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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第二十六話 殊勲艦

  山城歴157年。未探査宙域・戦場の墓場。 逆巻市出発から12日目・早朝。


妨害電波の先に隠されていたのは、おびただしい数の残骸と、眠れる艦隊だった。 潮流の影響で流れ着いた、かつての激戦の記憶。


「気味が悪いとは思うが、どう考えても宝の山だな護」 松浦が呟く。 「ああ。戦争マニアの好事家が涎を垂らしそうな代物がいくらでもありそうだ」 「お宝っす! 古いパーツ、古い設備、古い――――」 「凄い、凄いよ! いつのまにか大冒険しちゃったの私たち?」


井上と中村がはしゃぐ横で、戸賀が現実的な指摘をする。 「うーん、理解ってると思うけどこれはもう、個人の手に余るわ。市に連絡して指示を仰がないと」 「「えー!?」」 「いやいや、あんな物を俺たちだけでどうしようと? ……でもやったな。使えるスラスターを急いで探そう」


護が皆を見回した。 「松浦、悪いがもうしばらく操縦を頼む。今から会議をしますから、整備班と情報処理班も一度集まってください」


「分かった。さしあたって一番近くの『閃光型』に寄せるぞ」 松浦が即答して操縦桿を動かす。


「……回収する気を見せすぎだろ、それ」 護は呆れたようにツッコミを入れた。


護は座席室に隊員を集め、緊急会議を開いた。 議題は「期限(今日の23時)までに、どうやって工作艦ごと帰還するか」。 クリュの推力では工作艦の牽引は不可能。救援を呼べば間に合わず、敵対派閥に付け入る隙を与える。


結論は一つ。 「ここに眠る駆逐艦(閃光型)を修理・再起動させ、牽引船として使う」


「まともにやっても間に合わないからな。かといって放置も出来ないとなれば、やるしかない」 高野が腕をまくる。 「俺も船外作業のライセンスのおかげで引率くらい出来るからな」


「いや高野くん、それそんな生易しいライセンスじゃないからね」 河原がやれやれといった様子で訂正した。


「閃光型に移乗して調べる。河原さんはクリュから全体のサポートをお願いします」 「了解した。でも本当に動くと思うかい、隊長?」 「うーん……ここだけの話ですが、私も動かしてみたいと思ってしまって」 「……岬提督の冒険みたいに廃船を修理して大冒険! 良いよね護!」


中村が目を輝かせたが、護は心配そうに声をかけた。 「! 中村さん、その……辛いようなら無理しなくても……」 「大丈夫だよ! そりゃまだ怖いけど、こんな冒険の機会なんてもうないだろうし、後で後悔したくないからね。それにみんながいるから……きっと大丈夫!」


「わかりました。みんなのサポートをお願いします。……じゃあ相葉隊員も残って河原さんと必要な物資を確認してリストアップしてくれ」 「了解しました隊長!」


明石が即席パックを配る。 「みんな今のうちに食事をとってくれ。宇宙服だし簡易なもので申し訳ないが。無理にとは言わないけど、急ぐ人には携帯用のレーションを配るよ」 「「明石さん、ありがたくいただきます」」


食事を摂りながら、護は広瀬の様子を伺った。 落ち着いているように見えるが、どこか元気がない。 敵工作艦での一件に加え、この墓場には無数の戦死者が眠っている可能性がある。感受性の強い彼女が心配だった。


「広瀬さんは――――」 「私は大丈夫だ。少しでも慣れておきたいし、調査に参加してもいいか? それとも怪我人に備えて待機するか?」


ヘルメット越しの笑顔は、少し引きつっているようにも見えた。 (なにかを我慢をしている。でも、何かをさせた方が気が楽かもしれない)


護は決断した。 「では、作業をお願いします。戸賀艦長代理についてブリッジ周りの調査ですね。なにかあっても姉さんと一緒にいれば安心ですし、救急セットも持っていってくださいね」 「わかった。足を引っ張らないようにするからな」


調査開始から三十分。 作業は順調に進んでいた。当初懸念された井上と中村も、恐怖より好奇心が勝っているようで、無線からは楽しげな声が聞こえてくる。


『……このパーツは六十年前のモデルっす! レアメタルが使われてもう手に入らない一品……! これ、これっすよ俺が探してたのは! 素晴らしいっす!』 『調査をせんか井上! いじくって後で不備が起こったら、ただじゃおかんからな!』 『進藤さん! オープン回線で声デカすぎだぜ! 抑えてくれよ!』 『「お前もな!」』


『輝一! もう、ほらさっさと次行こうよ!』 『中村の姉御~調査はもっと慎重に――――』 『――――数十年人の手が入っていない軍船、まさにダンジョン! これは燃えるわ!』


護は単独で外壁の調査をしていた。 クリュからは死角になる左側面と船底を撮影し、気密性をチェックしていく。


「これが……あの有名な『閃光型』か」


駆逐艦・閃光せんこう型。 星間戦争末期、要塞「逆巻」防衛のために開発された決戦兵器だ。 ベースとなった「光輝型」や武装強化版の「陽光型」とは一線を画し、貴重な結晶体やレアメタルを惜しみなく投入してレーザー兵器に特化させた高級機。 接近・中距離戦闘を得意とし、たった十数隻で敵の大艦隊を翻弄した伝説の艦である。


しかし、その素材の貴重さゆえに建造数はわずか二十隻。 激戦区・逆巻に送られた十六隻のうち、五隻が大破・喪失。 戦局が悪化する中、残り十一隻の閃光型に搭載されたモデルAIたちは、ある決断を下し駐留軍本部へ計画書を提出した。


それは「ゲートへの特攻作戦」。 しかも彼女たちは、作戦が受理される前から整備作業者に頼み込み、疲弊していた二隻からパーツを取り外し、残りの九隻に装備を集中させて準備を整えていたのだ。


そして、受理がなされるや否や、全乗組員を強制退艦させ、システムを掌握。 AIだけでゲートへの特攻を敢行した。


ゲート破壊には成功したが、全ての艦の信号は途絶えた。 敵に撃滅されたか、亜空間の波に飲み込まれて消滅したと思われていた。


「ゲート付近は今でも潮流が激しくて近づけない。……まさか、こんなところに流れ着いていたとはな」


護は船体を撫でた。 傷だらけの装甲。焼け焦げた砲塔。 仲間を犠牲にしてまで任務を遂行しようとした、壮絶な覚悟の跡。 だが、そのフォルムは今もなお美しい。


これは紛れもなく、かつて逆巻を守り、散っていった「殊勲艦」の姿だった。


「……眠っているところ悪いが、もうひと働き頼むぞ」


護は祈るように呟き、次のチェックポイントへと向かった。 期限まで、あと十数時間。

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