第二十三話 合流する警備隊
山城歴157年。未探査宙域・監視衛星。 逆巻市出発から11日目・午後。
護と中村の乗るバイクが到着し、ついに警備船『クリュ』待機班以外の全員が、ここ警備衛星に集結した。 離れていたのはほんの数時間だが、その姿を見た隊員たちは心底安堵した表情を浮かべる。
「みんな、遅くなった。本当に無事だよな?」 「はい、隊長! 相葉、明石、井上、河原、高野、全員無事です!」 「ありがとう姉さん(戸賀)。中村さんも無事だよ」
戸賀が呆れたように言う。 「そこはちゃんと乗りなさいよ、もう! ……あれ? なんで中村はそんな荷物みたいに載ってるの?」 「――――戸賀ちゃん……護が酷いの……。荷物扱いなの……」 「中村さんは今回、自業自得だから仕方ないよなぁ。……護、外すぞ?」 「ああ、頼む。とにかく連れて戻るのが先決だったからなぁ。まあ、うん、申し訳ない」
高野が荷台のバイクを見て呟いた。 「しかし、二人だけこんな物持ち込んでずるいぞ。俺の愛車も載せてくれれば、俺が颯爽と助けに行ったのになぁ」 「!?」
その言葉を聞いた瞬間、補給担当の相葉美菜がビクリと震えた。 彼女の脳裏に、クリュの狭い貨物スペースに荷物を詰め込む際の苦労がフラッシュバックする。高野のバイクを載せるためのスペース計算が、無意識に始まってしまったのだ。 (あの棚を外して……酸素タンクをずらして……いや重量バランスが……)
「ミっ、ミナ! 大丈夫よ! 高野も本気で載せる気なんてないの。あったらいいなって冗談を言ってるだけなんだから落ち着きなさい!」 戸賀が慌てて相葉をなだめ、高野を睨みつける。 「――――そうよね高野!?」
「――――そうですよね……無理……だと思うよ英二くん……」 「ひっ……」
二人の女性(特に相葉ちゃんの虚ろな瞳)からの圧力を感じ、高野は冷や汗をかいた。 「あっ、ああ悪かったよ! 運動器具でも無理させちゃったしごめんな、相葉ちゃん。――――とっ、よし取れた。大丈夫かい中村さん?」
拘束を解かれた中村が、ふらりと立ち上がった。 「うん、大丈夫。……戸賀ちゃん、相葉ちゃん……ちょっと、こっち来て」 「「??」」
二人が近づくと、中村は二人まとめて抱きついた。 「うわーん! 怖かったよう! もうだめかと思ったんだからー!!」 「! 中村落ち着きなさい! もう、こら暴れるな!」 「あわわ! 中村さん大丈夫?」
男性陣は(まあ大丈夫だろう)と見て見ぬふりを決め込み、無線チャンネルを切り替えた。
「それで、井上さんは? 取り乱してるって一体?」 「いやーあの人、衛星の修理中はテキパキとやって、古いパーツを見つける度ニヤニヤしてたんだけど、終わった途端に怖がりだしてさ」 「声を掛けてやってくれ隊長。水も飲もうとしないから、ちょっと心配なんだよ」
護は衛星の椅子に座り込んでいる井上の元へ向かった。 「井上さん、大丈夫ですか?」 「た、隊長……待ってたっす……帰れるんすか? 帰れるんすよね?」 「はい。井上さんが衛星を修理してくれたおかげで、クリュが戻ってきたらすぐに帰れますよ。安心してください」 「うう……よかった、よかったっす……」
(そんなに怖かったのかな? これは除隊してもらうことを考えた方がよさそうだ。中村さんもそうだが、無理強いしてしまった責任がある……)
護が悩みかけたその時、高野の声が響いた。 『護ー! 中村がお宝(結晶)を開いて見せたいから来てくれってー!』
「おっ、お宝!? ローンが払えるっす!!」
井上が急に覚醒した。 椅子のベルトを瞬く間に外し、見事な遊泳技術でみんな(お宝)の方へすっ飛んでいく。 「……うん。今は大丈夫そうだな」 護は苦笑して後を追った。
しかし、予想よりも早く『クリュ』が到着し、井上と中村を落胆させる。 「早く見せたかったのに」 「早く見たかったのに」 「――――船に乗ってからでいいでしょ! それの除染も忘れないでよね? まったく泣いたり騒いだり、二人して忙しいんだから! もう」
戸賀が二人を急かす。 「中村さんと、井上さんが元気になって、よかった」 相葉が微笑むが、明石は複雑そうだ。 「――――相葉くん……もう、井上くんの心配はあまり……いや……なんでもない」
(あっ、中村さんに『落とし物を拾った』って伝言を伝え忘れたけど、仕方ないか! 松浦がこんなに早く帰ってくるとは思わなかったしな~) 高野は一人、呑気に考えていた。
隊員たちは一度船へと乗り込むが、置き去りの物資を回収するため、まだ空気は入れられない。 クリュが物資に近づく間、船内放送で打ち合わせが始まる。
『みなさん! 無事のお帰りを信じお待ち申し上げておりましたよ』 真希の声が響く。 「聞いてないっす、帰りたいっす。事故が起きてるんだから放置しても、いいじゃないっすか」 「勿体ないじゃない? あんたは出なくていいから文句言わないの」
『松浦だ。井上隊員、悪いがもうひと仕事してもらうぞ? 50年くらい前の骨董品が待ってるからな』 「! それはアンティークっすね。ああ、嬉しいような悲しいような」
『井上! 貴様、隊に迷惑をかけたそうだな? 南の補給所で付いてくる決断をしておきながら、なんたるざまよ! そこへなおれ!』 機関室から進藤の怒号が飛ぶ。 「せっ、先輩が行ってくれないからじゃないっすか! 勘弁して欲しいっす!」
クリュが荷物へ近づいてハッチが開くと、井上は進藤から逃げるように慌てて外へ飛び出し、荷物運びを開始した。
護が松浦に連絡する。 「んー、後部ハッチも開いてるか松浦?」 『いや、今開ける。……どうかしたのか護?』 「いや、さっきライフルで撃破したドローンなんだが、井上さんの手前悪いんだが、回収したいなと思ってさ」 『そうか、分かった。これが終わったらクリュで行こう。しかし、あれも敵艦から出した運搬用ドローンらしい。狙いは中村と護のバイクだったようだな』
「括ってあるから運びやすいな。何人かは先に後部ハッチへ行ってくれ」 「姉さん、悪いけど俺のバイクを直すの手伝ってくれないか?」 「……役に立ったからいいけど、やっぱりあれ一台でよくない?」
護と戸賀が作業を進める中、河原が戸惑っていた。 「はっ? 隊長、中村の姐御は一体どうしたんだ? なんだか様子が変なんだが?」 見ると、中村美咲が一人でふわふわと漂っている。 「どうも一人で宇宙を遊泳して寂しかったみたいで。すいませんが、河原さんは作業しなくてもいいので付いていてあげてください」 「別にいいけど、それは相葉ちゃんの方がいいような?」 「あの娘ならやる気を出して、もう外よ?」
船内では、広瀬が戻ってきた中村を迎えていた。 「美咲さん大変でしたねぇ、どこも悪くしてませんか?」 「……大丈夫か中村? よかった……必要なら安定剤も処方するぞ? 調剤免許もちゃんともって――――」 「理香ちゃーん怖かったよー!!」 「おお!? こっ、こら揺らすな!」
『こちら御堂、遅れたけどみんなお帰り!』
たった数時間。されど数時間の内に壮絶な経験をした御影警備隊。 ここにきた当初の目的を果たし、これから残務処理に移る。
しかし、日にちはすでに期限の十二日目を迎えようとしていた




