表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
27/96

第二十五話 墓守

 山城歴157年。未探査宙域・工作艦停留ポイント。 逆巻市出発から12日目。


御影警備隊は、衛星修理のために外に出していた物資と、捕獲したドローンを回収し、工作艦が待つ場所へ戻ってきた。 松浦副長が念入りにスキャンを行うが、敵艦に武装復帰や逃亡の兆候はない。


『お帰りをお待ちしておりました。では改めまして……降伏勧告を受諾致しました、工作艦AR-70・四番艦は捕虜としてあなた方の指揮下に入ります』 丁寧な男の声が響く。 『私は管理AI「バル」と申します。よろしくお願い申し上げます』


「……こちらは御影警備隊隊長、御影護だ。降伏を正式に受諾する」 護の声は硬い。無理もない。殺されかけたのだ。


「護、そう怒るな。こいつの事情がわからんことには始まらん。そこまで気が立っているのなら……そうだな、帰ったら決着をつけよう。いつもの場所で――――」 松浦が空気を変えようと軽口を叩く。 「……はぁ。そうだな、みんな無事だしな。こいつも手柄として役に立ってもらおう。……それと、疲れてるからお前との野良試合はお断りだ」


護がため息をつくと、バルが申し訳無さそうに続けた。 『お怒りはごもっともです。私が解体されるのは構いませんが、その前にどこかで乗員(遺体)を受け入れていただけないでしょうか? 私が降伏したのもそのためなのです』 「まだ許可が下りない内に解体なんて話にはならないから安心しろ――――」


その時、コックピットのドアが開いた。 「護……こんな時だが頼みがある。少しいいだろうか?」 広瀬理香だ。 「コックピットまで来られるのは珍しいですね。どうしました広瀬さん?」 「……あの艦に乗っている乗組員を、看たい」


護は眉をひそめた。 「……先程聞いた話では、皆すでに……」 「それでも構わないんだ。敵国だった人達だということもわかるが、ただ医者として、ちゃんと看取りたい……」


広瀬の瞳には、強い意志が宿っていた。 護は通信機に向き直る。 「バル、そちらに数名送るが良いか?」 『問題ありません。ただ、そちらが掛けた制限によりこちらからはハッチの開閉を含めアクションを起こせませんのでご了承ください。……私からも是非、彼らを看ていただけるようにお願いします。私には、彼らに触れることもできませんので』


「わかりました、許可します。ただし二名付けますよ。私は整備班と、これからどうやってその船を運ぶかを検討しますので、希望者を募ってください」 「ありがとう、護……」


(俺も行くか……いや、それでまた奇襲を受けたらまずいな) 護は警戒を解かず、船に残ることを選んだ。


広瀬が座席室で希望者を募ると、すぐに手が挙がった。 「私が行きます!」 相葉美菜だ。


「じゃあ、広瀬行こっか?」 当然のように、艦長代理の戸賀美佳も続く。


「すまない二人共」 「俺も行きたいけど、たぶん副長として雑用があると思うんだよねぇ。でもなんかあったら呼んでくれよ?」 高野に見送られ、女性隊員三名が宇宙服で工作艦へ向かう。


広瀬は船外移動が少し苦手だが、相葉が手際よくサポートする。 「すまない。相葉は結構頼りになるんだな、見直したぞ」 「うっ、嬉しいです……任務に入って、初めて褒められたかも……」


戸賀が微笑む。 「そうね。護はあんまり人を褒めたりしないから、後でもう少し褒めるように言っておくわね」 「えっ、えっと、はい……」


工作艦のエアロックを強制開放し、ブリッジへ入る。 そこは、時が止まったような空間だった。 各種機材が散乱する中、急造されたベッドが並び、保護具の下で遺体が眠りについている。 隣には生命維持装置が置かれており、最期まで彼らを救おうとした痕跡が見て取れた。


「生命維持も遺体の保持もドローンで行ったか。苦労しただろうな」 『はい。修理用のパーツを見つけるのが大変でしたが、ここは漂着物が多くて助かりました。ここを拠点に出来て本当によかった』 「漂着物?」 戸賀が反応する。 『流れてくる電波を解読しておりましたが、そちらでは「亜空間潮流」と呼ぶそうですね。それに乗って時折流されてくる廃品が留まる場所が、近くに存在します』


「数十隻単位の戦闘が何十回と繰り返されてた激戦区だから、デブリが大量に出て当然よね。……その場所、教えてもらえるかしら? あと、もしかして戦闘の映像記録とかある?」 『はい、ございますよ。この艦は戦闘支援や簡易拠点設営が任務でしたので、記録は豊富です』 「あとで隊長の許可がでたらコピーさせてね。弟とか松浦とか、男の子が喜びそうだわ。……あれ? 広瀬?」


広瀬は静かに作業を開始していた。 出来ることは限られている。周囲を綺麗に整頓し、機器をチェックし、遺体の状態を確認する程度だ。 三人は協力し、ありあわせの材料で彼らの宗教に沿った簡易的な祭壇を作った。 心を込めて仕上げ、最後に祈りを捧げる。


広瀬がぽつりと呟く。 「……降伏してくればよかった、などと言っては失礼だな……」 『そうですね、彼らは喜ばないでしょう。しかし、ありがとうございました。この船の船医は他の戦闘に駆り出されてしまっており、私がドローンに用意させられたのはありあわせの設備だけでしたので』


相葉が優しく言った。 「……それでも、嬉しかったと思いますよ」


戸賀も、広瀬の肩にそっと手を置く。 「そうね。それに広瀬がしたことも……元敵国の人間がやったこととはいえ、きっと分かってくれるわ」


(医者というより葬式屋だな。出来ることなど、もう何もない。……やはり私には合わない) 広瀬は自嘲する。 (私はこんな風に、誰かに誰にも助けて貰えずに死んだりして欲しくないんだ。なら、辛くても今、私に出来ることをするしかないじゃないか)


逃げてきた「死」と向き合い、彼女の中で何かが吹っ切れた。 広瀬は眠る彼らに一礼し、ゆっくりと外へ出た。


一方、クリュでは護たちが頭を抱えていた。 「無理だな。クリュの推力じゃ、このデカブツを小惑星帯の中で牽引するのは危険すぎる」 進藤が唸る。 「工作艦のメインスラスターは松浦が壊しちまったし、予備スラスターも我々が外させた。これじゃ期限までに逆巻港に着かないぞ」


困り果てていると、戸賀たちから連絡が入った。


『こちら戸賀。そちらに戻るわ。……それと護、なんか廃品がたくさん漂着してる場所があるそうよ。一度見てみない?』 「漂着? 潮流からの?」


バルの情報によると、そこから少し離れた場所に、漂着物が溜まる「墓場」があるという。 妨害機器が設置されているため、接近して肉眼で見なければ発見できないらしい。


クリュを動かし、警戒しながら指定ポイントへ向かう。 「解除コードは貰ってあるから、御堂やってみてよ」 「機雷が湧き出てくるんじゃないだろうなぁ……敵方のAIってのはどうも信用ならない。まあとにかく打ってみるか」


御堂が解除コードを送信する。 すると、空間を歪めていた妨害電波が止まり、ステルス用の迷彩シールドが解かれた。 そこには、信じられない光景が広がっていた。


「こりゃ凄い……護! すぐそっちにデータを送るよ!」


おびただしい数の漂流物。 その中には、原型を留めた数隻の駆逐艦、そして戦闘艦の姿があった。 敵味方が入り乱れ、かつての激戦の記憶を封じ込めた、巨大な鉄の墓標たち。


護は息を飲んだ。 「これが……戦争の疵痕か」


ここになら、工作艦を修理するためのスラスターや、あるいはもっと価値のある何かが眠っているかもしれない。 御影警備隊の任務は、まだ終わらない。

 何をどう変えたのかは、ここでは言えませんが直接的な表現を少し避けて変更しています。

 ご迷惑をおかけいたしましたことを、お詫び申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ