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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第二十七話 侵入者の正体

山城歴157年。未探査宙域・戦場の墓場。 逆巻市出発から12日目・午前。


警備船『クリュ』船内。 情報処理担当の河原正樹は、右舷端末にかじりついていた。 各所から送られてくる閃光型駆逐艦の膨大なデータを解析しなければならない。 古い上に破損だらけの軍艦は、旅客機ベースのクリュとは勝手が違いすぎる。


「早く早く! 本来なら数日かける仕事だぞこれ……。ここで不備があったら動かすどころじゃないのに、古すぎて規格が合わない! 輝一君に代わってもらえばよかったかなぁ」


悲鳴を上げる河原の隣に、相葉美菜が座った。 「私もお手伝いしますね、河原さん」 「相葉ちゃん出来るの? 助かるけど、大丈夫かい?」 「宇宙船に必要なことは一通り学んでいます。……はい、これならきっと大丈夫です。こちらにデータを送っていただけますか?」


相葉の手がキーボードを走る。その速度と正確さは、専門職である河原も舌を巻くほどだ。 「はー、輝一君も驚くほど優秀だったけど、君ら五人はホント多才だなぁ」 「先生が良かったんです……速川兄さん……元気かなぁ」


(速川? まさか、あの速川か? 悪質なハッカー集団を壊滅させた余勢で、裏でロボット違法パーツを売買してた組織まで根絶やしにしたっていう伝説の……? いや、それはないだろ。松浦くんはともかく、みんな大人しくていい子だし……)


河原が冷や汗をかいていると、コックピットから松浦の声が飛んできた。 「二人共、簡単な仕事ならこちらに回せ。退屈でならん」 「了解、助かるよ副長」


船内は静かだ。 真希も、拾ったドローンも今は姿を消している。 響くのは、古めかしいボタン式コンソールを叩く音だけ。 この船の古い設備は、かつての敵機からの電子妨害を受け付けないという利点があった。皮肉なものだ。


それから一時間後。 閃光型駆逐艦での調査も大詰めを迎えていた。 結論は、「動く」。 ……動いて欲しいという願望込みの予測だが、隊長以下全員が承認した以上、やるしかない。


「穴の開いた外壁は鉄板を貼り付けて詰め物をする! 切断されたケーブルは繋いでテープで巻け!」 「エンジンと燃料は無傷だ! 衝撃で電源が落ちただけの可能性が高い!」 進藤が太鼓判を押す。


ブリッジもボロボロだが、穴さえ塞げば気密は確保できそうだ。 死んでいた端末の代わりに、クリュから持ち出した窓口用端末を強引に接続する。 御堂が古いシステムをハッキングし、使用可能にしていく。


「護、準備できたけど、いいか?」 「ああ、時間もないしな。やろう輝一。メインの電源は入れられるか?」 「ここからだと……中村の姉御がいる位置にメインの配電盤があるみたいだなぁ。姉御、そのへん探ってみてくれ」


「わかるわかる、これでしょ? ほいよ」 中村美咲が軽い調子でスイッチを入れた。 「いや姉御! まず返事を……まあいいか」 「いや、いいわけがあるか!」 護が慌てて叫ぶ。 「全員に通達! 電源が入るぞ! むき出しの配線で感電しないように警戒しろ!」


バチッ! ブゥン……。 艦内に血が巡るように、電力が供給されていく。 幸い、ブレーカーが過電流を防ぎ、順序よくシステムが再起動していく。


護がブリッジに入ったその時。 光が集まり、立体映像が浮かび上がった。 女性用士官服を着た、若い女性の姿だ。


(ミニスカート!) (かわいい系の美人だなぁ。婆ちゃんに似てるか?) (ロングヘアー! 可愛い! 人間だったらミナみたいに髪を梳いてあげたいわね) (古い軍服か。やはり戦争期のままなのだな……ただ帽子は似合ってるな)


隊員たちがそれぞれの感想を抱く中、彼女――モデルAIが口を開いた。


『――――あなた達は何者ですか? ここはどこでしょう? ……この様子では、私は戦いに敗れ捕虜となったのですね……』 「いえ、そうではありません。話を聞いていただけ――――」


『私は要塞逆巻の駐留軍所属、モデルAI、結衣ゆい大尉です。身分と名前しかお話できません。ですので話し込むのも無駄というもの、速やかに解体されることをおすすめします!』


取り付く島もない。 「こちらにはあなたを捕虜にするつもりはありません。こちらは逆巻市に設立された特別警備隊、御影警備隊です。私は隊長の御影護といいます」


『――――逆巻……市?』 結衣が眉をひそめる。 『データベースにはアクセスできていませんが、私の記憶領域にある地名データに、そんな市は存在しません。やはり地球の市か、架空の市なのですね! 私は騙されませんよ!』


御堂がため息交じりに言った。 「落ち着いてよ、結衣ちゃん? 今この艦のデータベースに繋ぐから。まあ確かにそこにも逆巻市はないだろうけど、それを踏まえて説明するから」


『なんと馴れ馴れしい! 敵とはいえ、軍人がそんな軟弱な態度をしてどうします! そんな陳腐な侮りでAI相手に屈辱を与えようなどと、恥ずかしくはないのですか? 平時には人の鑑とならなければならないのが軍人です、それを――――』


(あっ、この怒り方は出会った頃の婆ちゃんそっくりだな) (うわー、なんだよ婆ちゃんと同タイプのヒトか? しかもあのヒトの説教は今でも長いんだよなぁ) (なんか護がミナを叱ってる時とちょっと似てるわね)


護たちが既視感を覚える中、広瀬が一歩前に出た。


「結衣さんとやら。私は警備隊の救護班、広瀬だ。少し落ち着いてくれ」 『……?』 「状況を把握しないと分かるものも分からない。今のあなたは人間でいう重症の患者と同じだ。慌てて何かされては傷にも障るだろうし、どうせ説教するにしても、抗うにしても、自分なりに情報の整理をしてからでも、いいのではないか?」


結衣は広瀬をじっと見つめ、小さく息を吐いた。 『……わかりました。どちらにしても、こちらから話せることは伝えましたよ……』


(位置計算のために観測していた星の動きからでも、時間が経っていることはわかる。……けれど今の精度では正確ではない。彼らを敵ではないと保証できる材料がない内は、何も言えない……)


護たちは、彼女が納得しなくても作業を進めるつもりだった。 御堂の手により、AIへの暴走対策プロテクトは既に施されている。かつてのように乗っ取られる心配はない。


もしこのまま、彼女が納得しなかったとしても、この艦を強制的に接収し、逆巻港へ連れて帰る。 それは彼女を捕虜とし、利用するのと何ら変わらない。


時間をかければ、何も問題なく帰ることはできる。 だが、期限内に成果を持ち帰り、任務を完遂するという「条件」を満たすためには、これしか方法がない。 まるで強盗のような行いだと自覚しながらも、彼らは手を動かし続けた。

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