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 元軍港だった逆巻港の今  作者: RED DOG
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第二十話 感情を鎮めて

  山城歴157年。未探査宙域・監視衛星付近。 逆巻市出発から11日目・午後。


単独行動した中村美咲を追いかけ、護はバイクを走らせていた。 通信は繋がらない。先程のドローンの妨害か、あるいは潮流の影響か。 頼みの綱は、中村の宇宙服から発せられる微弱な救難信号のみ。


「動いてる……衛星の方に」


信号の位置が移動していることを確認し、護はスロットルを開けた。 中村は逃げながら移動したため、結晶があった位置からはかなり離れてしまっている。 だが、追いつける距離だ。


「――――バイクの推進剤もまだいける。酸素残量も、計算上はまだ大丈夫なはずだ。――――頼むぞ松浦、高野、姉さん」


自らに言い聞かせるように呟き、仲間たちの無事を祈りながら、護は暗黒の宇宙を駆け抜けた。


一方、中村美咲は限界を迎えていた。 宇宙服のガイドに従い、衛星への帰還ルートを辿っているが、心の中では様々な感情が溢れ出していた。


「――――大丈夫だよ、餓死なんてしないって、食べてきたし! ……その前に酸素が尽きるから――――心配しないで、これは睡眠不足からくる心のズレだから、着いたらちゃんと寝るよ?」


誰に言うでもない独り言が口をついて出る。 「あーでも結晶見せたらみんな驚くだろうなぁ。折っちゃったのは黙っていよう。その前に隊長の護からきっと単独行動のお叱りがあるね! いっつも松浦に怒ってるみたいにガミガミ言われるのかぁ……」


不意に、涙が滲んだ。 「あいつ、私には敬語使うのに、戸賀ちゃんだけタメ口で姉さんなんて呼んじゃってさ……気に入らなかったんだよね……」


同じことを三度繰り返したところで、彼女の涙腺は決壊した。


「――――護……みんな、誰でもいいから返事をしてよ……! 勝手なことしたことも、ちゃんと謝るから……怖いよぉ……」


そこで、プツンとブレーカーが落ちるように、彼女の意識は途切れた。 短時間ながら襲われ、逃げ回り、罪悪感と孤独に苛まれた心は、限界に達してしまったのだ。 それでも彼女の体は、宇宙服のオートパイロット機能により、ゆっくりとだが確実に衛星へと向かっていた。


それからしばらくして。 護のバイクのセンサーが、漂流する中村を捉えた。 ぐったりとした様子に心臓が凍りつく。 慌てて宇宙服同士を接触させ、バイタルを確認する。


『生存確認。心拍、安定』


「……っ」 護は目を閉じ、湧き上がる安堵の感情を必死に押し殺した。 泣いている場合ではない。まだ終わっていないのだ。


隊長権限で中村の宇宙服を制御下に置き、バイクの予備酸素供給装置を接続する。 酸素残量はまだ余裕があったが、とにかく何か処置をしておきたかった。 中村の体を荷物用ベルトでバイクの後部に固定し、自分の体も固定する。


深呼吸。 周囲を伺うが、ドローンの気配はない。 だが、胸騒ぎが消えない。通信がいまだに回復しないのも不気味だ。


「そこまで遠くもないのに……潮流の影響にしても、ここまで通信が途絶するか?」


考えても答えは出ない。 護は再びバイクを走らせた。 まだ何も解決はしていないが、今はただ、背中の温もり(仲間の無事)を早く皆に伝えたい一心だった。


その頃、衛星修理班(井上、高野、河原)と、資材配送班(戸賀、相葉、明石)は合流を果たしていた。


衛星の外壁に設置された作業用フックに体を固定し、携帯型酸素発生装置を囲んで休憩を取る。 足が何かに接地しているという感覚は、精神的な安定をもたらす。 心配性の戸賀も、経験の浅い明石も、なんとか平静を保っていた。


だが一人、平静でない者がいた。 「冗談じゃないっすよ! 怖いっす! やっぱり進藤先輩に代わってもらえばよかったぁー!」 井上高志だ。


「いっ、井上さん大丈夫ですから、私がついてます!」 相葉美菜が胸を張ってアピールするが、頼りないことこの上ない。 「えっと、井上くん落ち着こうか? きっと後で恥ずかしくなるから今は抑えた方が……」 明石が諭すが効果はない。


「――――だから宇宙船から離れるのは嫌だったのに! まだあの車乗り回してないのに死にたくないっす!」 「ところで修理は終わったの? 慌てるにしても怖がるにしても、それからのほうがいいんじゃない?」 戸賀が冷たく言い放つ。 「うう、冷たい……艦長代理が冷たいっす……」


「あのねぇ、攻撃を受けていたとしたら、それで死んでるかもしれないのよ? 今騒いでも何にも解決しないんだから、しっかりしなさい!」 河原がとりなすように言った。 「さっき終わったみたいだから今チェックしてるよ。これで通電すれば、衛星の通信機能を使って救援も呼べるだろうね」


戸賀がため息交じりに言う。 「状況がわからないから、隊長権限がないとあまりやりたくないわね。必要だったかどうかの査定で危険度Cランク以下なら、自腹での請求も検討されるわ。私はそんなにお金持ってないわよ……」


戸賀の言葉を聞いて、高野が腕を組む。 「ただ襲われたって言っても俺らは警備隊だからなぁ。どのくらいの脅威かがわからないとやり難いのは確かだな。まあ、誰かと連絡がついてからでもいいだろ? クリュさえ無事なら、まだなんとでもなるしな」


井上がジト目で見る。 「どう転んでも借金まみれの人は気楽でいいっすね……。俺にも逆巻市からお金を借りる方法を教えて欲しいっす」 「はい、では井上さんだけにお教えしましょう! まず、未成年の内にトラブルを起こします!」 「はぁ……アホな事言ってないで、もう少し静かに待てないの?」


明石が給水パックを配りながら場を収める。 「まあ、みんな落ち着こう。俺達の隊長は若いがきっと凄い人だし、松浦くんも只者じゃない。それに補給所で下りなかったんだから、その……がんばろう」


待つ側にも大きな負担を強いる、過酷な無重力の世界。 だが、彼らの信頼通り、事態は少しずつ好転しようとしていた。 遠くの闇の中から、一台のバイクがこちらへ向かってきていることを、彼らはまだ知らない。

 追記、

    この話の青年(後期)を25歳前後まで、という設定にしてあります。

     

    違和感を感じられていたら申し訳ありません。

   

    二十話って書かなきゃいけないのに寝ぼけて二〇って書いてました、ツラい……

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