――今は作業に専念してくれるか? 結衣さんも言いたいことはあるかも知れないけど今は抑えてくれ」
バルが慇懃に答える。 『申し訳ありません。こちらは作業用ドローンを稼働し順調に作業を行っております。……それと、その様子だと恐らく口しか開けない彼女よりは役には立ちますので、運搬用ドローンの使用を許可して頂けませんか?』 『なっ、なんたる侮辱! レーザー砲が使えれば、たちどころに沈められますのに……口惜しいです!』
「あのドローンか。……許可するが、次に隊員を襲ったときは容赦しないぞ」 『心得ております。今生かされていることも忘れて敵対するような、恥知らずな行為など考えられません。……修理をして頂いてなお恩人に苦言を呈するような「厚顔無恥なAI」の方が、私には不思議ですね』 『くっ……! 見張るのは当然です! ですが御影隊長は甘すぎます、あの艦が体当たりするだけで、私たちはともかく警備船は木っ端微塵ですよ?』
「わかっていますよ。でも今できることをしないとこちらの目的が達成できません。ですから……『こういう時は少しでも役に立つものはガッチリ掴んでおくこと』らしいです(田中の受け売り)」
結衣は長い髪を揺らしながら護に近づくと、嫌そうな顔をしながらも告げた。 『……わかりました! 私も協力しますからせめて、レーザー砲一門とシールドの使用制限を解除して返してください』 「うーん、それはちょっと心配だなぁ」 『なぜですか? 私も軍人の端くれです、嘘は申しません』
(自分の剣幕に気が付かないあたりが、やっぱり婆ちゃんに似てるんだよなぁ……公私はしっかりつけて他所ではそういったことがないんだが) 護は苦笑した。 「わかりました。でもシールドは許可しますがレーザー砲はダメです。……それでは着いたら高野と輝一を一度クリュに戻しますから、その間、私のサポートをお願いします」 『……仕方ありません。生き残るために協力したと、日誌には書いてくださいね』 「そういうのは書きやすくていいですね、大歓迎ですよ」
高野と御堂が心配そうに護を見る。 「さっきから聞いてると痛々しいんだが……俺達が戻って大丈夫なのか護?」 「本当に人格持ちのAIってのは自分勝手で嫌になるよ。プロテクトを強めてあるから暴走したりはしないだろうけど……離れるのは心配だな」 「まあ、うん。とにかく、早く休んで早く帰ってきてくれ。俺も進藤さんがいるしここを離れたくないからな。ここで見張りながらゆっくりしてるよ。信用できる軍人(結衣)が見張ってくれてるから安心だ」
『こっちはどうするの護?』 クリュから戸賀の通信。 「着いたら松浦を先に寝かせてくれ。クリュを無事に逆巻港に送れるのはお前だけだからな松浦」 『仕方があるまい、まあ見張りも退屈だろうしな』
不協和音を響かせながらも、なんとか両船のAIから協力の約束を取り付けた御影警備隊。 到着した場所で、帰路への準備を進める傍ら、最後の休息を取ることにした。
定時連絡はいまだに行っていない。 理由は単純。「道中で無駄に怒られたり、説明を求められるのが面倒だから」。 全ては帰ってから。 そう心に決めた護は、うとうとしながらも、軍人AIに小言を言われつつ作業を見守るのだった。




