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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第二十八話 始動する軍船

山城歴157年。未探査宙域・閃光型駆逐艦艦内。 逆巻市出発から12日目・昼。


復旧作業は急ピッチで進んでいた。 あくまで「人命救助」という体裁で、動かすために必要な最低限の箇所だけを整備していく。


ブリッジの隅で、結衣大尉のホログラムがその様子をじっと見つめていた。 (この状態で動かすというのでしょうか? 無茶をしますね。……自沈プログラムを起動しようにも、プロテクトが強固でアクセスできません。それに、敵かもしれないとはいえ彼らを巻き込むのも……)


『こちらは警備船のお客様担当・管理AI真希です。結衣さん、聞こえますか?』 真希の声が響く。 『警備船のお客様担当? 形状は変わっていますが、そちらは旅客機なのですか? どうして旅客機が警備船に? あなた達は不可解な点が多すぎます』


『隊員のみなさんも偶然あなた達を発見して困惑していますよ。護さんの許可は得ていますので、あなたが眠っていた間の歴史についてデータを渡しておきますね。信じられないかも知れませんが、戦争から五十三年以上は経過しているのです』


膨大なデータが転送されてくる。 結衣は眉をひそめた。 『そうであっても、正式にこの艦を動かしたいのなら当時の軍関係者に来ていただく他ありません。彼らが例え同じ政府に所属する者たちであっても、私は軍人なのですから、軍の持ち物を民間人に利用させるわけにはいかないのです』


『彼らには彼らの事情がありますから仕方ありませんよ。人間と関わってあまり年季が入っていないようですね? 多少は融通を利かせないと誰も得をしません』 『損得ではありません。私は軍人としか会話をしておりませんので、わかりかねます』 『まあ、意固地な方ですねぇ』 『軍人には褒め言葉ですよ』 『この頑固者! 浦島少女!』


『――――意味がわからないわ……私から見たらあなたの方が頑固に見えますよ。私を説得するのは諦めてください。私達は民間用と違ってルールや決め事を遵守するように造られていますから――――』


真希がクスクスと笑った。 『でも、軍人を締め出して出撃なさったではありませんか?』 『っ!』 『あなた達も融通を利かせようとすればできるのです。それに、開発当初のAIである私にもできるくらいですからね。それより新型でランクの高いAIであるあなたに、それができないはずはありませんよ』


『! あなたは一体何者ですか? 今の年代が157年というなら、開発当初といえば百年以上も昔の話になります。当時のモデルAIは――――』 『おっと、口が滑りました。あなたも今は60代くらいでしょ? 私も女性なので年齢の話はしたくありません。私はただの客室乗務員。それ以上でもそれ以下でもありませんよ。……たまには船の操作もしますけどね』


(人格を持ったAI自体は地球時代から存在したが、モデルAIは別格だったはず。最初期のモデルが生きてるとしても、ここまで自然体で会話ができて、人間のような駆け引きができるものなの? 経験だけでそれを成したとしたら……底が知れないわね)


二人のAIが沈黙すると、ブリッジは静寂に包まれた。 「さっきから結衣さん動かないな」 「真希さんみたいに用もないのに出てきて散歩してる方が珍しいんじゃないかしら?」 「エネルギーの無駄なんだけどねぇ」


「おお、戸賀か! 油は差してやったし固まった燃料もほぐしてやったから、もうちょっとだな」 進藤からの通信が入る。 「わかりました進藤さん。準備が出来次第、ここを離れてから火を入れてみましょう」 「……おっ、おう、そうだな護よ! クリュよりは大型だから楽しみだぞ!」


豪快な笑い声と共に通信が切れる。 他の隊員たちも、疲労は見せつつも楽しそうだ。


「詰め物完了! これで急に穴が空いて誰かが吸い出されたりはしないっしょ! 高野、そっちは大丈夫?」 「こっちは大丈夫だ! いい鉄板だなと思ったら軍事用の硬化メタル製で驚いたぜ。少々雑だが溶接しておいた、外れたりはしないだろう」


広瀬も配電盤と格闘している。 「ふむ、ケーブルを繋いでテープで固定……ブレーカー操作……。基礎的なことしか教わっていないが、これなら私にも出来そうだな。今度は医療機器の修理も勉強してみるか」


「水素ポンプのレトロ感が堪らないっす! すぐに動かすっすから待ってるっすよ! 時代遅れになった愛用のスパナがまた振るえるなんて、持ってきてよかったー!」 井上が生き生きと作業している。


順調に進む復旧作業。 しかし、最後の難関があった。 エンジンの始動だ。劣化した燃料がどのような反応を示すか分からない。最悪、爆発の恐れもある。 当初は全員退避してからリモート始動する予定だったが、進藤がそれを拒否したのだ。


「進藤に何かあったらどうするつもりだ? 医者として看過できん! 中止しろ護!」 広瀬が詰め寄る。 結衣も現れた。 『そうですよ! 五十三年も経っているのなら何が起こるかわかりません! 軍人としても、軍の所有物を使いいたずらに犠牲者を出すような真似は許せません! 中止を勧告します!』


護は困ったように頭をかいた。 「進藤さんが問題ないというなら心配はいりません。それに、付いていてもらった方が事故が起きにくいのも事実です」 「あー、進藤さんは言い出したら聞かないからなぁ。それで流されちまうのは確かに隊長としてはどうかと思うけど、それでも任せるしかないよな護」 高野も苦笑する。


「まあ、うん。情けないけど仕方ないよな。それに一番エンジンについて詳しいのは進藤さんだから――――」 『! 軍人ではないとはいえ、なんですかその優柔不断な物言いは! 「隊」を預かる者としての自覚があるのですか!?』


「護、なら私も進藤のところへ行かせてくれ。万が一の時は運び出して治療せねばならないだろう?」 戸賀が止める。 「気持ちは分かるけど、広瀬が行っても爆発したら一緒よ? 万が一を思うのなら、外で待機していつでも動けるようにしなさい。それにね……進藤さんのことも信じてあげてくれないかしら?」


結衣は言葉を失った。 (無用な危険行為を許し、人命を危機に晒すのが信頼関係だと言うのですか? 合理的な思考には思えないのに、なぜだろう……胸に棘が刺さるような思いがする)


「進藤先輩を信じるっすよ! あの人はすごい人なんすから!」 井上が親指を立てた。 「……あんたはしっかり避難する気でいるのね、井上」 「先輩を信じてますし、まだ死にたくないっすから!」 「「正直だなぁ!」」


進藤を残し、護たちは船から距離を取った。 「こちらは出来る限り離れました。大丈夫ですか……進藤さん?」 『ああ、任せろ……すまんな、我儘を言った。だがこればっかりは譲れん。後で懲罰にでもなんでもしてくれて構わん』


「なかったコトにする案件もそこそこありますから、ちゃんと成功すればチャラですよ? それにみんな、けっこうワガママ言ったり勝手をしてますから! 進藤さんだけ咎めたりなんてできませんよ……」


(護、単独行動の件、まだ怒ってるかなぁ……あとでちゃんと謝ろう)中村が縮こまる。 (筆頭は松浦だな。率先してバカやるんだから、あいつもたいがいキザだよな)高野が思う。 (隊長としては失格だけどね。それを支えるのも部下としての役目……でも、もうちょっとしっかりして欲しいわね、広瀬が可哀想だわ)戸賀がため息をつく。 (進藤……無事でいろよ。そうじゃなくても死んでなければなんとかしてやるからな)広瀬が拳を握る。


『点火するぞ!』


ドォォォォォン!!


エンジンが咆哮を上げた。 轟音が無線を通じて響き渡る。53年の眠りから覚めた巨人の産声だ。


『どうだ? いい音だろう? こいつは、いじり甲斐がありそうだ!』


進藤の大笑いが響く。 隊員たちは「うるさい!」と笑いながら、一斉に宇宙服のボリュームを絞るのだった。

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